観測成果

銀河系内

すばる望遠鏡の新しい系外惑星撮像装置による初の発見的成果

2020年12月10日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年12月15日

すばる望遠鏡の新しい系外惑星撮像装置と系外惑星を直接に探査するための新しいアイデアを組み合わせることにより、これまでより効率的に恒星を周回する新天体を発見することが可能になりました。そして、この手法による最初の超低質量天体 HD 33632 Ab が発見されました。この天体は既知の系外惑星と比較する上でも重要です。

すばる望遠鏡の SCExAO (スケックスエーオー) と CHARIS (カリス) は系外惑星や恒星まわりの円盤を観測するための最新鋭装置です。SCExAO は、あたかもすばる望遠鏡を大気の揺らぎのない宇宙に打ち上げたようなシャープな星像を作る極限的な補償光学系、CHARIS は天空の微小な面の各点のスペクトルを一度に取得できる面分光の機能を持ちます。この両者を組み合わせることによって、これまでにない高いコントラストで天体を撮像し、同時にそのスペクトルを観測することが可能になります。

このシステムは約2年間にわたってすばる望遠鏡で調整を進められ、いくつかの天体の観測で既に成果を挙げてきました (注1)。今回、国立天文台やアストロバイオロジーセンターの研究者を含む国際研究チームにより、この新システムによって超低質量天体 (褐色矮星;注2) HD 33632 Ab が新たに発見されました (図1)。HD 33632 Ab は、年齢は 15 億年と太陽よりは多少若いものの、それ以外の特徴は我々の太陽と似ている恒星を周回しています。ぎょしゃ座の方向、地球から86光年の距離にあります。

すばる望遠鏡の新しい系外惑星撮像装置による初の発見的成果 図

図1:SCExAO/CHARIS による HD 33632 Ab の直接撮像画像。十字の位置にある中心星からの明るい光の影響は新装置により除去されています。その右横のbの上の点源が、発見された新天体。新天体から恒星までの距離は 20 天文単位 (太陽と地球の距離の 20 倍) で、これは太陽から天王星までの距離とほぼ同じです。(クレジット:T. Currie, NAOJ/NASA-Ames)

SCExAO と CHARIS による観測は2018年10月に行われ、その一ヶ月後にケック望遠鏡でも観測が行なわれました。その結果、恒星 (中心星) から 20 天文単位しか離れていない距離に、HD 33632 Ab が見つかりました。そして、COVID-19 の影響を受けつつも、2020年8月31日と9月1日に、さらに時間をかけて追試観測が行われました。これにより、HD 33632 Ab が単なる背景星ではなく、その主星に重力的に束縛された新天体であることが証明できました。CHARISにより得られた HD 33632 Ab のスペクトルはいくつかの山と谷からなる形をしています (図2左)。これは HD 33632 Ab の大気中に存在する水や一酸化炭素のガスによるものです。

「新装置によって得られた非常にシャープな画像のおかげで、HD 33632 Ab が発見されただけでなく、天球上での正確な位置や天体の大気の性質を解明するためのスペクトルまで得られました」と、ハワイ観測所を併任する本研究の主著者のセイン・キュリー博士は語ります。

すばる望遠鏡の新しい系外惑星撮像装置による初の発見的成果 図2

図2:SCExAO/CHARIS で得られた HD 33632 Ab の性質。 (左) スペクトルは、天体大気中の水蒸気や一酸化炭素の吸収によって、でこぼこした形を示しています。 (右) 天体の位置の変化から軌道を決定するためのモデル。これによって天体の質量が定まります。複数の楕円のうち、黒の太線で描かれた楕円が、最適解として得られた HD 33632 Ab の軌道で、丸印は 10 年毎の予想位置を表します。その他の楕円は、HD 33632 Ab の質量として仮定された値により色づけされています (右側の目盛り)。(クレジット:T. Currie, NAOJ/NASA-Ames, T. Brandt, UCSB)

HD 33632 Ab の発見には、これまでの系外惑星直接探査の問題であった検出率の低さを克服するための新しいアプローチが利用されました。恒星を周回する惑星や褐色矮星は、その重力により微小ながらも中心星を周期的にふらつかせます。2013年に打ち上げられた位置天文観測衛星ガイアによって、中心星の運動を、天球面上の位置の変化として測ることが可能になりました。本研究チームは、ガイアのデータを利用して、軌道半径の大きな惑星や褐色矮星を伴っていそうな恒星を選び出し、直接観測による探査を進めています。HD 33632 Ab の検出はまさに、このアプローチが効果的であることを証明したといえます。

「HD 33632 Ab は、天球面上での星のふらつきを目当てにして直接撮像で発見した最初の褐色矮星です。これまでの褐色矮星探しは運試しのようなものでしたが、今回は勝算の高い探査が可能になりました」と、ガイアデータに詳しい共同研究者のティモシー・ブラント博士 (カリフォルニア大学・サンタバーバラ校助教授) が語ります。

ガイアなどで観測された中心星の運動と、すばる望遠鏡/ケック望遠鏡で観測された HD 33632 Ab の位置の変化から、HD 33632 Ab の軌道を解析した結果 (図2右)、ケプラーの法則による HD 33632 Ab の力学的な質量は、木星の約 46 倍と見積もられました。惑星と褐色矮星を区別する際に、通常その質量が木星の 13-14 倍以下である場合は惑星と呼んでいます。HD 33632 Ab の質量はこの境界値よりも大きく褐色矮星の範囲になりますが、軌道の離心率は低く、これまで直接撮像で発見された惑星と同様の傾向を示します。

2008-2010年に最初に撮像され、直接撮像で最も詳しく調べられている惑星系である HR 8799 の系外惑星を理解するために、HD 33632 Ab は重要な天体になるでしょう。年齢4千万年の HR 8799 に対し、HD 33632 はずっと年老いています。しかし、質量が大きく表面重力も大きいので、HD 33632 Ab の表面温度は HR 8799 の惑星とほぼ同じになります (注3)。一方、HD 33632 Ab の質量は力学的に良く決定され、HR 8799 の惑星の質量もいろいろな手法で制限が付いています。つまり、HD 33632 Ab と HR 8799 の惑星は、異なる年齢や重力のため温度が違う超低質量星 (惑星や褐色矮星) の大気の違いを理解するために最適な天体と言えるでしょう。

「HR 8799 系のような系外惑星の大気はモデル化が難しいことで有名で、厚い雲のような特異な性質を持っていると考えられています。今回の新天体は、このような複雑な系外惑星の大気を理解するためにも重要です」とキュリー博士は述べています。

これまでの直接撮像の探査による惑星と褐色矮星の検出率は、数パーセント程度と非常に低いものでした (注4)。本研究チームは、位置天文観測衛星のデータを利用した新しい手法で探査観測を行なっています。この探査はまだ始まったばかりですが、研究チームはすでに複数の新しい有望な候補を見つけており、過去の探査観測よりも高い頻度で惑星と褐色矮星を発見できると期待しています。

「この新装置による観測は、すばる望遠鏡で AO188 と HiCIAO 装置を用いて成功した SEEDS の発見をさらに拡大するでしょう。SCExAO と CHARIS のコンビによって、すばる望遠鏡は系外惑星と褐色矮星の直接観測の最先端にとどまり続けるでしょう」と共同研究者の田村元秀教授 (東京大学/アストロバイオロジーセンター) と葛原昌幸特任助教 (アストロバイオロジーセンター) は SCExAO/CHARIS への期待を語っています。

すばる望遠鏡の新しい系外惑星撮像装置による初の発見的成果 図3

図3:すばる望遠鏡のナスミス焦点に設置されている SCExAO と CHARIS。(クレジット:プリンストン大学カリス・チーム、国立天文台)

本研究成果は、米国の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』(2020年11月30日付) に掲載されました (Currie et al., "SCExAO/CHARIS Direct Imaging Discovery of a 20 au Separation, Low-Mass Ratio Brown Dwarf Companion to an Accelerating Sun-like Star")。


(注1) SCExAO と CHARIS による研究成果として、原始惑星系円盤の観測 「すばる望遠鏡が写し出す、惑星が隠れた若い惑星系の姿」などがあります。

(注2) 褐色矮星は、その質量が軽すぎるために恒星になれなかった星です。

(注3) 木星のような巨大惑星の場合、一般的に若い惑星の方が温度は高いことが期待されます。また惑星よりも質量の大きな褐色矮星の方が温度が高いと考えられます。HR 8799の惑星は若いため、より質量の大きな褐色矮星であるHD 33632Abに近い温度をしていると考えられます。

(注4) 過去の直接撮像探査としては、すばる望遠鏡のSEEDSプロジェクトや、共にチリにある Gemini (ジェミニ) 望遠鏡の GPI (ジーパイ) や VLT (ブイエルティー) の SPHERE (スフィア) による観測などがありますが、これらの探査による惑星と褐色矮星の伴星の検出率は数パーセント程度でした。

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