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銀河の世界

極小の銀河にも衝突の痕跡?矮小銀河の外側に広がる星のしるし

2026年1月13日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2026年1月22日

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで、天の川銀河の衛星銀河の周辺に広がる暗い星々を探した結果、これまで知られていなかった新しい構造が発見されました。この構造は、銀河同士の衝突や合体の痕跡と似通った特徴を持ちます。非常に小さな矮小銀河でも銀河衝突が起きていた可能性を示す重要な手がかりです。

極小の銀河にも衝突の痕跡?矮小銀河の外側に広がる星のしるし 図

図1:Hyper Suprime-Cam で観測したこぐま座矮小銀河の天体画像(3視野分)。楕円は矮小銀河の中心部を示しています。非常に淡い天体のため目視での判別は難しいものの、画像の端までこぐま座矮小銀河の星が広がっています。(クレジット:国立天文台)

天の川銀河の周囲には、古くから重力にとらえられて回り続ける小さな衛星銀河が数多く存在します。こうした矮小銀河は宇宙初期に生まれた「銀河の化石」ともいえる存在で、その構造を調べることで銀河がどのように成長してきたのかを知ることができます。従来、矮小銀河のような小規模な銀河は、ガスの流入や内部での星形成といった比較的単純な過程で形成されると考えられ、銀河同士の衝突や合体はほとんど起きないとみなされてきました。しかし近年、欧州宇宙機関のガイア衛星の観測により、一部の矮小銀河で本来の広がり(潮汐半径)を超えて星が分布している例が見つかり注目を集めています。一方、ガイアでは比較的明るい赤色巨星しか捉えられず、外側に広がる暗い星の分布を詳しく調べることは困難でした。そのため、外側の構造が天の川銀河の潮汐力によって後から引き伸ばされたものなのか、過去の銀河合体によって形成された、矮小銀河固有の構造なのかは、判断できていませんでした。

国立天文台、総合研究大学院大学、法政大学、東北大学などからなる国際共同研究チームは、満月9個分という世界最大級の広視野と 8.2 メートル望遠鏡の強力な集光力を兼ね備えた Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム;HSC)を用いて、天の川銀河の衛星銀河であるこぐま座矮小銀河を撮像し、その星々を周辺部まで詳細に調べました。その結果、ガイアでは見えなかった多数の暗い星(主系列星)を検出し、矮小銀河の外縁部に広がる星々をこれまでにない精度で描き出すことに成功しました。

解析の結果、星の広がりは従来知られていた長軸方向だけでなく、短軸方向にも存在することが明らかになりました(図2)。短軸方向の構造は、天の川銀河から受ける潮汐力で説明される長軸方向の伸びとは異なる特徴を示しており、別の起源がある可能性を示唆します。

極小の銀河にも衝突の痕跡?矮小銀河の外側に広がる星のしるし 図2

図2:こぐま座矮小銀河に属する主系列星の空間分布(中央)と、銀河の長軸方向・短軸方向それぞれに沿った星の数密度プロファイル(左右)。中央パネルのカラーマップと等高線はどちらも星密度を表しています。また、破線はこぐま座矮小銀河の長軸短軸方向を示しています。左右パネルの黒線は、広がった構造が存在しないと仮定した場合に予測される数密度プロファイルを示しています。観測から求めた実際の数密度(青点、緑点)は、この予測を長軸・短軸のどちらの方向でも上回っており、外側に拡張した恒星構造が存在することを示しています。(クレジット:国立天文台)

今回発見したこぐま座矮小銀河の短軸方向の構造は、矮小銀河同士の合体によって形成された可能性があります。これは、天の川銀河の 10 万分の1という、非常に質量の小さな矮小銀河においても、衝突や合体がその形成史に関わっていた可能性を示す重要な結果です。

論文の主著者で総合研究大学院大学大学院生の佐藤恭輔さんは、「天の川銀河の矮小銀河で銀河衝突の痕跡が見つかる例はこれまでほとんどなく、矮小銀河の成り立ちを考える上で新たな視点を与える発見です」と語ります。

本研究により、こぐま座矮小銀河の外縁部に隠れていた恒星構造が明らかになり、矮小銀河の形成史を探る上で大きな一歩となりました。ただし、この構造が天の川銀河の潮汐力で形成されたのか、合体の痕跡なのかを知るためには、星々の運動や化学組成を調べる必要があります。今後は、すばる望遠鏡の新しい分光装置「ʻŌnohiʻula PFS」(オーノヒウラ ピーエフエス)を用いた観測によって、その起源が明らかになることが期待されます。


本研究成果は、米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に 2025年10月23日付で掲載されました(Sato et al. "The Extended Stellar Distribution in the Outskirts of the Ursa Minor Dwarf Spheroidal Galaxy")。

本研究は、科学研究費補助金(JP18H05875、JP20K04031、JP20H05855、JP25K01047、JP24K00669)および JST SPRING(助成番号 JPMJSP2104)の支援を受けて行われました。また、研究の一部は、総合研究大学院大学天文科学専攻による海外渡航支援(学生向け、2025年度)の助成を受けています。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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