観測成果

銀河系内

宇宙初代の巨大質量星の明確な痕跡を発見

2023年6月6日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年7月19日

国立天文台・中国国家天文台などの研究チームは、すばる望遠鏡を用いた観測により、宇宙で最初に生まれた星々のなかには太陽 140 個分以上の重さの巨大質量星が存在したことを初めて明確に示しました。ビッグバン後の宇宙でどのように星が生まれてくるのかを理解する上で重要な研究成果です。

宇宙初代の巨大質量星の明確な痕跡を発見 図

図1:巨大質量の初代星による超新星爆発の想像図。星団のなかで最も質量の大きな星が最初に爆発し、周囲に物質を放出すると考えられます。高解像度画像はこちら(2.6 MB)。(クレジット:中国国家天文台)

宇宙で最初に誕生したのはどのような星だったのか。これはビッグバン後の宇宙でどのように物質が集まって天体を形成するようになったのかを解き明かすうえで最大の疑問のひとつです(注1)。最初の星々(初代星)は水素とヘリウムのみから成るガス雲から生まれ、星の中の核融合や、超新星爆発によって新たな元素を作り出し、多様な物質の世界を形作る最初の一歩となります。

初代星には、現在の宇宙にはほとんど存在しない大質量星が多く含まれていた可能性が、理論的に示されています。太陽の 140 倍を超える質量の星は、強烈な紫外線放射で星の周囲だけでなく宇宙全体の環境を変えるとともに、爆発エネルギーの大きな超新星(電子対生成型超新星)爆発を引き起こして次世代の星の形成にも大きな影響を与えた可能性があります(注2)。

その存在を示す明確な観測的証拠を求めて、遠方の銀河や銀河間物質の観測とともに、天の川銀河のなかの年齢の高い星の観測が行われてきました。年齢の高い星はビッグバン後まもなく誕生し、水素とヘリウム以外の元素をわずかしか含まないのが特徴で、「低金属星」とも呼ばれます。低金属星のなかには、初代星が放出した物質を取り込んだガス雲から生まれてきた「第2世代」とも呼べる星もあり、その星の元素組成は初代星の超新星が作り出した物質を記録しています。巨大質量星が起こす電子対生成型超新星は、通常の重力崩壊型超新星とは大きく異なる元素組成を作り出すため、低金属星の組成を測るとその痕跡を見分けることができると考えられます(注3)。

国立天文台と中国国家天文台等の研究者から成る国際研究チームは、中国の分光探査望遠鏡 LAMOST で天の川銀河の中の低金属星を多数見つけ出し、すばる望遠鏡を用いた観測で詳細な元素組成を測定する研究を積み重ねてきました。そして、そのうちの一つである「LAMOST J101051.9+235850.2」(以下では J1010+2358)が、電子対生成型超新星が作りだす特徴的な元素組成を示すことを発見しました(図2、3;注4)。これは、これまでに見つかっているなかで最も明確な電子対生成型超新星の痕跡といえるもので、初期の宇宙で太陽の 140 倍以上の質量をもつ星が形成されたとする理論を、強く支持する結果です。

宇宙初代の巨大質量星の明確な痕跡を発見 図2

図2:巨大質量星の痕跡を初めて明確に示した天体「LAMOST J101051.9+235850.2」の可視光線画像(SDSS による)。しし座の方向、地球から約 3000 光年の距離にある、太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約 16 等級です。(クレジット:SDSS/国立天文台)

宇宙初代の巨大質量星の明確な痕跡を発見 図3

図3:LAMOST J101051.9+235850.2 の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。上段で示している 10 太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは測定で得られた元素組成と全く合いません。中段は、85 太陽質量というかなり大質量の星が起こす重力崩壊型超新星の場合で、観測結果と部分的に合いますが、ナトリウム(Na)やマグネシウム(Mg)のほか、マンガン(Mn)やコバルト(Co)の組成が合っていません。下段で示したのが 260 太陽質量の星が起こす電子対生成型超新星のモデルで、観測結果を最もよく説明できます。(クレジット:中国国家天文台)

本論文の第一著者の Xing Qianfan 博士(中国国家天文台)は、「原子番号の奇数番(ナトリウムなど)と偶数番(マグネシウムやカルシウムなど)の元素の組成比に大きな差があるのは電子対生成型超新星の特徴で、理論の予測によく一致する結果です」と、J1010+2358 の元素組成比について説明します。

研究チームの ZHAO Gang 教授(中国国家天文台)は「この結果は、初期の宇宙に誕生した星の質量分布を探るうえで重要です。巨大質量の星が存在していたことをこれまでになくはっきりと示しました」と語っています。

すばる望遠鏡による観測プログラムを主導してきた青木和光教授(国立天文台)は、「LAMOST で見つけた星をすばる望遠鏡で詳しく調べるという研究を中国の研究グループと 10 年近く続けてきました。初代星に特有と考えられる巨大質量星の爆発の痕跡を探すことは大きな目標の一つでしたが、今回、それを達成することができたと言えます」と話しています。

では、初代星のなかでどのくらいの割合の星が巨大質量だったのか。これは次に解き明かすべき大きな課題であり、そのためにはさらに多数の星を探査し、その元素組成を測定する研究を積む必要があります。

動画:研究者からのコメント(クレジット:国立天文台)

本研究成果は、英国の科学誌『ネイチャー』に 2023年6月7日付で掲載されました(Qian-Fan Xing et al. "A metal-poor star with abundances from a pair instability supernova")。


(注1)最初の天体形成は、ビッグバン後の宇宙に存在した物質密度の不均一から始まります。膨張する宇宙のなかで、密度の高いところには重力の作用でますます物質が集まり、星が生まれてきます。

(注2)これまでのすばる望遠鏡の観測でも、通常の重力崩壊型超新星(注3)では説明できない特異な組成を持つ星が見つかっており、巨大質量星の存在は示唆されていましたが、超新星の理論モデルで説明しきれない問題も残されていました(ハワイ観測所 2014年8月21日 観測成果)。

(注3)太陽質量の数十倍の大質量星は、進化の最後に中心部の崩壊とともに大爆発(重力崩壊型超新星)を起こし、ブラックホール(もしくは中性子星)を形成します。その際に、炭素から鉄までの多様な元素を放出します。これに対し、太陽質量の 140 倍以上の大質量星では中心部があまりに高温になるために、電子・陽電子対を形成して崩壊し、その際に起こる核融合の暴走で爆発(電子対生成型超新星)します。さらに、太陽質量の 300 倍を超えると核融合の暴走でも星の崩壊をとめきれずにブラックホールになるとされます。

(注4)研究チームは、LAMOST による分光サーベイで観測された星から、銀河系の初期に生まれた小質量星の候補を多数選び出し、これまでに約 500 天体をすばる望遠鏡の高分散分光器(HDS)で詳しく調べてきました。J1010+2358 は、LAMOST による探査の段階で特異な組成を持つ可能性が示唆されていて、すばる望遠鏡により、詳しい元素組成が測定されました。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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