観測成果

銀河の世界

埋もれた暗黒物質の地図を掘り起こす ―観測、シミュレーション、人工知能のタッグで描くクリアな宇宙―

2021年7月1日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2021年7月27日

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラから得られた暗黒物質 (ダークマター) の「地図」に対して、人工知能 (AI) を利用することで、観測のノイズを取り除く手法が開発されました。この AI の学習には、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」による5万枚ものシミュレーション画像が使用されています。観測、シミュレーション、AI 技術がタッグを組むことで、天文学が新しい領域へと踏み出していく可能性を示した重要な成果です。

埋もれた暗黒物質の地図を掘り起こす ―観測、シミュレーション、人工知能のタッグで描くクリアな宇宙― 図

図1:本研究のイメージ。深層学習技術 (ディープラーニング) を使って観測データからノイズを取り除くことで、埋もれていたダークマターの情報が得られるようになる。 (クレジット:統計数理研究所)

ダークマターは、宇宙の質量の約8割を占め、星や銀河、銀河団などの宇宙の構造を形成する役割を果たすと考えられている正体不明の物質です。その正体を解明するためには、宇宙のどこにどの程度存在するのかという情報、つまり、ダークマターの「地図」が鍵になります。ダークマターは光を発しませんが、その重力によって、背景に存在する銀河の像がゆがめられる現象 (重力レンズ効果) が起こります。この重力レンズ効果を測ることでダークマターの地図を描き出そうという試みが、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) を用いた観測で精力的に行われています (注1)。

ところが、観測から描かれるダークマターの地図には、銀河が重力レンズでゆがむ前の形状が不明であることや、暗い銀河ほど形状測定が困難であることなどによって、ノイズが混入します。銀河団 (注2) のようなダークマターが特に集中した領域以外では、ノイズの影響が無視できないことが、これまでの研究から指摘されていました。

統計数理研究所で研究を進める白崎正人 国立天文台助教らの研究チームは、人工知能 (AI) の一つである深層学習 (ディープラーニング) 技術を利用し、観測から得られるダークマターの地図からノイズを取り除く方法を開発しました。この AI を安定して動作させるためには、ノイズを含まないダークマターの地図と、観測データそっくりのノイズを含んだダークマターの地図を大量に使い、AI を訓練しなければなりません。そのため研究チームは、2万5000組にも及ぶノイズ無し・有りの模擬的なダークマターの地図の組み合わせを、国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションから作成しました。そして、これらの模擬データによって訓練された AI に、実際の HSC の観測から得られたダークマターの地図を入力することで、ノイズを取り除いたダークマターの地図を作成することに成功したのです。

このようにノイズを取り除いたダークマターの地図を用いることで、これまで観測だけでは調べることが難しかったダークマターの低密度領域、例えば質量が銀河団の 10 分の1程度の銀河群の調査が可能になりました。

本研究で用いた HSC データは、HSC による大規模探査 (HSC-SSP) で最終的に取得されるデータサイズのおよそ 1.5 パーセント程度です。今回開発した技術を最終データに適用することで、1400 平方度 (およそ満月 7000 個分相当) に及ぶダークマターの詳細な地図を描き出すことが予定されています。この地図をもとに、ダークマターの基本的な性質をより詳細に調べることで、ダークマターの正体にまた一歩近づくことが期待されます。

本研究は、ノイズに隠された暗黒物質の情報を、AI を用いたデータ解析から巧みに引き出すことによって、HSC データの科学的価値を高められることを実証しています。観測、シミュレーション、AI 技術がタッグを組むことで、天文学が新しい領域へと踏み出していく可能性を示した重要な成果です。


本研究成果はShirasaki et al. "Noise reduction for weak lensing mass mapping: an application of generative adversarial networks to Subaru Hyper Suprime-Cam first-year data" として、英国の『王立天文学会誌』 2021年6月号に掲載されました。


(注1) 詳しくは、2015年7月1日のプレスリリース (すばる望遠鏡 Hyper Suprime-Cam が描き出した最初のダークマター地図) をご覧ください。

(注2) 明るい銀河を 100 個以上含む銀河の集団を銀河団といいます。暗い銀河まで含めると、一つの銀河団には典型的に 1000 個以上の銀河が存在します。

■関連タグ