すばる2

4つの主力装置

すばる望遠鏡は、可視光において広い視野を高い解像度で観測できる能力を持っています。それを実現しているのが、望遠鏡の一番上にある主焦点に搭載された超広視野主焦点カメラ HSC(Hyper Suprime-Cam;ハイパー・シュプリーム・カム)。加えて2020年代中ごろには、主焦点にすばる超広視野多天体分光器 PFS(Prime Focus Spectrograph;プライム・フォーカス・スペクトログラフ)が搭載されます。赤外線においても、広視野・高解像度での観測を実現する広視野高解像度赤外線観測装置 ULTIMATE-Subaru(アルティメット・すばる)が、2020年代後半に観測を開始する予定です。これらの新たな観測装置により、可視光と赤外線において、かつてない大規模な探査観測を実現します。
太陽系外惑星探索には、それに特化した観測装置が必要です。赤外線ドップラー装置 IRD(InfraRed Doppler;アイ・アール・ディー)を用いて、地球型惑星の探索を進めます。

すばる2の主力装置は、以下の3つの特長を持っています。

1. 主焦点での撮像・分光装置(主に可視光)

該当装置:HSC・PFS

すばる望遠鏡は1999年以来、望遠鏡の一番上にある主焦点にカメラを搭載し、その広い視野を生かして宇宙を探査してきました。口径の大きな望遠鏡ほど、一度に見られる空の領域は狭くなりますが、すばる望遠鏡は主焦点に観測装置を搭載することで広視野を実現しています。2013年には、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる、超広視野主焦点カメラ HSC(Hyper Suprime-Cam)が観測を始め、2014年から2021年には、約 330 夜を使って、HSC で空の広い領域を深く観測する、すばる望遠鏡史上最大の戦略枠観測プログラム「HSC-SSP(Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program)」が進められました。
2020年代中ごろには、すばる超広視野多天体分光器 PFS(Prime Focus Spectrograph)が観測を開始します。PFS は主焦点の強みを生かした多天体分光装置で、一度に約 2400 天体が分光可能となります。PFS の稼働により、可視光分光観測では従来の装置に比べて、視野が 50 倍、同時分光天体数が 20 倍になる予定です。

すばる望遠鏡

2. 広視野・高感度・高解像度を実現する赤外線観測装置

該当装置:ULTIMATE-Subaru

ULTIMATE-Subaru

すばる望遠鏡の広視野観測能力の革命は、可視光波長域にとどまりません。これまで赤外線では、空にレーザービームを照射して人工ガイド星(LGS: Laser Guide Star)を作り、それをモニターすることで大気揺らぎをリアルタイムで補正する「補償光学(AO: Adaptive Optics)」という技術が、すばる望遠鏡の観測を支えています。補償光学は、私たちが地上にいながら宇宙空間に飛び出したかのようなシャープな天体画像を得られる強力な観測技術です。しかしこれまでの技術では、シャープな画像が得られるのは狭い視野範囲に限られるという問題がありました。「高い解像度」と「広い視野」は対極にあるもので、本来は両立しないのです。2020年代後半の完成を目指して開発中の広視野高解像赤外線観測装置「ULTIMATE-Subaru」では、複数のレーザービームを空に放ち、地表近くの大気揺らぎの補正に集中する「地表層補償光学(GLAO: Ground Layer Adaptive Optics)」という技術を搭載して、従来のすばる望遠鏡の補償光学に比べて 200 倍の視野、世界の大型望遠鏡のなかで最大視野の補償光学システムの実現を目指します。

3. 地球型系外惑星探査装置

該当装置:IRD

太陽系外惑星(系外惑星)の探索は、天文学の主力テーマのひとつです。太陽より暗く低温な恒星の周りを回る地球型惑星の検出と、さらにはその中から水が液体でいられる可能性があるハビタブル惑星を探すことを目的とした赤外線ドップラー装置 IRD(InfraRed Doppler)が2018年に観測を始めました。系外惑星の観測法のうち、恒星の「ふらつき」を検出する手法(ドップラー法)は、これまで可視光での観測が主流でした。IRD は赤外線で、恒星のふらつきを人間が歩く速さほどの精度で捉えることができます。この速度決定精度は 2022年現在、8-10 メートル級望遠鏡の赤外線観測装置のなかで最高です。IRD は、惑星探査のみならず、これまで未開拓の低温度恒星自体の性質を調べる上でも重要です。また、系外惑星の直接撮像・分光・偏光観測を可能にする極限補償光学装置 SCExAO(スケックス・エーオー)と CHARIS(カリス)・VAMPIRES(バンパイア)もこの分野の重要な装置です。

IRD

すばる2の主力装置につながる観測装置の変遷

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すばる2を担う4つの主力装置は、これまでの観測装置の流れをくんでいます。特徴別に観測装置の変遷を年表にまとめました。ここに掲載されていない稼働中の装置や終了した装置については、すばる望遠鏡について>観測装置をご覧ください。

観測装置の波長と分光・撮像の関係

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すばる望遠鏡は、可視光から赤外線までカバーする撮像用カメラと分光器をもっています。HSC は主に可視光での撮像用カメラ、PFS は主に可視光での分光装置です。ULTIMATE-Subaru は、赤外線で分光と撮像両方の機能を持っています。IRD は、赤外線での超精密分光(極めて高い波長分解能)に特化した装置です。この図では、1マイクロメートルより短波長を可視光、長波長を赤外線と表示しています。