観測成果

暗黒物質の巣で育つ銀河の雛たち

2005年12月21日


図1:約120億光年彼方の宇宙において、「暗黒物質の塊」の中で育まれる銀河の想像図。青色のもやもやが暗黒物質で、密度が高い所ほど、青白い色にしてあります。この青白いところが「暗黒物質の塊」で、この中で若い銀河が育まれています。作成:石川直美、武田隆顕(国立天文台)。 (拡大画像)

 米国宇宙望遠鏡科学研究所、国立天文台、東京大学などからなる研究チームは、すばる望遠鏡を用いて、約120億光年彼方の生まれて間もない銀河が「暗黒物質の塊」の中にある証拠を得ました。さらに、その「暗黒物質の塊」の中には銀河が1個とは限らず、時には複数の銀河が育まれていることが分かりました。この研究により、宇宙初期の時代において、現在の主流である冷たい暗黒物質による銀河形成理論の予言通りに、若い銀河が暗黒物質に包まれていることを、初めて明確に裏付けました。


 暗黒物質とは、望遠鏡で直接観測することのできない、正体不明の物質です。その周りにある星やガスを強い重力で引っぱるため、その存在が知られるようになりました。最近の研究によれば、宇宙にある暗黒物質の総質量は、直接観測できる物質全体の約6倍にもなることが知られています[1]。これほどの量の暗黒物質が宇宙に存在するのなら、宇宙の歴史の中で、銀河の誕生や成長に対して、中心的な役割を担っているはずです。しかし、直接観測できない暗黒物質の様子を、どうすれば調べられるのでしょうか?

 宇宙の中で銀河同士は「群れ」を作っていることが知られています。このような銀河の「群れ方」は重力に大きく支配されており、宇宙の質量の大部分を担っている暗黒物質の影響を色濃く受けているはずです(図1)。 銀河の「群れ方」を詳細に調べれば、暗黒物質がどのように分布しているかもわかるはずです。しかし、銀河がどのように群れているかを調べるためには、たくさんの銀河を観測しなければなりません。特に、生まれて間もない銀河は、見かけ上とても暗いため、これまでたくさん見つけることは非常に困難でした。

 米国宇宙望遠鏡科学研究所の大内正己研究員を中心とする研究チームは、すばる主焦点カメラを用いて得られた、くじら座の方角にあるすばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ(SXDS) 天域の画像[2]を詳しく解析しました。この画像は、満月約5個分に当たる広い範囲に渡って非常に高い感度で観測して得られたものです。3色の可視光の画像から、約120億光年彼方の銀河を約17000個も見つけ出しました。このようにたくさんの若い銀河が見つかったことはかつてなく、その個数はこれまでの研究と比べて約10倍にもおよびます。見つかった銀河の分布を図2に示します。銀河が平均的にどのように群がっているかを視覚化するため、この分布をもとに相関関数(注1) を作りました(図3)。 図3から、次の2つのことが分かりました。

(1) 「銀河同士の距離が約80万光年よりも短い銀河ペアの数が非常に多い。」
(2) 「銀河同士が十分離れている距離においても銀河は強く群れをなしている。」

これら (1) (2) 両方の観測結果は、銀河が「暗黒物質の塊」 (注2) の中に含まれていると考えれば自然に説明できます (注3)。さらに研究チームは、図3にある観測結果を、冷たい暗黒物質モデルに基づく詳細な理論予測 (国立天文台の浜名崇上級研究員らによるもの[3]) と比較しました。その結果、若い銀河が平均して約6千億太陽質量の「暗黒物質の塊」の中にあり、その上複数の若い銀河が1つの「暗黒物質の塊」に入っていることが分かりました。

 これとは独立に、国立天文台の柏川伸成主任研究員を中心とする研究チームも、同じくすばる主焦点カメラによって得られた、かみのけ座「すばるディープフィールド」 (SDF) 天域[#r4]の画像を解析しました。この画像データは満月1個分に相当する広さと、SXDSの視野に比べて1/5ですが、SXDSの画像データよりさらに2倍程度感度が高いものです。研究チームはこの画像から120億光年彼方にある銀河を約5000個 (図4)、及び125億光年彼方にある銀河を約800個探し出しました。またすばる望遠鏡とケック望遠鏡を用いて、これらの銀河の一部を分光観測し、確かに遠方にある生まれたばかりの銀河であることを確認しました。これらの銀河について相関関数を作り、上記の (1) (2) と同様の結果を、独立に見出し、1つの「暗黒物質の塊」の中に複数個の銀河が存在すると考えるのが最も自然である、と結論しました。実際にすばる望遠鏡で撮影されたSDF画像を見ても、生まれたばかりの銀河が狭い領域にいくつか固まって存在している様子が見られます (図5)。 さらに研究チームは、冷たい暗黒物質の揺らぎの成長を理論的に追った高精度数値シミュレーション (京都大学の長島雅裕研究員らによるもの[5]) との比較から、より重い「暗黒物質の塊」ほど、よりたくさんの明るい銀河を内包しており、それが原因となって今回観測されたような相関関数{特に(1) }を作り出すことを明らかにしました (注4) 。

 このようにして、宇宙初期 (注5) の生まれて間もない銀河が「暗黒物質の塊」の中にあり、しかも、1つの「暗黒物質の塊」の中に複数の銀河が存在することを、世界に先駆けて明らかにしました。生まれて間もない銀河は、あたかも雛鳥のように「暗黒物質の塊」という巣の中ですくすく育っていたのです。さらにその巣の中で雛鳥が2、3羽仲良く寄り添っている場合も発見されました。今回の発見は、すばる望遠鏡が得意とする高感度・広域観測によって、生まれて間もない銀河をたくさん見つけ、銀河の分布を詳しく調べることによって初めて可能になったものです。今回の発見の例に留まらず、高感度・広域観測の研究においては、すばる望遠鏡は世界中から注目を浴びており、世界のトップランナーであると言っても良いでしょう

 

図2:(左) すばる望遠鏡で得た、くじら座のSXDS天域の画像。(右) この画像で見つけられた約120億光年彼方にある銀河 (約17000個) の分布。 (拡大画像)

 

図3:約120億光年彼方の銀河が平均的にどのように群がっているかを表したグラフ(相関関数)。 横軸は、銀河同士の距離で、縦軸は、その距離においてどのくらい銀河があるかを意味します。縦軸の値が大きいほど、銀河の群れ方が強い。80万光年より短い距離で銀河が急激に増えていることが分かります (1)。 また、数百万~数千万光年の距離でも銀河が群れていることがわかります (2)。 (拡大画像)

 

図4:すばる望遠鏡で得た、かみのけ座のSDF天域における約120億光年彼方にある銀河の分布。色のついた丸が銀河を表す。銀河の密度の高いところほど赤く、密度の低いところほど青く表示しています。このような非一様な銀河の「群れ方」が、今回詳細に調べられました。 (拡大画像)

 

図5:かたまって存在している約120億光年彼方の銀河(例)。 各段は3つのパネルからなり、同じ銀河の集まりのBバンド(波長0.45ミクロン)、Rバンド(0.65ミクロン)、i’バンド(0.77ミクロン) での画像を示す。1ミクロンは1000分1ミリメートル。120億光年彼方の銀河はi’バンド画像上で黄色丸で囲んだもの。「暗黒物質の塊」は、だいたいこの1つのパネル程度の大きさに相当します。 (拡大画像)

 

 SXDSの成果は、2005年12月20日アストロフィジカル・ジャーナル誌[6]に掲載され、SDFの成果も、2006年2月1日発行の同誌[7]に掲載される予定です。


  • 注1:「相関関数」とは、銀河がどのように群れているかを表したグラフです。 平均的に、銀河からある距離 (横軸) 離れた場所にどのくらいたくさんの銀河があるか (縦軸) を示しています。縦軸が0の値は、銀河がランダムに分布していることに対応します。図3を見ると1億光年くらいの距離まで、縦軸の値が正の値です。これは銀河が1億光年くらいの距離まで群れていることを意味します。

  • 注2:「暗黒物質の塊」は、天文学で「ダークハロー」と呼ばれます。

  • 注3: (1) は今回の研究によって初めて発見された事実です。約80万光年という大きさは、理論モデルに当てはめて考えると、数千億太陽質量の暗黒物質の塊の大きさに対応し、複数個の銀河が暗黒物質の塊
    の中にあるとすれば説明がつきます。 精度はやや劣りますが、同様の結果は、本研究とほぼ同時に発表されており[8,9]、本研究の結果を支持しています。一方、(2) は従来の研究からも示唆されていましたが、銀河の数が少なく、大きな不定性が残ったままでした。本研究により、高い精度で確認することができました。この群れ方の強さは、「暗黒物質の塊」どうしの間のペアに対応するもので、数千億太陽質量くらいの「暗黒物質の塊」を仮定した理論的な予測[10]と合致します。

  • 注4:どうして重い「暗黒物質の塊」に限ってたくさんの銀河を育てているのか? この問いにはまだはっきりとした答えは得られていませんが、銀河同士が衝突と合体を繰り返して成長してきたと考えられている現代の銀河形成シナリオにおいて、このような見える物質と見えない物質の関係が明らかになったことは非常に重要です。このような「1つの暗黒物質の中に複数の銀河が存在する」ことは、成長を終えた現在の銀河でも見られることで、スローンデジタルスカイサーベイ[11]などによる近傍銀河の大規模サンプルによっても報告されています。 現在の宇宙でも大昔の宇宙でもこのような小スケールでの構造の詳細がわかってきたことは特筆すべきことです。

  • 注5120億光年彼方の銀河からの光は、今から120億年前に発せられたもので、137億年前の宇宙誕生から十数億年、現在の宇宙の年齢の約10%の時代に相当します。

  • 参考文献
    [1] Spergel et al. 2003, Astrophysical J. Supplement Series, 148, 175-194

    [2]http://www.naoj.org/Pressrelease/2004/06/01/j_index.html

    [3] Hamana et al. 2004, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 347, 813-823.

    [4]http://www.naoj.org/Pressrelease/2003/03/19/j_index.html
    http://www.naoj.org/Pressrelease/2003/11/05/j_index.html

    [5] Nagashima et al. 2005, Astrophysical J., 634, 26-50
    このシミュレーションの一部は「国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト」http://4d2u.nao.ac.jp/ として動画で見ることができます。

    [6] Ouchi et al. 2005, Astrophysical J., 635, L 117-L 120

    [7] Kashikawa et al. 2006, Astrophysical J., February issue

    [8] Hamana et al., Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Submitted (astro-ph/0508536)

    [9] Lee et al., Astrophysical J. in press (astro-ph/0508090)

    [10] Sheth & Tormen 1999, onthly Notices of the Royal Astronomical Society, 308, 119

    [11] Sloan Digital Sky Survey http://www.sdss.org/
 

 

 

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