観測成果

遠方宇宙

多波長観測が解き明かす遠方宇宙の星形成活動の終焉―銀河の成長を妨げたのはブラックホールか?―

2022年5月26日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2022年9月11日

総合研究大学院大学と国立天文台を中心とした国際研究チームは、約 100 億年以上前に星形成活動を終えた銀河のサンプルを多波長で解析することによって、これらの銀河の中心には一般的に超巨大ブラックホールが存在することを明らかにしました。遠方宇宙の銀河において、星形成活動の終焉 (しゅうえん) とブラックホールとの間に強い関連があることを示す研究結果です。

多波長観測が解き明かす遠方宇宙の星形成活動の終焉―銀河の成長を妨げたのはブラックホールか?― 図

図1:すばる望遠鏡などの観測データから選び出された、約 100 億年以上前の遠い過去に星形成を終えた多数の銀河 (周囲の拡大パネル内の赤色の天体)。これらの天体は、すばる望遠鏡、チャンドラX線観測衛星、超大型干渉電波望遠鏡群などを用いた多波長の探査観測 Cosmic Evolution Survey (COSMOS) のデータを用いて調査されました。中央は、COSMOS 領域の画像。画像は、すばる望遠鏡 Hyper Suprime-Cam (HSC) による i バンド画像と、VISTA 望遠鏡によるJバンド、Ksバンドの画像を三色合成しています。高解像度画像はこちら (2.5 MB) (クレジット:国立天文台)

現在の宇宙には実にさまざまな銀河が存在しています。渦巻腕を持った渦巻銀河や、ぼんやりとした楕円銀河、さらには形の大きく歪んだ銀河がいます。星の集合体である銀河の一生の中で、どのように星が生まれてきたのかを理解することは、銀河の進化を理解する上で本質的です。目には見えませんが、銀河には常に周囲からガスが降り積もってきていると考えられていて、これらが時間をかけてゆっくりと冷えて固まっていき、やがて星が生まれます。こうした過程は「星形成活動」と呼ばれています。銀河の星形成活動が止まってしまうことは、銀河の成長が止まることを意味します。銀河では星が生まれているのが自然な姿ですが、長い間星が生まれていない不思議な銀河がいます。楕円銀河です。なぜ楕円銀河は途中で成長を止めてしまったのでしょうか。これは銀河研究において解明されていない大きな謎の一つです。

この謎を解き明かす鍵の一つは遠方宇宙にあります。星が生まれなくなってしまった頃の銀河の性質を詳細に調べれば、その理由のヒントが見つかるかもしれません。宇宙初期、とりわけ 100 億年以上前の宇宙では、ほとんどの銀河で活発に星が生まれていました。しかし、すばる望遠鏡などによる近年の可視光と赤外線の観測から、少ないながらも、既に星形成を終えた銀河が存在していることが分かりました。これらは現在の楕円銀河の祖先であると期待されます。この特徴的な銀河種族の星形成活動がどうやって終わったのか、宇宙の歴史の中での平均的な描像を捉えるには多くの銀河のサンプルが必要でした。

多波長観測が解き明かす遠方宇宙の星形成活動の終焉―銀河の成長を妨げたのはブラックホールか?― 図2

図2:星形成が止まったまま年老いていった銀河種族である、楕円銀河 (中央;NGC850)。図1の銀河たちの 100 億年後の姿は、このようなものだと考えられます。画像は HSC によって取得されました。(クレジット:国立天文台/HSC-SSP)

そこで、伊藤慧 (いとうけい) 日本学術振興会特別研究員 (研究当時、総合研究大学院大学 大学院生) を中心とするチームは、多波長サーベイ COSMOS の探査領域において、星形成活動を終えた 95 億年以上前の銀河、約 5000 個をさまざまな波長の光でくまなく調べました。COSMOS ではX線から可視光、赤外線、電波に及ぶ幅広い波長帯で感度の高い観測が行われていて、一つの波長帯だけでは見ることができない銀河の様々な側面を同時に調査することができます。

チャンドラX線観測衛星と超大型干渉電波望遠鏡群の観測データを研究チームが詳細に解析した結果、星形成を終えた銀河は約 95-125 億年前において平均的にX線や電波の放射を出していることが明らかになりました。特に 105 億年以上前の宇宙においてこうした放射を検出したのは本研究が初めてです。すばる望遠鏡をはじめとした光・赤外線の感度の高い観測によって膨大かつ正確な銀河サンプルを構築したことで初めて得られた成果です。

多波長観測が解き明かす遠方宇宙の星形成活動の終焉―銀河の成長を妨げたのはブラックホールか?― 図3

図3:研究手法の概念図。星形成を終えた、約 95-125 億年前の銀河 5211 個をいくつかの時代 (距離) と星成分の質量 (ダークマターとガスを除く) に分けた上で、画像の重ね合わせを行い、X線と電波の平均的な放射強度を求めました。(クレジット:国立天文台)

解析で得られたX線と電波は、銀河の星の量や星形成率から期待される放射よりも強く、銀河中心にある超巨大ブラックホールの活動による放射が主であると推測できます。現在の宇宙では多くの楕円銀河が活動的な超巨大ブラックホールを持つことが知られていますが、宇宙初期においても、星形成活動を終えようとしている銀河には活動的な超巨大ブラックホールが一般に存在することを本研究は示しています。また、星形成活動が起こっている同じ時代の銀河に比べてこれらのブラックホールの活動性が高いことも分かりました。よって、宇宙の初期において星形成活動が終わる原因がブラックホールの活動性と関連があるのではないかと研究チームは結論しています。

「すばる望遠鏡を始めとした世界中の大型望遠鏡での集中的な観測を組み合わせることによって、はるか遠方の宇宙においても星形成を終えた銀河内部のブラックホール活動を捉えることができました。これは銀河の星形成活動が終わる原因を理解する上で重要な観測結果だと言えます」と伊藤さんは述べています (注1)。

本研究成果は銀河中心の超巨大ブラックホールが銀河の成長を妨げた可能性を示唆していますが、具体的にブラックホールがどのように星形成を止めたのかは、この研究だけからは分かりません。その具体的な過程を明らかにするため、研究チームは今後も調査を続ける予定です。


本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に 2022年4月12日付で掲載されました (Ito et al. "COSMOS2020: Ubiquitous AGN Activity of Massive Quiescent Galaxies at 0 < z < 5 Revealed by X-Ray and Radio Stacking")。また、本研究は、科学研究費補助金 特別研究員奨励費 (20J12461) によるサポートを受けています。


(注1) 本研究を含む伊藤さんの博士論文 (遠方宇宙における銀河の星形成活動とその環境との関連性) は、総合研究大学院大学の SOKENDAI 賞を受賞しました。詳しくは、2022年5月26日のハワイ観測所トピックスをご覧ください。


すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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