早稲田大学、国立天文台、東京大学の研究者からなる研究チームは、市民天文学「GALAXY CRUISE」の分類データを活用し、深層学習アルゴリズムを用いて銀河形態の大規模分類を行いました。その結果、すばる望遠鏡が7年かけて構築した画像データベースから、40 万天体に及ぶ渦巻銀河と3万天体ものリング銀河を検出することに成功しました。本成果は、昨年報告された GALAXY CRUISE の分類結果を活用した第一例であり、今後もこのような市民天文学とすばる望遠鏡による共創的研究成果が続々と出てくることが期待されます。
GALAXY CRUISE で市民天文学者が選んだおよそ 900 天体のリング銀河を活用し、AI によってその数を3万天体超に増やすことに成功しました。(クレジット:国立天文台)
私たちの住む地球におけるヒト社会と同様に、宇宙における銀河社会でも、銀河ひとつひとつの姿形や性質はそれぞれ異なっており、その違いも大小さまざまにあります。私たちのいる天の川銀河の他にも多くの銀河があることが、エドウィン・ハッブルによって発見されて以降、こうした銀河の多様性の成り立ち、銀河合体やブラックホール活動との因果関係を明らかにすべく、観測と理論による数多くの研究が長年地道に行われてきました。近年は AI の発展に伴い、かつてない大規模な銀河分類の効率化が実現できる時代に突入し、銀河の大規模分類と多様性の起源の追求は、データ天文学の黎明期を象徴する一大テーマとして躍進が期待されています。
ここ最近は生成 AI が脚光を浴びていますが、天文学では人の目による分類も依然として強力です。その代表例として、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム, HSC)による、大規模画像データを利用した、市民天文学プログラム「GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)」が挙げられます。GALAXY CRUISE では、すばる望遠鏡の世界屈指の視力と HSC の超広視野を用いて得られた高品質画像と、1万人を超える市民天文学者の目による分類が合わさることによって、高精度な銀河の形態分類が実現しました。中でも、銀河衝突・合体など特殊な条件下で形成されるリング構造のような形態もあるため、こうした珍しい兆候の正確な分類には、市民天文学者の慧眼が不可欠でした。
今回、研究チームはこの GALAXY CRUISE から集められた約2万天体分の貴重な分類データを AI に学習させることで、銀河の渦巻き構造とリング構造を検出する AI プログラムを構築しました。これを、HSC による大規模探査(HSC-SSP)の約7年分のデータ(第3期データリリース)に適用することで、およそ 70 万天体に及ぶ銀河の大規模分類が実現しました。その中から、約 40 万天体の渦巻銀河と3万天体超のリング銀河を検出することに成功しました。
特に、銀河全体の5パーセントに満たないリング銀河の大量検出ができたことは、情報の少ないリング構造の成り立ちや性質を統計的に明らかにする上で重要です。研究チームは、リング銀河が、天の川銀河のような成熟した星形成銀河(おもに渦巻銀河)と、星形成活動を終えて衰退する銀河(渦巻のない銀河)との中間的な性質を持つ傾向にあることを発見しました。これはスーパーコンピュータを用いた最新の理論予測とも合致するものであり、銀河のリング構造の理解に向けて一歩前進したと言えます。また本成果は、科学コミュニティにおける市民参加の意義を再認識するものであり、市民天文学者とすばる望遠鏡が協力して切り拓く、未来の天文学研究に向けた新たな一歩となるでしょう。
本研究の主著者である嶋川里澄准教授(早稲田大学)は「AI を使った分類は 70 万天体でも1時間にも満たないですが、GALAXYCRUISE が2年以上かけて集めた分類データがなければ本研究は実現しておらず、当プロジェクトに参加された市民天文学者の皆様には感謝の念に堪えません。これから市民天文学者との協働研究が、国内でさらに盛り上がってくれば非常に面白いと思います」と語ります。
本研究成果は、日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan;PASJ)に 2024年1月29日付で掲載されました(Shimakawa et al. "GALAXY CRUISE: Spiral and ring classifications for bright galaxies at z = 0.01-0.3")。
本研究は、JSPS 科研費 JP22H01270、JP22K14078 の助成を受けたものです。
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。