広視野高解像赤外線観測装置 ULTIMATE-Subaru
Ultra-wide Laser Tomographic Imager and MOS with AO for Transcendent Exploration
現在の宇宙には、性質・スケールともに多種多様な天体・構造が存在します。
なかでも「銀河」は宇宙のもっとも基本的な構成要素といってもよいでしょう。私たち自身も、銀河系(天の川銀河)とよばれる銀河の中に住んでいます。これらの銀河はいつ、どこで生まれ、その後どのような進化(成長)を辿ってきたのでしょうか。銀河の歴史は古く、宇宙が誕生して5億年以内(今から 130 億年以上前)には最初の銀河が生まれていたと考えられています。宇宙は膨張しているため、遠方宇宙(すなわち過去の宇宙)からやってくる光は波長が伸びて地球に届きます。初期宇宙の探査で鍵を握るのが、赤外線での観測です。
2020年代のすばる望遠鏡は、2010年代にほとんど探査が進まなかった、ビッグバンから5億年以内の初期宇宙を赤外線で観測し、銀河誕生の謎に迫ります。さらに可視光での観測とあわせて銀河誕生と成長のドラマ、そして銀河活動の終焉を司る物理過程を解明する、言うなれば「銀河のゆりかごから墓場まで」を明らかにします。
×
ULTIMATE-Subaru、PFS、HSCを組み合わせた宇宙探査。ULTIMATE-ULTIMATE-Subaru、PFS、HSC を組み合わせた宇宙探査。ULTIMATE-Subaru を用いて、宇宙誕生後5億年以内の銀河幼年期、銀河の成長期(宇宙誕生後 20 ~ 40 億年)を探査して、銀河の形成と形態獲得の歴史を明らかにします。HSC、PFS を駆使して成長期から成熟期に至る銀河探査を行い、さらに ULTIMATE-Subaru で近傍銀河の広視野高解像観測を行って、銀河の成熟過程を解明します。
130 億年以上前から現在の宇宙
(1)銀河誕生期:ビッグバンから5億年以内の宇宙を、ULTIMATE-Subaru を用いて赤外線で広域探査し、初代銀河の候補を検出、さらにその特徴に迫ります。また、10億年ほど経った宇宙をHSCとPFSで詳細に探査し、初期宇宙の大規模構造や銀河の性質を未だかつてない統計精度で明らかにします。
(2)銀河成長期:宇宙の星形成活動が最も盛んだったと考えられる、ビッグバンから 20 〜 40 億年後の宇宙の銀河を ULTIMATE-Subaru を用いて高解像度撮像し、現在の銀河が持つ形態(渦巻・楕円など)が獲得された歴史を紐解きます。さらに、銀河形態と密接に関係があると思われる銀河内外のガスの様子をPFSが明らかにします。
(3)銀河成熟期:ビッグバンから 40 〜 70 億年後の宇宙に存在する多数の銀河を PFS で大規模に分光観測し、個々の銀河の性質を様々な角度から詳細に分析することで、宇宙の構造形成史と銀河の進化史の関係を明らかにします。さらにULTIMATE-Subaruで近傍宇宙の銀河を高解像度撮像することで、銀河を個々の星々や星団、星形成領域にまで分解し、その形成過程をミクロな視点で明らかにします。
宇宙における物質進化を解明するには、宇宙の構造形成と銀河の形成・進化の関係を明らかにする必要があります。すばる2では広天域にわたる可視・赤外線観測によって、ダークマター・銀河・銀河間ガスの相互の関係を洗い出し、膨張宇宙における銀河形成・進化を以下の3つの段階にわたって徹底的に調べます。
(1)銀河誕生期:初代天体の探査
現在の宇宙には性質・スケール共に多種多様な天体・構造が存在します。宇宙が始まって初めて形成された初代星・初代銀河はこれら多様な天体形成史の始まりと言える重要な天体です。これら初代天体は宇宙に最初に重元素を供給する源であり、巨大ブラックホールのタネともなる天体です。しかしながら、初代天体の形成・進化過程は謎に包まれています。
すばる望遠鏡は、これまで宇宙誕生から 10 億年以内に存在した幼年期の銀河を 1,000 個以上発見しており、この時代に活発な星形成が進んでいたことを明らかにしてきました(2019年9月26日すばる望遠鏡観測成果ほか)。これらは主に HSC による成果です。すばる2でも引き続き HSC による探査を続けるとともに、HSC で受かった天体に対して PFS による大規模な分光観測を行い、初期宇宙における大規模構造の形成、さらに極めて高い統計精度で銀河の性質を評価することを目指します。これは他の望遠鏡の追随を許さない、すばるのみでできる研究です。
しかし、さらに遠く、宇宙誕生から5億年以内の探査はほとんど進んでおらず、その時代の銀河は現在までに 10 個程度の候補しか見つかっていません。この時代は、宇宙が中性状態から再び電離した「宇宙再電離」が進んだ時代であり、その原因天体や再電離の進行の様子を明らかにすることが、初期宇宙の進化を知る上で欠かせません。
この時代の銀河からの光は、赤方偏移によりほとんど近赤外線に偏移しているため、ULTIMATE-Subaru を使った広域近赤外線探査を行います。この時代に存在したと想定される、初代銀河の候補を数十個以上発見し、性質を探ります。と同時に、現在は発見天体が少なすぎてまだ得られていない光度関数(銀河の明るさごとの個数密度、つまりどのくらいの明るさの銀河がどのくらいの数存在するか)を求めます。宇宙最初期の光度関数は、銀河の誕生プロセス解明の鍵を握る重要な情報となります。さらに、より大きな構造のタネである、初代銀河群候補を見つけ、宇宙の大規模構造形成の最初期段階の様子を探ります。すばる2で発見される初代銀河候補は、TMT(30 メートル望遠鏡)などの次世代超大型望遠鏡やアルマ望遠鏡による詳細観測のターゲットであり、連携観測によって個々の候補を詳しく観測していきます。
(2)銀河成長期:銀河形態の起源
その後の宇宙の歴史全体において、銀河がどのように形成され進化してきたのか明らかにするのも重要課題です。これまでの観測から、宇宙誕生から 20〜40 億年の間に、宇宙における星形成が最も活発となり、銀河が急成長したことが知られています。この時期に、多くの銀河が現在観測されるような様々な形態(渦巻、楕円など)を獲得したと考えられていますが、その詳細はまだ明らかになっていません。
この銀河の形態獲得の歴史を紐解くため、多角的な研究を行います。銀河の形態は銀河の持つガスが密接に関わっていると考えられるため、この時代の銀河内外のガスを PFS による分光観測で検出し、その性質を詳細に調べます。また、より時間の経った宇宙誕生後の 40〜70 億年に存在した多数の銀河も PFS で分光観測し、銀河の成長を詳細に追いかけ、同時に宇宙の大規模構造を検出することで、銀河の成長と大規模構造の関係も調べます。ここでも HSC によるサーベイ観測で検出された銀河がターゲットとなります。並行して、ULTIMATE-Subaru の高解像度を活かした撮像観測により、宇宙誕生から 20-70 億年の銀河の形態の変化を直接明らかにします。すばるの撮像・分光能力を最大限発揮し、この問題を紐解きます。
(3)銀河成熟期:成熟プロセスの解明
宇宙誕生から 100 億年より後の、より近傍の宇宙では、ULTIMATE-Subaru を使って、一つ一つの銀河を個々の星・ガス雲を識別できるほど高解像度で観測し、銀河の成熟過程を解明します。近傍の銀河は大きく広がって見えますが、ULTIMATE-Subaru の視野は銀河全体をカバーしてこの観測を行うことを可能にします。
(4)我々の銀河系
我々の住む銀河系は、成熟期を迎えた銀河のひとつとして、もっとも詳細に探査することができます。中心領域を広域観測し、重力マイクロレンズ効果を利用してブラックホールを探査し、銀河系におけるブラックホールの個数、質量、空間分布を解明します。
すばる2で解き明かす、銀河形成・進化史。赤外線と可視光観測で、宇宙の複数の時代(距離)を網羅します。