観測成果

遠方宇宙

すばる望遠鏡、塵のベールに包まれた原始銀河団の謎を解く

2021年10月26日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2021年11月23日

国立天文台、東北大学、国立天体物理学研究所 (イタリア)、パリ=サクレー大学 (フランス)、アリゾナ大学 (米国) などの研究者で構成される国際研究チームは、すばる望遠鏡などを用いた観測によって、プランク衛星で見つかった非常に明るいサブミリ波源 (PHzG237.01+42.50) が、約 100 億年前の宇宙にある、塵に覆われた「原始銀河団」であることを突き止めました。

私たちが地球上で町や村を作って暮らすように、銀河も宇宙のあちこちで集団を作ってすごします。「銀河団」とはその名のとおり銀河の集団、すなわち銀河宇宙の大都会です。私たちが暮らす町にもそれぞれ歴史があるように、銀河団もまた宇宙スケールの時間をかけて、周囲の銀河を取り込みながら、より大きな銀河団へと成長します。

天文学では、遠方宇宙の観測によって時間を遡り、宇宙の過去のすがたを調べることができます。たとえば、地球から 10 億光年離れた天体が観測されたら、私たちはその天体を 10 億年前に出た光、すなわち 10 億年前のすがたを見ていることになります。遠方宇宙に見つかる銀河団は「原始銀河団」と呼ばれます。原始銀河団とは、過去の宇宙で銀河が群れ集まる現場、言わば大都市へ成長する前段階の、建設途上の小さな集落のようなものです。近年、遠方宇宙に原始銀河団を探査する研究はさかんに行われてきましたが、その多くは可視光での探査をもとに、銀河の集団を探すものでした。遠方宇宙の探査における可視光観測は、その時代の紫外線を見ていることに対応します (注1)。紫外線は塵によって減光されやすく、大量の塵に覆われた天体を見落としてしまうという欠点があります。

本研究では、新しいアプローチで原始銀河団を探します。研究チームは、生まれたての原始銀河団には、活発に星形成を行う銀河 (星形成銀河) が多数存在し、それらはサブミリ波 (注2) で明るく輝くはずだと考えました。そこで注目したのが、欧州宇宙機関が 2009年に打ち上げたプランク衛星によって得られた全天のサブミリ波マップです。プランク衛星といえば宇宙背景放射の観測が有名ですが、実は、プランク衛星の全天探査では明るいサブミリ波源が多数捉えられていました。そのなかで遠方宇宙に由来すると思われる明るいサブミリ波源を研究チームは選定し、その一つ「PHzG237.01+42.50」領域 (以下、G237 領域) を、すばる望遠鏡などで追観測しました。

すばる望遠鏡、塵のベールに包まれた原始銀河団の謎を解く 図

図1:PHzG237.01+42.50 領域における Hα輝線銀河の分布 (黄色印)。左の画像はハーシェル宇宙望遠鏡の遠赤外線 (350 ミクロン) を赤、スピッツァー宇宙望遠鏡の近赤外線 (3.6 ミクロン) を緑、XMM-Newton 衛星のX線画像を青で表現した三色合成図。黄色の長方形はすばる望遠鏡 MOIRCS の観測視野 (4分角×7分角) を表します。水色の丸印は分光観測で原始銀河団に付随することが確認された天体を示します。右の画像は原始銀河団の中心付近の拡大図で、VISTA 望遠鏡によって撮られたJバンド、Kバンドの画像と、Hα輝線に対応するすばる望遠鏡 MOIRCS の NB2071 フィルターで得られた画像を使って三色合成しています。 (クレジット:ESA/Herschel and XMM-Newton; NASA/Spitzer; NAOJ/Subaru Telescope; Large Binocular Telescope; ESO/VISTA; Polletta et al. 2021; Koyama et al. 2021)

すばる望遠鏡では、近赤外線観測装置 MOIRCS を用いて、星形成銀河が放つ Hα線という水素の再結合線を狙った撮像探査が行われました。その結果、約 100 億年前の宇宙に群れ集まる星形成銀河 38 天体を同定しました。さらに、米国アリゾナ州にある大型双眼望遠鏡 (LBT) を用いた分光観測などによって 31 個の銀河が同定され、原始銀河団の存在が確実となりました。プランク衛星が検出した明るいサブミリ波源に原始銀河団を確認できたのは、初めてのことです。プランク衛星は解像度が低いため、その全天マップから得られていた情報は「そこに明るいサブミリ波源がある」こと、そして「それが遠方宇宙から届いた信号である可能性が高い」ということだけでした。本研究によって初めて、その内部を垣間見ることができたのです。この原始銀河団は、さらに 100 億年の時間をかけて、現在の宇宙に見られる「おとめ座銀河団」のような大きなシステムに成長すると考えられています。

本研究ですばる望遠鏡の観測を主導した小山佑世助教 (国立天文台ハワイ観測所) は、「世界中の研究者がこのような宇宙の明るいサブミリ波源の正体、特に原始銀河団との関係性を解明しようと取り組んでいるなかで、すばる望遠鏡によってその重要な一歩が踏み出せたことを素直に喜びたい」と語ります。一方、研究チームは、今回の研究でたしかに原始銀河団が確認できたものの、同定できた銀河は氷山の一角かもしれないと指摘します。

すばる望遠鏡で同定された銀河の星形成率をすべて積算すると、この原始銀河団全体で一年あたり太陽 1000 個~ 2000 個が生まれる程度と推定されます。この星形成率は、私たちが住む天の川銀河の 1000 倍程度で、非常に大きいものであることは間違いありません。しかし、プランク衛星のサブミリ波データからは、今回得られた値の 5〜10 倍の星形成率が見積もられていました。つまり、この原始銀河団で起きている星形成活動の大半が、塵で隠されていることになります。本研究は、このような塵に覆われた原始銀河団が初期宇宙に無数に存在している可能性を示し、銀河団の進化史解明に向けた大きな一歩となりました。


本研究成果は、『英国王立天文学会誌』 (Koyama et al., "A Planck-selected dusty protocluster at z=2.16 associated with a strong over-density of massive Hα emitting galaxies", 2021年3月1日付)、および、『アスロノミー・アンド・アストロフィジックス』 (Polletta et al., "Spectroscopic observations of PHz G237.01+42.50: a galaxy protocluster at z=2.16 in the Cosmos field", 2021年10月26日付) に掲載されます。また、本研究は科学研究費補助金 (18K13588, 18H03717) によるサポートを受けています。


(注1) 宇宙は膨張しているため、遠方宇宙から届く光は、天体を出発した時点よりも長い波長にシフトした光として観測されます。地球上で可視光として観測される光は、100 億年前に銀河を出発したときには紫外線だった光なのです。

(注2) 波長 0.1 ミリメートル〜1ミリメートル付近の光のことを「サブミリ波」と呼びます。星形成活動がさかんな銀河は、若い星の光で暖められた塵の熱放射によって遠赤外線からサブミリ波で輝くことが知られています。


すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

■関連タグ