観測成果

銀河の世界

超淡銀河から長く伸びる星の流れを発見

2023年1月26日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年2月9日

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラによる「M81 銀河群」の広域探査により、銀河群にある超淡銀河「F8D1」から中心銀河の方向へ古い星々が流れ出ている様子が明らかになりました。このような恒星ストリームが超淡銀河で発見されたのは初めてのことです。銀河群の力学進化とともに、謎に包まれた超淡銀河の起源に対して重要な示唆を与える研究成果です。

超淡銀河から長く伸びる星の流れを発見 図

図1:(左)すばる望遠鏡の HSC による M81 銀河群の観測領域(点線と赤線で囲まれた範囲、背景は SDSS 画像)。(右)左図の赤線で囲まれた範囲で、M81 銀河群の距離にある赤色巨星の分布を示したもの。今回発見された恒星ストリームは、とても暗いため、HSC の画像上ではまったく見えませんが、「銀河考古学」の化石に相当する赤色巨星をたどると、超淡銀河「F8D1」から銀河群の中心方向へ伸びる星の流れがあることが分かります。NGC 2976 銀河は M81 銀河群よりも手前に位置しており、右図では偶然ストリームに重なるように見えています。右上の拡大図は、HSC で撮像した F8D1 本体。高解像度の画像はこちら(1.2 MB)(クレジット:国立天文台)

国立天文台とエジンバラ大学の研究者を主体とする研究チームは、2014年からすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム, HSC)を使った撮像探査「M81 銀河考古学プロジェクト」を続けてきました(図1左)。地球から 1200 万光年の距離にある「M81 銀河群」は、私たちの最も近くにある銀河群の一つです。渦巻銀河 M81 を中心に大小 40 個以上の銀河からなるこの銀河群は、天の川銀河とアンドロメダ銀河を中心とする「局所銀河群」と似た性質を持つことから、天の川銀河の歴史を解き明かす上でも重要な研究対象となってきました。

この M81 銀河群に属する矮小銀河の一つ「F8D1」は極端に暗く、淡く広がっている「超淡銀河」です。超淡銀河がその大きさに比してごくわずかな数の星しか含まないのはなぜなのか - この長年にわたって天文学者を悩ませている問題に取り組む上で、私たちに最も近い超淡銀河である F8D1 は格好の調査対象です。

F8D1 の周辺を調べるため、研究チームは、HSC で撮られた画像に映る一つ一つの天体から、M81 銀河群の距離にある赤色巨星だけを取り出しました。そして、F8D1 から M81 の方向に1度角以上に渡って伸びた尻尾のような構造「恒星ストリーム」を発見しました(図1右)。その広がりは約 20 万光年で、F8D1 銀河本体の大きさの 30 倍以上にも及びます。また、恒星ストリームの明るさは、F8D1 本体から3分1以上もの星々が流れ出たことを示していました(注1)。研究チームは、矮小銀河の F8D1 が巨大な M81 銀河の近くを通過した際に強い潮汐力を受けたことで、このような姿になったと推測しています。

F8D1 とその巨大な恒星ストリームは、過去数十億年の間に起こった銀河間の重力相互作用によって、銀河の性質が大きく変わってしまった一例といえます。超淡銀河がどうやってできたのか、果たして生まれながらに淡く広がっていたのか、あるいは成長過程でこのような姿になったのか - この問いに対して、F8D1 は、後者であることを明確に示す初めての例となりました。

本研究を主導したエジンバラ大学博士課程のルーカス・ゼマイティスさんは、「F8D1 が潮汐的に破壊されつつあることは非常に興味深い発見です。今後、他の超淡銀河にも、同じように暗い潮汐尾があるかどうか調べることが重要でしょう」と語ります。

共著者の岡本桜子助教(国立天文台ハワイ観測所)は「F8D1 の恒星ストリームの発見によって、M81 銀河群の力学進化がこれまで考えられていた以上に複雑であることがわかりました。M81 のような巨大銀河は F8D1 のような小さな銀河がいくつも合体することで、大きく成長してきたと考えられています。F8D1 から多くの星々が流れ出ている様は、M81 が成長するまさにその瞬間を見ているとも言えます」と銀河群の力学進化の観点から補足します。

F8D1 は探査領域のちょうど端に位置しているため、一般的に銀河を中心にして対称に現れる潮汐尾構造の片方しか確認されていません。F8D1 の南西側(図1の右下)がどうなっているか調べるために、研究チームは今後も HSC での観測を続ける予定です。さらに、「すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器 (PFS)などによる追観測で運動情報を調べることで、超淡銀河の力学質量や M81 銀河群の進化史に迫ることができるでしょう」と岡本助教は今後の期待を語ります。


本研究成果は、Žemaitis et al. "A tale of a tail: a tidally disrupting ultra-diffuse galaxy in the M81 group"として、英国の王立天文学会誌に 2022年11月2日付で掲載されました。


(注1)F8D1 の明るさや中心座標を調べるために、研究チームはカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡の MegaCam カメラによる観測も行いました。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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