東北大学および国立天文台の研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡の補償光学装置と特殊なフィルターを駆使した新しい観測手法によって、遠方の星形成銀河が成長する様子を直接捉えることに成功しました (図1)。110 億年前の宇宙にある銀河の内部を高解像度で観測し、銀河にある星形成領域が星の分布よりも外側まで広がっていることを明らかにしました。今後この手法を用いてより多くの銀河を観測することで、宇宙初期の銀河の構造の進化、さらにはそれを引き起こす物理過程の解明につながると期待されます。
研究グループは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線カメラ IRCS と補償光学装置 AO188 を用いて、およそ110億年前 (赤方偏移 z = 2.5) の宇宙の原始銀河団にある星形成銀河に対して高解像度の観測を行いました。この研究では、地球大気の影響による像の「ボケ」を補正する補償光学装置と、狭帯域フィルター (一部の波長のみを透過するフィルター) を組み合わせた新しい観測手法によって、銀河内部の星の分布だけではなく、Hα 輝線を放つ星形成領域の分布を 0.2 秒角 (視力 300 相当) という解像度で描き出すことに成功しました (図2)。IRCS の視野内に入る複数の天体を同時に観測できるので、特に銀河が密集した領域を狙った今回の観測では、一度に 11 個もの星形成銀河について星と星形成領域の分布を得ることができました。
研究チームは、観測された 11 個の銀河を二つのグループに分け、各グループについて平均的な星と星形成領域の分布を比較しました。その結果、特に星質量の大きいグループでは、星形成領域が星の分布に対してより広がっていることが分かりました (図3)。このことは、より外側に新しい星を作ることによって、銀河の構造 (星の分布) は内側から外側へと広がっていき、サイズが大きくなっていくということを意味します。銀河同士の相互作用や銀河外縁部のガスの剥ぎ取りといった周辺環境からの影響を受けない孤立した同時代の銀河でも同じ傾向が見られることから、これは銀河の自身の自発的な成長過程をみていると考えられます。およそ 110 億年前では、銀河が高密度で存在する原始銀河団領域であっても、大質量の星形成銀河は、周囲から何らかの影響を受けて進化しているというよりはむしろ、自身の星形成によって主にその構造を成長させていることが示唆されたのです。
今回の研究では、補償光学装置と狭帯域フィルターを用いた撮像観測によって、遠方銀河内部の星形成領域の分布を直接かつ効率的に捉えられることが実証されました。この手法を用いた星形成領域の構造を調べる研究は、すばる望遠鏡の次世代の広視野近赤外線装置として計画が進んでいる ULTIMATE-Subaru が実現した際には、その広い視野を活かしてより大規模に進めることが可能となります。研究チームの鈴木智子さんは「銀河内部の星形成領域の分布は、銀河に働く物理過程を理解する上で鍵となる情報です。より詳細な研究のためには、銀河の平均的な構造を調べるだけではなく、個々の銀河について星形成領域の構造を調べる必要があります。ULTIMATE-Subaru が完成すれば、様々な環境に属するより多くの銀河について個々の構造成長の様子を詳細に捉えることができるようになるでしょう」と期待を寄せています。
この研究成果は天文学誌『Publications of the Astronomical Society of Japan』に掲載予定です (T. L. Suzuki, Y. Minowa, Y. Koyama, T. Kodama, M. Hayashi, R. Shimakawa, I. Tanaka, K.-i. Tadaki, "Extended star-forming region within galaxies in a dense proto-cluster core at z=2.53")。プレプリントはこちらから閲覧可能です。また、この研究成果は、科学研究費補助金 JP18H03717 によるサポートを受けています。