観測成果

銀河系内

AI が読み解く化石星からのメッセージ ―宇宙で最初に生まれた星は孤独ではなかった―

2023年3月22日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年5月8日

天の川銀河に存在する古い星の元素組成を、機械学習の手法を用いて解析した結果、宇宙で最初に生まれた「初代星」が連星系や星団として誕生したことが示されました。すばる望遠鏡に新たに搭載される分光器が取得する観測データに、この機械学習の手法を用いることで、初代星についての新たな知見が得られると期待されます。

AI が読み解く化石星からのメッセージ ―宇宙で最初に生まれた星は孤独ではなかった― 図

図1:本研究の模式図。「初代星」が単独で誕生するのか、それとも集団で誕生するのかによって、その次の世代として誕生する「古い星」の元素組成に違いが生じると予想されます。研究チームは機械学習によって、この違いから生じる特徴を見つけ出しました。(クレジット:Kavli IPMU)

宇宙で最初に誕生した星を「初代星」と呼びます。ビッグバンから初代星の誕生までは、今日我々の身近にある元素のほとんどは存在しませんでした。というのも、水素、ヘリウムより重い元素のほとんどは、恒星の一生とともに進む核融合反応によって作られるからです。初代星の誕生により、水素やヘリウムから、炭素や酸素などの元素(天文学では「金属元素」と呼びます)が初めて合成され、星の最期に起こる超新星爆発によって、星間空間にばらまかれました。こうして初代星が供給した元素によって、次の世代の星や銀河ができる土台が作られたのです。

初代星の性質は謎に包まれています。現在のところどのような観測装置を使っても、初代星を直接観測することはできません。唯一の観測的な手掛かりとなっているのが、天の川銀河に生き残る古い星々です。金属元素が特に欠乏した星「超金属欠乏星」は、初代星の作った元素を含むガスからできたと考えられているため、超金属欠乏星の元素の組成から、初代星の質量や超新星爆発についての手がかりが得られます。すばる望遠鏡の高分散分光器(HDS)は、こうした超金属欠乏星の元素組成を詳細に調べることができる世界有数の観測装置で、これまでに多くの古い星の元素組成データを提供してきました。

東京大学、国立天文台、英国のハートフォードシャー大学の研究者から成るチームは、古い星の元素組成から初代星の性質を解明するために、機械学習を用いた新しい手法を開発しました。特に注目したのは、初代星が単独で生まれるのか、あるいは連星系や星団として複数の星が同時に生まれるのか、という問題です。研究チームは、HDS の観測データを含む 450 個もの古い星の元素組成データを集約し、その結果、およそ 68 パーセントの星は複数の初代星から金属元素を提供されたと解釈できることを示しました。これは初代星が同時に複数生まれたかどうかという「マルチプリシティ」に対して定量的な制限を与える、初めての結果です。

研究を率いたティルマン・ハートウィグ助教(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構)は、「初代星の『マルチプリシティ』は数値計算で予測されていましたが、観測的に検証する方法はこれまでありませんでした。我々の研究結果は初代星が小さな星団で生まれ、複数の超新星が宇宙初期の星間空間の化学進化に影響していることを示唆します」と語ります。ハートフォードシャー大学の小林千晶教授は「今回我々の開発したアルゴリズムにより、来る大容量天文データを解析するための新たな手法が得られました」と補足します。

国立天文台ハワイ観測所の石垣美歩助教は、「これまでに詳細な元素組成が調べられているのは、太陽系のごく近傍の星々に限られています。すばる望遠鏡に搭載される超広視野多天体分光器(PFS)は最先端の多天体分光器で、2024年から大規模な探査観測が始まります。天の川銀河の外縁やアンドロメダ銀河など、これまでの望遠鏡では届かなかった遠方の星々の運動や化学組成を観測することができます。本研究のアルゴリズムを PFS が新たに見つける超金属欠乏星の観測データに適用することで、未知の初代星と我々の宇宙の始まりに、新たな知見が得られることが期待されます」と今後の展開に期待を寄せています。


本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に 2023年3月22日付で掲載されました(Hartwig et al. "Machine Learning Detects Multiplicity of the First Stars in Stellar Archaeology Data")。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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