千葉工業大学などの研究者からなる国際研究チームは、約 100 億光年彼方の銀河の明るさが、わずか 20 年ほどで 20 分の1に低下するという、極めて珍しい現象を発見しました。研究チームは、多波長にわたる観測データと過去のアーカイブデータを組み合わせた解析により、この銀河の中心にある超巨大ブラックホールへ流れ込むガスの量が急激に減少したことによってこの現象が引き起こされたと結論しました。超巨大ブラックホールの活動が、人間にも観測可能な短い時間スケールで大きく変化しうることを示す重要な発見です。

図1:100 億光年(赤方偏移 1.8)の距離にある銀河 J0218-0036(黄色矢印)の可視光画像。左が SDSS、右がすばる望遠鏡の HSC で撮像したもの。SDSS よりも高感度な HSC の画像では、周囲に暗い天体が多数検出されています。それらの天体の明るさと比べると、2002年頃(SDSS)から 2018年頃(HSC)の間に、本天体が大きく減光したことが分かります。矢印のない画像はこちら。(クレジット:SDSS、HSC-SSP/国立天文台)
銀河中心で何が起きたのか
多くの銀河の中心には、太陽の数億倍もの質量をもつ超巨大ブラックホールが存在します。一部のブラックホールでは、その強い重力によって周囲のガスが引き寄せられ、回転しながら流れ落ちることで「降着円盤」と呼ばれる構造が形成されます。降着円盤の中でガスが摩擦によって加熱されると、膨大なエネルギーが放射され、銀河の中心は非常に明るく輝きます(図2左)。このような領域を活動銀河核と呼びます。一方、何らかの理由で降着円盤内のガスの流れが弱まると、放射も弱まり、銀河の中心部は暗くなります(図2右)。今回の観測結果は、まさにそのような「超巨大ブラックホールの活動が急激に弱まった」状態をとらえたものだと考えられます。
20 年で 20 分の1 ― SDSS とすばる望遠鏡が捉えた急激な減光
千葉工業大学、ポツダム大学(ドイツ)、富山大学、カナリア天体物理学研究所(スペイン)、国立天文台、立命館大学などの研究者からなる国際研究チームは、スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)と、すばる望遠鏡の Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム;HSC)で得られた広域探査画像を比較し、この銀河が約 20 年の間に、見かけの明るさを 20 分の1にまで減少させたことに気づきました(図1)。活動銀河核の明るさの変動は通常3割程度であり、これほど大きな減光は極めて稀です。研究チームは、カナリア望遠鏡(GTC)で即時追観測を行った後、この天体の本格的な調査に乗り出しました。すばる望遠鏡とケック望遠鏡を用いた可視光および近赤外線の観測や、電波望遠鏡による観測を実施するとともに、X線や赤外線のアーカイブデータ、さらに約 70 年前に撮影された天体写真乾板なども含め、様々な波長と時代にわたるデータを総合的に解析しました(注1)。
ブラックホールの「燃料切れ」が始まった
観測された可視光や赤外線の明るさの変化を、銀河と活動銀河核の理論モデルと比較した結果、降着円盤から超巨大ブラックホールへ流れ込むガスの量(質量降着率)が、わずか7年で約 50 分の1に低下したと推定されました(注2、3)。研究チームは、ブラックホールへの物質供給が急激に止まりつつある可能性を指摘しています。降着円盤の手前にある塵の雲に光が遮られた可能性も考えられますが、可視光から赤外線にわたる広い波長域での変化を説明できないため否定されました。このことから、ブラックホールを取り巻く円盤そのものの状態が急激に変化した可能性が高いと考えられます(図2)。ただし、このような急激な変化を短時間で引き起こす仕組みはまだよく分かっておらず、今後の観測と理論研究による解明が期待されます。

図2:活動銀河核が明るい時期(左)と暗くなった時期(右)の想像図。上は銀河全体、下は銀河中心部の拡大図。明るい時期には、超巨大ブラックホール(中心部の黒い領域)を取り巻く降着円盤(青白い部分)やその周囲に広がるガスや塵のドーナツ状構造(トーラス)が明るく輝いています。一方、超巨大ブラックホールへのガス流入が少なくなると、中心部が暗くなります。(クレジット:千葉工業大学)
常識を覆す速さ ― 理論モデルの再検討へ
今回の発見は、銀河中心にあるブラックホールの活動が、数年から数十年という人間にも観測可能な時間スケールで大きく変化しうることを示しています。従来、超巨大ブラックホールへの質量降着は、数万年以上の長い時間をかけてゆっくり変化すると考えられてきましたが、今回の結果は、その常識を覆すものです。
研究を主導した諸隈智貴 主席研究員(千葉工業大学天文学研究センター)は「これほど短期間に明るさが大きく変化する活動銀河核が存在し、その減光の原因が超巨大ブラックホールへの質量降着の大きな変化であることがわかったのは非常に興味深いことです。今後、すばる望遠鏡 HSC のような広視野観測装置のデータを用いて、同様の天体をさらに見つけ、超巨大ブラックホールの活動がどのように止まったり再開したりするのかを明らかにしていきたいと考えています」と述べています。
また、共著者で、主に理論的な解釈部分を担当した川口俊宏教授(富山大学)は「従来の標準的な理論では説明できない速い変化を示している天体であり、新しいモデルを構築する際の試金石になります。どういう状況設定であれば、この天体の観測データを理論的に説明できるのか、調べていきます」と述べています。
次なる発見へ ― 広がる探査の可能性
広い天域にわたり多数の天体を効率よく観測する「広視野サーベイ観測」は、近年の天文学の重要な潮流の1つです。今回の成果は、異なる時代や波長のデータを組み合わせることで、超巨大ブラックホールの活動変化を長期間にわたって捉えられることを示しました。今後、広視野撮像サーベイで同様の「休止状態にある活動銀河核」が数多く見つかれば、銀河とブラックホールの進化の関係を理解するうえで、重要な手がかりになると期待されます。
本研究成果は、日本天文学会の国際学術雑誌『Publications of the Astronomical Society of Japan 』に 2025年11月4日付で掲載されました(Morokuma et al. "A possible shutting-down event of mass accretion in an active galactic nucleus at z ∼ 1.8")。また、図1を含む画像が PASJ 2025年12月号の表紙に使われました。
本研究は、科学研究費補助金(課題番号:16H01088、17K05389、20H00179、21H00066、22H01266、23K22537、23K25913、24K00684、24H00027、25K07370)、公益財団法人山田科学振興財団、公益財団法人住友財団(課題番号:2200605)によるサポートを受けています。
(注1)活動銀河核は、可視光、赤外線、X線など幅広い波長で放射しており、それぞれ異なる領域(降着円盤、塵、コロナなど)を反映しています。
(注2)観測期間は約 20 年間ですが、宇宙の膨張による時間の延びの効果を考慮すると、この天体(赤方偏移 1.8)においては 20/(1+1.8)~7年間の時間の経過に相当します。
(注3)観測される明るさは、活動銀河核と銀河本体の光を合わせたものです。本研究では、複数の観測時期における可視光線から赤外線までの多波長データを解析することで、両者を分離し、活動銀河核の明るさが 50 分の1に低下したことを明らかにしました。
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。


