観測成果

遠方宇宙

ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る

2022年7月21日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年1月12日

国立天文台の研究者を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡などによるアーカイブデータを解析することで、宇宙で最もエネルギーの高い爆発現象の一つであるガンマ線バーストを「ものさし」として、132 億光年までもの宇宙の距離を測定する方法を発見しました。初期宇宙の膨張率を独立に測定し、その進化を探る新たな手段を提供する研究成果です。

ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る 図

図1:本研究のイメージ画像。ガンマ線バースト(ジェットを噴き出している光点)を用いて宇宙の膨張を測定してます。高解像度画像はこちら (3MB) (クレジット:国立天文台)

広大な宇宙の奥行きを測るために、天文学者は、「標準光源」と呼ばれる、真の明るさが常に同じである天体を見いだし、利用してきました。真の明るさと観測上の明るさを比較することで、標準光源までの距離、ひいては同じ領域にある他の天体までの距離を知ることができるのです。遠方宇宙の標準光源として用いられている超新星爆発は、110 億光年までの距離を測ることができます。一方、ガンマ線が突発的に放出される「ガンマ線バースト (GRB)」は宇宙で最も明るい天体現象です。GRB を標準光源として用いることができれば、132 億光年という遙かに遠い距離まで測れる可能性があるのです。

GRB の発生後は、数日にわたって「残り火」とも言える残光が観測されます。国立天文台のマリア・ダイノッティ助教を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡などの複数の望遠鏡で観測された 500 個の GRB の可視光データを解析し、その光度曲線の特徴を調べました (図2)。そして、「プラトー」と呼ばれる、残光の明るさがほぼ一定の部分を持つ 179 個の GRB が標準光源となることを示したのです (図3)。

ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る 図2

図2:GRB の光度曲線 (明るさの時間変化) の一例。研究チームは残光の明るさがほぼ一定の「プラトー」の期間を持つ 179 天体に注目し、「GRB のピーク時の明るさ」、「プラトーの継続時間」、「プラトーが終了した時の明るさ」の3つのパラメータの関係を調べました。(クレジット:Maria Dainotti et al.)

ガンマ線バーストの残り火を使って宇宙を測る 図3

図3:「GRB のピーク時の明るさ」、「プラトーの継続時間」、「プラトーが終了した時の明るさ」を3軸に取ったときの GRB の分布。研究チームは、179 個の GRB がある平面上に分布することを示しました。この3軸の相関関係を利用して、これらの GRB の絶対光度 (真の明るさ) を求めることが可能になります。 (クレジット:Maria Dainotti et al.)

ダイノッティ助教の研究チームは、2016 年に、X線観測でも同様の法則を発見していますが、可視光観測で得られた関係も合わせることで、より正確な距離の測定が可能になるとしています。さらに、可視光観測で得られた関係を利用することによって、宇宙の膨張率などの宇宙論パラメータがより高い精度で求められることがシミュレーションから分かりました。

X線と可視光の両データの解析から、GRB の物理メカニズムについても新たな知見が得られました。波長依存性を調べた結果、研究チームは、プラトーを示す 179 個の GRB は、高速回転する中性子星 (マグネター) に由来する可能性が高いと結論しています。

ダイノッティ助教は「今回、可視光で初めて発見された3次元的な相関関係は、選択バイアスや赤方偏移によらない本質的なものです。そのため、これらの特徴を示す 179 個の GRB に共通する放射メカニズムを特定することができるのです。将来的には、高い精度で宇宙論パラメータを求められる、宇宙論的な標準光源として利用できると考えられます」と本研究の意義を語っています。


本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ』に2022年7月21日付で掲載されました (Dainotti et al. "The Optical Two and Three-Dimensional Fundamental Plane Correlations for Nearly 180 Gamma-Ray Burst Afterglows with Swift/UVOT, RATIR, and the SUBARU Telescope")。


すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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