国立天文台やアストロバイオロジーセンターの研究者を含む国際研究チームは、すばる望遠鏡による高精細な観測と、宇宙望遠鏡のデータを組み合わせ、これまで詳しく調べられてこなかった恒星の周囲に新たに2つの低質量天体を発見しました。巨大ガス惑星や褐色矮星を直接撮像し、その性質を明らかにすることを目指す探査計画「OASIS(オアシス)」の初成果です。

図1:発見された巨大ガス惑星 HIP 54515 b の画像。矢印で示されているのが HIP 54515 b で、星形のマークは主星(HIP 54515)の位置を示しています。点線は、主星を遮るためのマスクの輪郭を表しています。高解像度の静止画(2022年12月30日撮影;2024年2月20日撮影)はリンクからご覧ください。(クレジット:T. Currie/Subaru Telescope, UTSA)
OASIS(Observations of Accelerators with SCExAO Imaging Survey)は、欧州宇宙機関(ESA)のガイア衛星とヒッパルコス衛星による精密なアストロメトリ(位置天文学)のデータを活用して、未知の伴天体によって動きがわずかに揺らいでいる恒星を特定します。そして、その伴天体を、すばる望遠鏡の極限補償光学装置 SCExAO(スケックスエーオー)で直接撮影します(注1)。
「OASIS では、これまで観測対象として想定してこなかった恒星のまわりにある巨大惑星や褐色矮星を直接見るのと同時に、その質量や軌道を精密に測定することができます」と、計画を率いるセイン・キュリー博士(テキサス大学サンアントニオ校)は語ります。
OASIS の最初の発見である HIP 54515 b は、木星の 18 倍弱の質量を持つ巨大ガス惑星で、太陽の2倍の質量をもつ恒星を公転しています。公転距離は約 25 天文単位で、太陽系の海王星軌道に相当します。この惑星系は地球から約 275 光年と遠いため、HIP 54515 b は天球上で恒星のすぐ近くに見え、観測は現在の直接撮像技術の限界に迫る挑戦となりました。
「HIP 54515 b は主星からわずか 0.15 秒角の位置に見えました。これは、100 キロメートル離れた場所から野球のボールを見るようなものです。この観測には SCExAO が提供する極めてシャープな画像が必要でした」とキュリー博士は説明します。
HIP 54515 b は、木星より重い「スーパー・ジュピター」の軌道が、より低質量のガス惑星よりもやや楕円になっている傾向がある、という近年の知見に新たな事例を加える天体です。こうした特徴は、太陽系のガス惑星とはやや異なる形成過程をたどった可能性を示唆しています。
2つ目の発見である HIP 71618 B は、同じく太陽の2倍の質量をもつ恒星のまわりを回る褐色矮星です。褐色矮星は、誕生のしかたは恒星と似ているものの、恒星として輝くのに必要な質量に達しなかった天体です。HIP 71618 B は木星の約 60 倍の質量があり、公転距離は太陽系の土星軌道より少し大きく、細長い楕円軌道を描いています。今回の発見には、すばる望遠鏡の観測に加えて、W. M. ケック天文台の観測データも寄与しています。

図2:発見された褐色矮星 HIP 71618 B の画像(矢印で示された天体)。星のマークは主星(HIP 71618)の位置を示しています。高解像度の画像と文字のない画像はリンクからご覧ください。(クレジット:T. Currie/Subaru Telescope, UTSA)
HIP 71618 B 自体は惑星ではありませんが、将来の地球型惑星探査に重要な役割を果たす可能性があります。というのも、この天体は2027年に予定されているローマン宇宙望遠鏡のコロナグラフ装置の技術実証の要件を満たしているからです。この実験は、太陽のような明るい恒星の光を抑えて、その一千億分の一の明るさしかない地球型惑星をその周囲に探すための観測技術を、宇宙望遠鏡で初めて実証するものです。コロナグラフ技術実証には厳しい対象条件があり、今回の HIP 71618 B の発見以前には、それを明確に満たす観測対象は査読論文として報告されていませんでした。
HIP 54515 b と HIP 71618 B の発見は、アストロメトリーと直接撮像を組み合わせることで、これまで隠されていた惑星や褐色矮星を明らかにできることを示しています。OASIS では数十個の候補星を調査しており、今後さらに多くの発見が期待されています。これらの成果は、巨大ガス惑星や褐色矮星がどのように形成され、その大気がどのように進化するのかを理解するうえで重要であるのと同時に、将来、生命が存在しうる地球型惑星を見つけるための望遠鏡技術の発展にも寄与するでしょう。
「SCExAO のような革新的な観測装置と、マウナケアの世界最高水準の観測環境によって、すばる望遠鏡はこれからも最前線の観測施設として画期的な発見を生み出し続けるでしょう」とキュリー博士と共に OASIS を牽引する葛原昌幸博士(アストロバイオロジーセンター)は語ります。
本研究成果は、2篇の学術論文として出版されました。
(1)Currie & Li et al. "SCExAO/CHARIS and Gaia Direct Imaging and Astrometric Discovery of a Superjovian Planet 3–4 λ/D from the Accelerating Star HIP 54515"(アストロノミカル・ジャーナル 2025年12月3日付)
(2)El Morsy et al. "OASIS Survey Direct Imaging and Astrometric Discovery of HIP 71618 B: A Substellar Companion Suitable for the Roman Coronagraph Technology Demonstration"(アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ;2025年12月3日付)
OASIS は、米国、日本、カナダ、チリ、ヨーロッパの研究者が参加する国際共同プロジェクトで、 NSF(米国科学財団)の支援を受けているほか、ローマン宇宙望遠鏡の重要戦略的ミッション支援として NASA の支援を受けています。本研究は、科学研究費助成事業(課題番号:24K07108)の支援を受けて実施されました。
(注1)この手法を用いた初の系外惑星発見については、2023年のすばる望遠鏡観測成果をご覧ください。
The Subaru Telescope is a large optical-infrared telescope operated by the National Astronomical Observatory of Japan, National Institutes of Natural Sciences with the support of the MEXT Project to Promote Large Scientific Frontiers. We are honored and grateful for the opportunity of observing the Universe from Maunakea, which has cultural, historical, and natural significance in Hawai`i.


