観測成果

遠方宇宙

生まれたばかりの宇宙で成熟した銀河が急速に出現していた

2020年10月27日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年11月12日

約 120 億年前の銀河を多波長で調べる大規模探査観測 (サーベイ) の結果、宇宙初期の銀河が予想されていた以上に成熟した姿を見せていることが分かりました。このサーベイにおいて、すばる望遠鏡は主焦点カメラ Suprime-Cam とその後継である超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam で得られた観測データを提供しています。

「ALPINE (アルパイン)」と名付けられたこの観測プロジェクトは、可視光から電波にわたる多波長観測で宇宙初期の銀河を調べる最初の大規模サーベイです。私たちから約 120 億光年の距離にある 118 個の銀河の性質を調べるために、マウナケアにある二つの望遠鏡 - すばる望遠鏡とケック望遠鏡も可視光域で重要なデータを提供しました。

これらの銀河はビッグバンからわずか 10 億年から 15 億年後の、多くの銀河がまさに成長しつつある時期にあると考えられています。しかし、サーベイの結果、驚いたことに、その成長速度は予想よりも早かったのです。ALPINE の共同代表研究者である Andreas Faisst 博士 (米国・カリフォルニア工科大学) は、「このような遠方銀河でこれほどの塵と重元素が検出されるとは思っていませんでした」と語ります。

天文学者達は、銀河が塵と重元素 (注1) を十分に含む場合に、「成熟した銀河」と形容します。塵と重元素は星が死ぬ時に生み出されるため、星の誕生から死に至る時間がその銀河の中であったことを意味するからです。初期宇宙にある成長中の銀河は、まさに星が生まれ始めている時期であり、塵と重元素の量は少ないだろうと、予想されていました。しかし、ALPINE サーベイの結果、約2割の銀河が塵と重元素を豊富に含む成熟した姿を見せたのです。

また、初期宇宙では銀河同士の衝突がよく起こるため、ひしゃげた銀河が多いだろうと予想されていました。ところが、ALPINE サーベイが描き出したのは、より多様な銀河の形態でした。「多くの銀河が衝突していましたが、一方で、衝突の兆候を示さず整然と回転する銀河も多くありました」と共同代表研究者の John Silverman (ジョン・シルバーマン) 博士 (東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構) は語ります。回転円盤を伴う銀河はより成熟した段階で、いずれは私たちの天の川銀河のような渦巻銀河へ成長するかもしれません。

生まれたばかりの宇宙で成熟した銀河が急速に出現していた 図

図1:初期宇宙における大量の塵を含んだ回転円盤銀河の想像図。赤色部分はガス、青/茶色部分は塵を表しまます。背景には、すばる望遠鏡などの可視光観測データに基づく多数の銀河が表現されています。(クレジット: B. Saxton NRAO/AUI/NSF, ESO, NASA/STScI; NAOJ/Subaru)

銀河が成長する姿を多角的に捉えるためには、多波長の観測が必要です。ALPINE サーベイでは、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡、VISTA 望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、VLT 望遠鏡による可視光観測に加えて、スピッツァー宇宙望遠鏡による赤外線観測、そしてアルマ望遠鏡による電波観測でデータが集められました。ALPINE のように大規模で複雑なサーベイは、複数の研究機関による国際協力によって初めて可能になったといえます。

今後、初期宇宙の銀河の予想外に早い成長や、衝突の原因を調べるために、「C3VO」と呼ばれる新たなサーベイが計画されています。すばる望遠鏡とケック望遠鏡も加わり、ALPINE サーベイの銀河を含む数多くの遠方銀河の環境を広範囲にわたって調べることで、銀河がどのようにして現在の姿になったのか解き明かしたいと、研究チームは考えています。


ALPINE グループのこれまでの成果に関する論文は下記 URL よりご覧いただけます。
http://alpine.ipac.caltech.edu/#publications


(注1) 天文学においては、水素とヘリウムよりも重い元素を重元素と呼びます。

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