観測成果

重くて小さい、初期宇宙の早熟銀河

2018年11月26日 (ハワイ現地時間)

  国立天文台、東京大学、コペンハーゲン大学などの研究グループは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線カメラ IRCS と補償光学装置 AO188 を用いた近赤外線高分解能深撮像観測から、現在の望遠鏡性能の限界に迫る約 120 億年前の大質量楕円銀河の祖先の形態を明らかにしました。大質量楕円銀河の形成の謎を解き明かす上で鍵となる重要な成果です。


図1

図1: 星形成をやめ成熟した大質量銀河の候補を選び出した領域 (SXDS 領域) のカラー合成図 (視野2分角 x 1.5分角)。拡大図は約 120 億年前の大質量楕円銀河の祖先をすばる望遠鏡搭載の IRCS/AO188 で観測した高分解能近赤外線画像 (視野2.1秒角 x 2.1秒角)。黄色い丸は補償光学によって補正した点源の拡がりを示しています。(クレジット:国立天文台)



  宇宙には渦巻銀河や楕円銀河など様々な銀河がいます。なかでも大質量楕円銀河がどのように生まれたかは大きな謎の一つです。現在の大質量楕円銀河は古い星に占められており、その星の大部分が昔の宇宙で生まれたとされています。大質量楕円銀河が宇宙で最初に現れたのはいつか、どのように大量の星を形成し、そして星形成を止めたか、盛んに研究されています。

  特に着目されているのがサイズ進化です。近年のハッブル宇宙望遠鏡などの観測から、昔の宇宙ほど典型的な銀河の大きさが小さくなること、特に昔の大質量楕円銀河は非常に小さかったことがわかっています。小質量銀河の合体、断熱膨張といったサイズ進化のシナリオが提案されていますが、結論は得られていません。銀河の進化史を理解する上で重要なテーマで、研究グループも取り組んできました。

  研究グループはまず、すばる望遠鏡でこれまでに得られていた広域多波長深撮像データ (注1) に基づき、約 120 億年前の宇宙で、星形成をやめ成熟した大質量銀河の候補を選び出しました。図1の点線で囲った天体がその一つです。これほどの初期宇宙に現在の大質量楕円銀河のように太陽の1千億個分もの星質量を持つ成熟した銀河が幾つも発見されたことがまず驚きです。さらに興味深いのがそのサイズです。研究グループがすばる望遠鏡で新たに観測を行い、これらの銀河の近赤外線高分解能画像を撮影した結果 (図1中の拡大図)、約 120 億年前の大質量楕円銀河は有効半径 (表面輝度の半分が入る半径) がたったの 0.5 キロパーセク (1600 光年) ほどであることがわかりました。これは現在の宇宙にあり同程度の星質量を持つ大質量楕円銀河のサイズの約 20 分1ほどで、驚くべき小ささです。

  さて、これらの 120 億年ほど前に見つかった大質量楕円銀河の祖先は、現在はどのような銀河に進化しているのでしょうか? 研究グループは、今回見つかった 120 億年前の銀河など、各時代の最も重い銀河が現在の宇宙の最も重い銀河に進化したとして、先行研究の結果も用いてサイズと星質量進化を描きました (図2)。星質量やサイズは、銀河進化を定量化するための最も基本的な物理量です。その結果、最も重い銀河のサイズ―星質量進化は小質量銀河の合体シナリオでよく再現できることがわかりました。


図2

図2: 各時代の一番重い銀河が現在の最も重い銀河に進化したとして、各時代での星質量 (横軸) とサイズ (縦軸) の関係を描いたもの。灰色の実線カーブは、沢山の小質量銀河の合体、点線カーブは大質量銀河の合体で期待される星質量・サイズ進化を示します。今回の結果は、宇宙で最も重い銀河が小質量銀河の合体で進化してきたことを示唆しています。(クレジット:国立天文台)


  遠方銀河は非常に暗く、また見た目の大きさが1秒角 (3600 分の1度) 以下となることも多いため、その形態を知るには高い空間分解能での高精度観測が必要です。望遠鏡の分解能は理想的には口径に比例して良くなりますが、地上望遠鏡を使った観測は地球大気の揺らぎの影響を受けます。そのため遠方銀河の形態研究では、地上大気の影響を受けずに高分解能観測ができるハッブル宇宙望遠鏡が活躍しています。一方、銀河の形態を精度よく研究するには古い星が放つ可視光線を調べることも必要です。宇宙では遠くにあるほど銀河から届く光の波長が伸びるため、約120億光年彼方にある銀河の場合には波長2マイクロメートル帯での観測が必要です。しかしながらハッブル宇宙望遠鏡では 1.7 マイクロメートルまでしか観測できない、という課題がありました。

  研究グループは今回、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線分光撮像装置 IRCS と、大気の揺らぎの影響を補正する補償光学装置 AO188 を用いて、波長2マイクロメートル帯での高分解能観測を行い、約 120 億年前での銀河の大きさを測定することに成功しました。そして、その結果は宇宙で最も重い銀河が小質量銀河の合体で進化してきた可能性があることを示唆していました。

  「とはいえ今回の観測でも形態を十分に分解できたわけではありません」と指摘するのは、この論文の筆頭著者である久保真理子 特任研究員 (国立天文台 TMT 推進室) です。「日本が国際協力で進める次世代地上大型望遠鏡 30 メートル望遠鏡 (TMT) ではハッブル宇宙望遠鏡の 10 倍以上の分解能が得られ、更に詳細な遠方銀河の形態研究が期待されます。また 120 億光年を超える遠方では、欧米の次世代宇宙望遠鏡 JWST も活躍するでしょう」と、今後の展望を語っています。共同研究者の田中賢幸准教授 (国立天文台ハワイ観測所) も「すばる望遠鏡の観測で銀河の大きさを何とか測ることができましたが、これらの銀河のより詳細な形を調べることで、どのように形成されたかをさらに調べることができます。まだまだ観測が必要です」とさらなる観測に意欲を示してします。


  この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2018年11月20日付で掲載されました (Kubo et al. 2018, "The Rest-frame Optical Sizes of Massive Galaxies with Suppressed Star Formation at z~4")。論文のプレプリントはこちら (https://arxiv.org/abs/1810.00543) から入手可能です。また、この研究成果は、科学研究費補助金 JP15K17617, JP16K17659, JP18K13578 のサポートを受けています。



(注1) すばる望遠鏡主焦点広視野カメラ Suprime-Cam を使って行われた「すばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ (SXDS)」に基づくデータです。







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