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遠方宇宙

すばる望遠鏡が発見した特異なクエーサー「バーベキューソース」― 超巨大ブラックホール進化の途中段階か ―

2026年6月2日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2026年6月2日

東北大学の研究者を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器「オーノヒウラ PFS」を用いて、これまでにない特異な性質を持つクエーサー(超巨大ブラックホールが明るく輝く天体)を発見しました。「BBQSORS(バーベキューソース)」と名付けられたこの天体は、電波とX線で強く輝く一方で、可視光では通常と異なる特徴を示していました。研究チームは、この天体が、近年ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によって多数発見された「リトル・レッド・ドット(小さな赤い点)」と呼ばれる天体から、通常のクエーサーへと進化していく途中段階にある可能性を示しました。この発見は、超巨大ブラックホールがどのように成長し、その周囲の環境を変化させながら進化していくのかを理解するうえで、重要な手がかりになると期待されます。

すばる望遠鏡が発見した特異なクエーサー「バーベキューソース」― 超巨大ブラックホール進化の途中段階か ― 図

図1:超巨大ブラックホール周辺の想像図。銀河中心にあるブラックホールにガスが落ち込むと、周囲に高温のガス円盤ができ、強い光を放ちます。天体によっては電波ジェットを伴うこともあります。(クレジット:NASA/JPL-Caltech)

銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍以上の質量をもつ超巨大ブラックホールが存在すると考えられています。ブラックホールが周囲のガスを活発に取り込んで成長しているとき、ガスは強く熱せられて非常に明るく輝きます。このように銀河中心が強く光っている状態を「活動銀河核」と呼び、その中でも特に明るいものを「クエーサー」と呼びます(図1)。

しかし、こうした超巨大ブラックホールがどのように誕生し、母銀河のガスを取り込みながらどのように急速に成長したのかは、現代天文学の大きな謎の一つです。

その謎を考える上で近年注目されているのが、「リトル・レッド・ドット(LRD)」と呼ばれる天体です。LRD は 120 億年以上前の初期宇宙で、JWST によって多数発見された、赤く小さく見える天体です。超巨大ブラックホールが活発に成長している姿だと考えられていますが、通常のクエーサーとは異なる特徴を示します。

その一つが、比較的低温のガスが放つ光に似た特徴です。通常のクエーサーは青白く高温な光を放っていますが、LRD は 5000 度程度のガスが放つ光に近い特徴を示します。研究者たちは、LRD では銀河中心の超巨大ブラックホールが非常に濃いガスに包まれており、そのガスが中心からの強い光を吸収して、別の波長の光として放ち直している可能性を考えています。

このような「厚いガスに覆われた段階」は、超巨大ブラックホールが急速に成長する初期の姿を知る重要な手がかりになると期待されています。

今回研究チームが報告した BBQSORS(注1)は、もともと電波で明るいクエーサー候補として見つかっていました。その正体を明らかにする決め手となったのが、すばる望遠鏡の新しい観測装置「オーノヒウラ PFS」です。オーノヒウラ PFS は、約 2400 本の光ファイバーによって、広い天域に散らばる多数の天体の光を同時に調べることができる、すばる望遠鏡のユニークな分光装置です。

さらに、オーノヒウラ PFS では、観測時に空いている光ファイバーを活用して、別の観測対象も同時に観測する「フィラー観測」という仕組みがあります。BBQSORS のデータは、この柔軟な観測方法によって得られました。

PFS による観測の結果、BBQSORS はブラックホール周辺の高速なガスに特有の光を示しており、約 100 億光年彼方にあることが分かりました。さらに、その光は、通常のクエーサーと異なり、約1万度のガスが放つ光に似た特徴を持つことも明らかになりました(図2)。

すばる望遠鏡が発見した特異なクエーサー「バーベキューソース」― 超巨大ブラックホール進化の途中段階か ― 図2

図2:すばる望遠鏡のオーノヒウラ PFS で観測された BBQSORS のスペクトル(灰色)。活動銀河核に特徴的な幅の広い輝線(青色)に加え、約1万度のガスが放つ光に近い成分(赤色)が見られます。(クレジット:Zhong et al./市川幸平)

さらに研究チームは、紫外線から赤外線までのさまざまな観測データを組み合わせて解析しました。その結果、BBQSORS は、LRD に似た特徴を持つ一方で、LRD よりも高温のガスに覆われている可能性を示していました。

つまり BBQSORS は、「厚いガスに覆われた若い超巨大ブラックホール」(LRD)が、周囲のガスを吹き払いながら、ブラックホール周辺の強い活動が見える通常のクエーサーへ変化していく途中を見せているのかもしれません(図3)。この解釈が正しければ、BBQSORS は、厚いガスに覆われた段階から通常のクエーサーへと移り変わる過程を捉えた、貴重な候補天体といえます。

すばる望遠鏡が発見した特異なクエーサー「バーベキューソース」― 超巨大ブラックホール進化の途中段階か ― 図3

図3:LRD(左)、BBQSORS(中央)、通常のクエーサー(右)をつなぐ進化シナリオの模式図。LRD では、超巨大ブラックホールは厚いガスに包まれ、中心のX線放射や電波ジェットが見えにくくなっていると考えられます。一方、BBQSORS では、周囲を覆うガスが薄くなり始め、ブラックホール周辺が部分的に見え始めていると考えられます。(クレジット:イラスト生成:ChatGPT(OpenAI)/編集:市川幸平)

今回の成果は、オーノヒウラ PFS が多数の天体を効率よく観測できるだけでなく、こうした珍しく重要な天体を見つけ出し、その性質を明らかにできることを示した点でも重要です。また、フィラー観測という柔軟な運用が、想定外の重要な天体の発見につながることも示されました。

今後、オーノヒウラ PFS による大規模な観測が進めば、BBQSORS に似た天体がさらに見つかり、超巨大ブラックホールがどのように成長して通常のクエーサーになっていくのか、その進化の流れがより明確になると期待されます。

論文の責任著者の一人である東北大学の市川幸平准教授は「今回の発見は、オーノヒウラ PFS のような広視野分光装置が、これまで見過ごされてきた特異なブラックホール成長段階の天体を見つけ出す力を持つことを示しています。今後、同様の天体をさらに探査することで、LRD と通常のクエーサーをつなぐ進化の姿を詳しく検証していきたい」と語ります。


本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に 2026年6月3日付で掲載されました(Zhong, Chen, Ichikawa et al. "Blackbody Quasar and Radio Source (BBQSORS): A Candidate of Transitional Little Red Dots with a T ∼ 104 K Blackbody Spectrum")。

本研究成果は、科学研究費補助金(課題番号:25K01043)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR2466)、稲盛財団研究助成によるサポートを受けています。


(注1)BBQSORS は、「Blackbody Quasar and Radio Source」の略称です。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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