すばる2

科学目標 > ダークマター・ダークエネルギーの性質の探求及びニュートリノ質量の決定

科学目標1:ダークマター・ダークエネルギーの性質の探求とニュートリノ質量の決定

ダークマター・ダークエネルギー

宇宙は、構造形成を促すダークマター(暗黒物質)と、加速膨張を促すダークエネルギー(暗黒エネルギー)に満ちていますが、その正体は謎のままです。現在の宇宙の平均エネルギー密度の約 68 パーセントがダークエネルギー、約4分の1(27 パーセント)がダークマターで占められ、私達が知っている、原子からなる通常の物質(バリオン)はわずか5パーセント以下です。ダークマターとダークエネルギーの正体の解明は、物理学および天文学の最重要課題です。
ダークエネルギーの正体を解明するには、現時点では広い天域にわたる銀河探査(サーベイ観測)が唯一の手段です。ダークマターの重力による宇宙の構造形成と、ダークエネルギーによる加速膨張は表裏一体の関係にあるので、すばる2では宇宙の構造形成を徹底的に調べることで、ダークマターとダークエネルギーの性質を明らかにすること、さらには、ダークマターの一部を担うニュートリノの質量を、世界に先駆けて信頼性高く測定することを目指します。

image

(左)2022年時点で最も大規模な、すばる望遠鏡 HSC が描き出したダークマターと銀河の3次元地図。背景銀河の奥行き情報(赤方偏移)と組み合わせ、弱重力レンズ効果を利用して推定したダークマターの3次元地図が描かれました。(クレジット:東京大学/国立天文台)
(右)すばる望遠鏡HSC がおとめ座の方向で撮影した、ダークマターの塊の位置における銀河分布の例。ダークマターの質量が引き起こす重力レンズ効果で変形した銀河の形状から宇宙空間にあるダークマターの分布を調べます。(クレジット:国立天文台)

観測対象

約 100 億年前から現在の宇宙

すばる望遠鏡での達成目標

(1)HSC-SSP で撮像した約 1200 平方度の広い天域に写りこんだ数億個の銀河の形状の歪みを、距離ごとに測定し、かつてない広範囲でダークマターと銀河の3次元地図を描き出します。描かれる地図は、2018年に作成されたもの(上図)の8倍近い広さになります。同時に、ダークマター候補である原始ブラックホールを探査します。

(2)PFS で、HSC 画像に写りこんだ多数の銀河を遠方のものまで分光し、個々の銀河の距離(赤方偏移)を精密に測定します。これにより、宇宙論パラメータをこれまでにない精度で決定できるようになります。精度の高い宇宙論パラメータは、宇宙膨張の鍵をにぎるダークエネルギーの性質の解明と、ダークマターの一部を担うニュートリノの高い信頼性での質量測定につながります。

ダークマター、ダークエネルギーが宇宙構造形成の標準模型において本質的な成分であることがわかっていますが、正体は依然として謎であり、その解明は物理学および天文学の最重要課題です。
1999年に宇宙膨張が加速していることが発見されて以来、宇宙の標準モデルにおいて、現在の宇宙の質量組成の約 95 パーセントはダークマターとダークエネルギーが占めているとされています。ダークマターの重力による宇宙の構造形成とダークエネルギーによる加速膨張は表裏一体の関係にあります。宇宙全体の膨張の歴史と、その中で密度揺らぎが成長し、銀河や銀河団といった構造が形成された歴史の中に、ダークマターとダークエネルギーの性質が反映されているはずです。したがって、広域探査によって宇宙の構造形成の歴史をひもとくことにより、それらの正体に迫ることができます。実際、広い天域にわたる銀河探査が、現時点ではダークエネルギーの正体を解明するための唯一の手段となっています。
これまでに、すばる望遠鏡の HSC を用いた 160 平方度の探査データで、ダークマターと銀河の3次元分布が得られています2018年2月26日すばる望遠鏡観測成果)。当時としては最も深くかつ広い天域で得られたデータで、宇宙の構造形成を決定づける宇宙論パラメーターの値が精度よく求められました。その結果、宇宙初期のデータから求められた値との間に深刻な矛盾が存在する可能性が明らかにされています(2018年9月25日すばる望遠鏡観測成果)。すばる2では、探査領域を約8倍(1,200 平方度)に広げ、ダークマターによる構造形成の歴史を明らかにすることで、これまで2シグマ(95 パーセント)の信頼性で得られている宇宙論パラメーター値の矛盾を、3シグマ(99.7 パーセント)以上の信頼性で検証します。これにより、この矛盾が単にデータ量が限られていることによる統計的な不定性によるものなのか、あるいは一般相対性理論と宇宙定数に基づく宇宙の標準模型に何か綻びがあるのか判別することができます。
さらに、上述の HSC の広域探査データを基礎として、PFS の多天体分光によって銀河までの距離を正確に求めます。こうして、ダークマターの3次元地図の精度を格段に向上させ、約 100 億年前から現在に至るまでの宇宙の構造成長の速さを、誤差数パーセントで求めることを目標にしています。前述の通り、宇宙の構造形成はダークマターとダークエネルギーのせめぎあいで決まるため、この測定によってダークエネルギーの性質を明らかにすることができます。これまで、こうした測定の誤差は数十パーセントに及んでおり、提案されている様々なダークエネルギーモデルの真偽を確かめられないのが現状ですが、HSC + PFS の超広域探査はこの状況を一変させます。
銀河団スケールでの構造形成には、ニュートリノも大きく関与していると考えられています。ニュートリノの質量が大きければ、その重力効果によって構造形成が妨げられ、逆にニュートリノがほとんど質量を持たなければ、銀河団スケールでの構造形成は進みやすいといえます。したがって、PFS を用いてこうした構造形成の歴史を詳しく調べることによって、ニュートリノの質量をかつてない精度で求めることができます。ニュートリノ質量は現在の地上実験からは絶対値が求められないので、この測定は、素粒子物理学にも大きなインパクトをもたらします。

img

3次元のダークマター地図の解析から推定された、宇宙の全エネルギーに占める物質の割合(それ以外はダークエネルギー)と現宇宙の構造形成の進行の度合いを表す物理量(S8)の測定結果。すばる望遠鏡 HSC の結果(赤)と、米国中心(緑)と欧州中心(グレー)の近傍の宇宙にある銀河を用いた重力レンズ効果による測定結果、プランク衛星の宇宙背景放射観測による初期宇宙(宇宙誕生から約 40 万年後)の結果(青)との比較。薄い色で示した部分が1シグマ(68 パーセント)の信頼性、濃い色で示した部分が2シグマ(95 パーセント)の信頼性で得られている宇宙論パラメーター値。

MORE