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科学目標3:マルチメッセンジャー天文学の展開

マルチメッセンジャー天文学

天体現象によって宇宙から届くのは、可視光・赤外線・電波などの電磁波だけではありません。ニュートリノなどの粒子や重力波も届きます。これら複数の情報の運び手(メッセンジャー)を用いて天体現象を総合的に解明する「マルチメッセンジャー天文学」が脚光を浴びています。
2015年に初めて重力波が直接検出されました。その後 2017年に中性子星同士の合体による重力波 GW170817 が検出された時には、すばる望遠鏡を含む世界中の観測施設で重力波源からの電磁波放射が観測されました。この観測は、重力波と電磁波の協調観測による、マルチメッセンジャー天文学の大きな一歩となりました。すばる望遠鏡では、GW170817 からの光赤外線を検出しただけでなく、その明るさの時間変化を追跡観測することに成功し、中性子星合体で重元素が生成されている証拠を掴みました。
2020年代のすばる望遠鏡は、HSC を駆使して重力波源の光赤外線対応天体を広い領域から即座に探し出し、長時間にわたって追跡観測を行います。ULTIMATE-Subaru による探査・追跡も合わせて、中性子星合体で合成される元素を調べることで、宇宙において金やプラチナ、ウランなどの重元素をつくるプロセスを解明します。また、ニュートリノ観測施設との連携により超高エネルギー宇宙線起源を探ります。

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(左)日本の重力波追跡観測チーム J-GEM が撮影した重力波源 GW170817。すばる望遠鏡 HSC による可視光線観測(z バンド:波長 0.9 マイクロメートル)と、南アフリカにある IRSF 望遠鏡の SIRIUS による近赤外観測(H バンド:波長 1.6 マイクロメートル、Ks バンド:波長 2.2 マイクロメートル)を3色合成したもの(青:z バンド、緑:H バンド、赤:Ks バンド)。2017年8月24日-25日の観測では、天体が減光するとともに赤い色を示している(近赤外線で明るく光る)ことが分かります。(クレジット:国立天文台/名古屋大学)
(右)中性子星合体とそれにより放出される物質によってキロノバと呼ばれる爆発現象が起こる様子の想像図。(クレジット: 国立天文台)

観測対象

重力波源、ニュートリノ発生源

すばる望遠鏡での達成目標

(1)HSC で重力波源の光赤外線対応天体を探し出し、追観測を行います。重力波望遠鏡の位置決定精度は数 10 平方度と広いため、対応天体を即座に見つけるために広視野を誇る HSC での探査が必要です。

(2)中性子星合体の場合、ULTIMATE-Subaru による探査・追跡も行います。赤外線観測により、金やプラチナ、ウランといった、速い中性子捕獲反応で合成される重元素が中性子星合体で合成される割合を調べます。こうしたデータより、宇宙における重元素の起源を解明します。

(3)高エネルギーニュートリノが飛来した方向を HSC で観測し、発生源を特定します。

宇宙で起こる爆発的な現象からは、可視光や赤外線などの電磁波とともに、ニュートリノなどの粒子や重力波が放出されることもあります。これらを同時観測することで宇宙の諸現象の解明に挑むのがマルチメッセンジャー天文学です。 マルチメッセンジャー天文学は、ブラックホールの地平線の特性、中性子星など極限状況の核物理、重元素の起源など、従来の電磁波観測だけでは解明できない事象に迫る新たな道を切り拓いています。すばる2では、すばる望遠鏡の広視野観測能力を駆使し、KAGRA、ハイパーカミオカンデなど日本の主導する最先端の研究施設と連携してマルチメッセンジャー天文学を大きく発展させます。
2015年9月、米国の重力波望遠鏡 LIGO によって、人類は初めて重力波を直接検出することに成功し、重力波天文学が誕生しました。そして、2017年8月、LIGO と欧州の重力波望遠鏡 Virgo は、中性子星同士の合体による重力波イベントを初めて検出しました。この現象(GW170817)からの電磁波放射は世界中の観測施設で検出され、重力波と電磁波の協調観測によるマルチメッセンジャー天文学の大きな一歩となりました。すばる望遠鏡は、GW170817 からの光赤外線を検出・追跡観測することに成功し、中性子星合体で重元素が生成されている証拠をつかみました(2017年10月16日すばる望遠鏡観測成果)。
しかしながら、2022年2月現在で重力波と電磁波の協調観測が成功したのは上記の一例のみであり、マルチメッセンジャー天文学はこれから大いに発展が見込まれる分野といえます。世界各国の重力波望遠鏡(LIGO、Virgo、日本の KAGRA)は、2020年代中期より、約6億光年彼方で発生した中性子星合体からの重力波を捉えることができるようになると見込まれます。こうした遠方での中性子星合体は、光赤外線ではピークでも 22 等級より暗く、1〜2日のうちに 24 等級まで暗くなることが予想されています。しかも、こうした現象に対する重力波望遠鏡の位置決定精度は数十平方度もあります。すばる2では HSC を駆使して、このような広い領域から光赤外線対応天体を即座に探し出し、長時間にわたって追跡観測を実施します。近赤外線が強く放射される中性子星合体では、ULTIMATE-Subaru による探査・追跡も行います。こうして、多数の中性星合体の光赤外線放射とその時間変化を分析し、金やプラチナ、ウランといった、爆発的な元素合成反応(速い中性子捕獲反応)でつくられる重元素のうち、どういった元素がどのぐらい中性子星合体でつくられるのかを調べ上げます。これにより、宇宙における重元素の起源を解明します。
また、宇宙からのニュートリノ検出と電磁波観測の連携もマルチメッセンジャー天文学です。すばる2では、高エネルギーニュートリノ天文台アイスキューブなどで検出される、宇宙から飛来するニュートリノの発生源を光の観測で特定します。こうしたニュートリノ検出器も位置決定精度が1平方度以上あるため、その天体の位置を特定するのに HSC による探査が威力を発揮します。高エネルギーニュートリノは超高エネルギー宇宙線と発生源を同じくすると考えられており、すばる2によって高エネルギーニュートリノの発生源が同定できれば、宇宙物理学の大きな謎となっている、高エネルギー宇宙線の起源の解明にも大きな進展をもたらすことが期待できます。

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