観測成果

銀河系内

すばる望遠鏡の新分光器で系外惑星にOH分子を発見

2021年4月26日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2021年4月27日

すばる望遠鏡の新分光器で系外惑星にOH分子を発見 図

図1:太陽系と WASP-33 星系との比較。系外惑星 WASP-33b は、太陽と水星の距離と比べてはるかに小さい軌道で太陽より高温の恒星のまわりを公転しています。惑星と恒星の距離は恒星半径の約4倍しかありません。そのような惑星の表面は、月と地球の関係のように、常に恒星を向いた昼側とその反対の夜側に分けられます。その結果、この系外惑星の昼側の表面温度は摂氏 2500 度以上に達します。図の惑星の軌道の大きさのスケールは正しくないことに注意。 (クレジット:上図 WP、CC BY-SA 3.0Wikimedia Commons、下図 アストロバイオロジーセンター)

自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの研究者を中心とする国際チームは、系外惑星 WASP-33b の昼側の大気中に、ヒドロキシラジカル (OH) 分子を発見しました。この系外惑星は、「ウルトラホットジュピター」と呼ばれる巨大ガス惑星で、太陽系でいえば水星の軌道よりはるかに内側の軌道で恒星 (主星とも呼びます) の周りを公転しています (図1)。そのため、この惑星の大気温度は摂氏 2500 度以上にもおよび、ほとんどの金属を溶かすことができるほどの高温になります。この論文の筆頭著者であるアストロバイオロジーセンターのヌグロホ博士は、「太陽系以外の惑星において世界で初めて OH を検出しました。この発見は、系外惑星大気の分子を検出したというだけでなく、惑星大気の化学的な性質を詳細に理解することができるようになったことを示しています」と語ります。

地球の大気では、OH は主に水蒸気と酸素原子との反応で生じます。これは、「大気の洗剤」とも呼ばれ、メタンや一酸化炭素などの生命に対して有害となりうる物質を大気から取り除く重要な役割を果たしています。地球よりさらに熱く、大きな系外惑星である WASP-33b では、これまで鉄や酸化チタンのガスは検出されていましたが、今回初めて発見された OH はこの惑星大気の中で水蒸気と一酸化炭素との相互作用を通し、大気組成を決める上で重要な役割を果たしています。WASP-33b における OH のほとんどは、惑星大気の高い温度により水蒸気が壊されることで生じると考えられています。「我々のデータでは、水蒸気は少ないと考えられるため、惑星大気が極端に高温な状態で水が解離するという考えをサポートしています」とクイーン大学のエルンスト博士は話しています。

すばる望遠鏡の新分光器で系外惑星にOH分子を発見 図2

図2:「ウルトラホットジュピター」である WASP-33 星系の想像図。星の半径と軌道距離のスケールは正しくないことに注意。 (クレジット:アストロバイオロジーセンター)

この発見は、標高 4200メートルのハワイ・マウナケア山頂域にあるすばる望遠鏡に新しく搭載された IRD という近赤外線の高分散分光器を用いることで達成されました。この装置は、恒星や惑星に存在する原子や分子をスペクトルの中に吸収線として検出することができます。系外惑星が主星を公転するとき、地球に対して系外惑星の速度は時間に応じて変化します。これは、救急車などが私たちのそばを通り過ぎるときにサイレンの音程が変化する「ドップラー効果」と同じ原理で、音程ではなく、色がわずかに変化します。これにより、スペクトル中に含まれる原子・分子の特徴が主星によるものか、惑星によるものかを区別することができます。惑星からの光は非常に弱いため、通常の観測では主星と惑星の光は直接に分離することができませんが、この特別な方法によって初めてウルトラホットジュピターからの OH 分子に起因する信号を分離することができました。

今回、すばる望遠鏡が誇る IRD 独自の機能を活用することにより、系外惑星大気中のわずかなヒドロキシ分子を検出することができました。「IRD は、系外惑星の大気を赤外線で調べるために最適の装置です」と語るのは、IRD 開発責任者のひとりであるアストロバイオロジーセンター長の田村教授です。「現代天文学の目標のひとつは、『地球のような』惑星を探すことです。発見される新しい大気成分は、系外惑星の理解と大気研究のための技術を深め、この目標へと導いてくれます」とトリニティ大学のギブソン助教は言います。「今回は極端に熱い惑星が対象でしたが、更なる開発を進めることで、より冷たい惑星、最終的には第二の地球の大気を調査できるようにしたい」と、東京大学の河原助教は言います。

クイーン大学のワトソン教授は以下のように語っています。「これらの観測は小さな岩石惑星に生命の兆候を探す TMT (30メートル望遠鏡) や ELT (欧州超大型望遠鏡) といった次世代超大型望遠鏡で観測するためのテストベッドになります。そして、この手法を発展させることで、『我々は宇宙で孤独な存在なのか』という最も古い問いに対するヒントを得られるかもしれません」


この結果は、発見的成果の掲載で定評のあるアストロフィジカルジャーナル・レター (2021年3月23日号) に出版されました (Nugroho et al. 2021, "First Detection of Hydroxyl Radical Emission from an Exoplanet Atmosphere: High-dispersion Characterization of WASP-33b Using Subaru/IRD")。

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