観測成果

木星の約40倍の質量を持つ若い伴星を発見

2005年2月24日


画像 (72 dpi, 103 KB)

天体名
:おうし座DH星
使用望遠鏡
:すばる望遠鏡 (有効口径8.2m)、カセグレン焦点
使用観測装置
:コロナグラフ撮像装置(CIAO)+波面補償光学装置 (AO)
フィルター
:K(波長2.2マイクロメートル)
観測日時
:世界時2004年1月9日
露出時間
:12分
視野
:縦10秒角、横10秒角
画像の向き
:上が北、左が東
位置
:赤経(J2000)=4h29m42.5s、赤緯(J2000)=+26°32'56" (おうし座)

 国立天文台・神戸大学・東京大学・総合研究大学院大学などからなる研究チームは、おうし座DH星(DH Tauri、距離460光年、年齢約100万年、質量は太陽の67%)の周囲を回る天体(伴星)が、木星の約40倍(太陽の4%)の質量をもつ褐色矮星であることを発見しました。若い恒星の周囲を回る褐色矮星としては、これまで発見された中で低温で質量も小さく、もう少し軽ければ惑星になっていたと考えられます。

 すばる望遠鏡では、コロナグラフ撮像装置(CIAO)を用いて、おうし座の方向にある若い恒星を数多く観測し、その周りを回る惑星の候補天体を直接撮影する観測プロジェクトを進めています。CIAOは、波面補償光学装置(AO)を使用して星の像をシャープした後、コロナグラフと呼ばれるマスクにより中心星の光を隠し、その周囲にある非常に暗い天体を直接撮影できる装置です。年老いた恒星の周囲にある天体に比べて、生まれたての恒星の周りに存在する若い低質量天体(褐色矮星や惑星)は明るくより発見しやすいことから、研究チームではおうし座の方向にある若い恒星をCIAOによる直接撮影の観測対象としてきました。 (参考:2004年4月の観測成果)

 太陽以外の恒星の周囲にある惑星は、これまでドップラー効果を用いた方法などで間接的(※1)に発見されていますが、中心星から分離して惑星だけを直接撮影するには至っていません。惑星の画像を直接とらえれば、惑星の分光分析を行うことができます。それによって、惑星表面の物理状態(組成や温度)が理解でき、惑星の内部構造を知る手がかりとなります。

 研究チームは、新たに撮影したおうし座DH星の画像(図1)で、中心星より2.3秒角(330天文単位 ※2)離れた位置にある天体に注目しました。その明るさは、中心星のわずか250分の1です。この天体は過去に撮影された画像にも写っていましたが、それらの画像と今回の画像を比較することによって、この天体は天球上で中心星と共に動いており、たまたま同じ方向にある背後の天体ではなく、おうし座DH星の周囲を回っている伴星であるとわかりました。

 この伴星の性質をより詳細に調べるため、近赤外分光装置(CISCO)を用いて近赤外線(波長1-2.5マイクロメートル ※3)スペクトルを取得しました(図2)。観測データに見られた水蒸気の吸収帯やカリウムなどの吸収線の強さから、この伴星は絶対温度で2700度から2800度、表面での重力加速度が木星の約4倍、質量にして木星の約40倍の天体であることがわかりました。質量が木星の13倍より軽い伴星を惑星、13倍以上で80倍以下を褐色矮星と呼ぶことから、今回見つかった伴星は褐色矮星に分類されます。研究チームのひとり、神戸大学自然科学研究科の伊藤洋一さんは「私たちの観測手法は、木星程度の質量を持った若い惑星を検出できる感度がある。太陽以外の恒星を回る惑星の直接撮影に一歩近づいた。」と話しています。

 この研究成果は、米国のアストロフィジカルジャーナル誌(2月20日号:620巻、984ページ)に掲載されました。

※1:ドップラー効果を用いて惑星を検出する方法は、伴星が存在する場合に期待される、主星の視線速度の周期的な変化をとらえるものであり、惑星そのものの光をとらえているわけではありません。
※2 : 太陽と地球との距離(約1億5000万キロメートル)を1天文単位と呼びます。
※3 : 1マイクロメートルは、1ミリメートルの1000分の1。



 
図1
 今回発見された伴星の、波長2.2マイクロメートルでの画像。中心星はコロナグラフで隠されているため、暗くなっている。画像の視野は、縦10秒角、横10秒角。上が北で、左が東。(図中の単位は"が秒角、AUが天文単位)
 
 
図2 得られた伴星のスペクトル。


 

 

 

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