観測成果

超巨大コアを持つ灼熱惑星の発見

2005年6月30日


惑星の恒星面通過の想像図 [(c) Lynette Cook]
黒く影になっているのが惑星で、中心星に近く、温度が高いため、惑星大気が流れ出て尾を引いている可能性があります。 (拡大画像)

 国立天文台、神戸大、東工大、サンフランシスコ州立大などの研究者からなる、日米合同観測チームは、国際的観測計画 (N2Kプロジェクト -- 注1) の一環として、すばる望遠鏡やケック望遠鏡などによる観測 (注2) を行ない、すばるによる初の系外惑星 (太陽系外の惑星) を発見しました (注3)。その後、この惑星は超巨大コアを持つ驚愕の惑星であることがわかりました。この発見は、木星のようなガス惑星がどのようにして形成されたのかを決定づけると同時に、新たな大きな謎を投げかけています。


 1995年にぺガサス座51番星で初めて系外惑星が発見されて以来、現在までに150個を越える系外惑星が発見されていますが、一般にそれらの惑星の内部構造を知ることは困難です。最も多用され、今回のすばるの観測でも用いられた、 (惑星の引力による恒星のふらつきを調べる) ドップラー遷移法だけでは、惑星質量と軌道しかわかりません。「例外は、この惑星のようにたまたま軌道面の向きがよくて恒星面通過をおこす場合です。その通過の様子から惑星の直径や密度、コアを持っているかどうか、そして大気の組成まで推定することができるのです。 (N2Kプロジェクトのリーダーのサンフランシスコ州立大・デボラ・フィッシャー博士) 」

 この惑星は、太陽型の恒星 (HD149026) を非常に小さな軌道半径で周回しています (周期は2.87日)。この惑星の質量は土星くらいですが、直径は土星よりひとまわり小さいことがわかりました。つまり密度が高いのです。ピーター・ボーデンハイマー博士 (カリフォルニア大) の計算によると、この密度になるには、この惑星がガスばかりで出来ているのではなく、地球質量の70倍くらいの巨大な固体 (岩石/氷) のコアを持っていなければなりません。「理論家にとって、この惑星の発見はぺガサス座51番星以来の重要なものだ。コア質量は理論的には地球質量の30倍が限界とされていて、木星、土星ではもっと小さい。 (東工大・井田茂博士) 」

惑星 HD149026 b と木星の内部構造の比較
[(c) Greg Laughlin]
中心の濃いグレーの部分が固体のコアを表します。一番薄い色の部分は、水素・ヘリウムのガスで、中間色の部分は水素・ヘリウムが高圧のため金属化しています。HD149026b のコアがいかに大きいかがわかります。

 木星や土星のようなガス惑星の形成理論には2つあります。ガス円盤が直接分裂するというものと、その円盤内で先に形成された岩石や氷のコアに円盤ガスが付け加わるというもの (コア集積モデル) です。アリゾナ・フェアボーン天文台でこの惑星の恒星面通過の検出に成功したグレック・ヘンリー博士 (テネシー州立大) は「この惑星の発見は、コア集積モデルが正しいことを示すだろう。」と語ります。グレック・ラフリン博士 (カリフォルニア大) も「この発見で、ガス惑星形成モデルの雌雄は決しただろう。N2Kメンバーは太平洋を越えてメールで、巨大コアを説明するための、いろんなアイデアを出し合った。」ひとつのアイデアは、 (なんとか常識の範囲内に入る) 地球質量の35倍のコアを持ったガス惑星2つが衝突して大きなコアが残ったというものです。

 「型破りの系外惑星にはなれてきていたが、それにしてもこんな惑星は想定外だった。我々はこのN2Kプロジェクトでもっともっとすごい発見をしていくだろう。そのことによって常識が覆されながら、どうやって惑星系ができるのか、どんな多様な惑星系があるのか、太陽系は一般なのか特殊なのか、というようなことが明らかになっていくと思う。」と、今回のすばる望遠鏡での観測チームのリーダーの佐藤文衛博士 (国立天文台岡山) は今後に向けて意気込みを語っています。

惑星 HD149026 b の想像図
[(c) Greg Laughlin & James Cho]
白い三日月状の部分は中心星の光が当たっているところです。
影の部分も、摂氏1200度というような高温になっていると予想されるため、赤く輝いています。惑星大気の乱流状の模様は、ジェームス・チョウ (カーネギー研究所) によるコンピュータ・シミュレーションの結果を参考にしています。

  論文は米国天文学会誌 "Astrophysical Journal" に発表予定 (注4)。




  • 注1:N2Kプロジェクトとは、日本、アメリカ、チリの天文学者による 系外惑星観測計画で、すばる、ケック、マゼランなどの8メートル以上の 最大口径地上望遠鏡を使って、これまでは観測ができなかった、 新しい2000個の恒星 (Next 2000(2K))を観測して、数十個以上の ホット・ジュピター (軌道半径が小さい系外惑星) を視線速度の ドップラー遷移を使って発見しようとするものです。 数十個以上のホット・ジュピターが見つかれば、確率的に数個の 恒星面通過 (トランジット) するものがあるはずです。 比較的明るい (10等級以下) の恒星なら、恒星面通過の様子から 惑星の内部構造や大気成分などの重大な情報が得られます。そのため、 トランジットのフォローアップ観測の態勢も整えています。 日本側参加メンバーは、佐藤文衛 (国立天文台岡山・研究員), 井田茂 (東工大・助教授),豊田英里 (神戸大・大学院生)。
  • 注2:昨年7,8月に、すばる望遠鏡によって、 HD149026からの光が周期的にドップラー遷移をおこしていることが 観測されました。これは、この恒星が惑星をもっていて、その惑星の 公転の反作用で恒星が周期的に運動していることを示します。 その後のケック望遠鏡によるデータ追加により惑星の軌道が確定しました。 そして、アリゾナ・フェアボーン天文台にて、恒星光の減光が検出され、 この惑星が恒星面通過 (トランジット) することが判明しました。 その減光量から、惑星の断面積が決まり、密度がわかりました。
  • 注3:HD149026はスペクトル型G0IVで、太陽型の恒星。 質量は太陽の1.3倍で、実視等級は8.15等。 惑星の質量は木星の0.36倍 (地球質量の約115倍),半径は木星の0.72倍。 軌道は軌道半径0.046天文単位の円軌道で、視線からの傾きは85度。
  • 注4
    論文タイトル: "The N2K Consorsium. II. A Transiting Hot Saturn Around HD149026 With a Large Dense Core"
    論文著者: Sato, B., D. Fischer, G. Henry, G. Laughlin, P., ..., Shigeru Ida, ..., Eri Toyota, ... (計21名)
    論文掲載予定誌: Astrophysical Journal
 

 

 

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