観測成果

銀河の世界

惑星状星雲の観測が描き出した楕円銀河形成過程の痕跡

2020年10月7日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年10月27日

すばる望遠鏡を用いた研究チームが、楕円銀河 M105 を取り囲むように散らばっている惑星状星雲の分布を測定することにより、低金属量の古い星々が銀河の周りに広く存在していることを明らかにしました。銀河の重力から解放されたかのように散らばるこれらの星々は、小さな構造の合体が繰り返されて銀河の群れが形成されたことを示す重要な証拠と考えられます。

この宇宙の中で銀河が孤立して存在することはまれで、ほとんどの場合、銀河群や、銀河団という階層構造の一部として存在します。これらの構造はどのようにしてできたのでしょうか? 宇宙の標準モデルでは、最初に小さな構造が形成され、それらが集合してより大きな銀河や銀河群が形成されたと考えられています。この場合、銀河と銀河の間にも星々が取り残されると考えられています。そこで、観測によって、銀河同士の隙間に散らばった星々を探し、それらがいつ生まれたのか明らかにすることが重要になります。

ヨーロッパ南天天文台、マックス・プランク地球外物理学研究所などの研究チームは、しし座の銀河群 Leo I に注目しました。Leo I は、楕円銀河、渦巻銀河、矮小銀河とすべてのタイプの銀河を含む銀河群としては、私たちから最も近くにあり (距離 3300 万光年)、中心に M105 (NGC 3379) という楕円銀河があります。

Leo I の隙間に散らばる星々を調べる目印として、研究チームは惑星状星雲を利用しました。惑星状星雲は私たちの太陽のような星の晩年の姿です。星の中心部がむき出しになり、放出された外層のガスは星雲として、アクアマリンの色合いで輝きます。これは波長 500.7 ナノメートルの酸素原子の輝線によるもので、地球大気で見られるオーロラと同じ色合いです。終末期の星がまとった明るい星雲の輝きが M105 の周囲を探査するための目印となりました。

観測は、すばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) と、ウィリアム・ハーシェル望遠鏡に取りつけられた分光器 Planetary Nebula Spectrograph (PN.S) を用いて行なわれました。M105 周辺の惑星状星雲をこれまでになく広い範囲で見つけだすために、Suprime-Cam の広い視野が威力を発揮しました (図1)。

惑星状星雲の観測が描き出した楕円銀河形成過程の痕跡 図

図1:(左) 観測された惑星状星雲の分布。すばる望遠鏡とウィリアム・ハーシェル望遠鏡で観測された惑星状星雲がそれぞれ青の丸と赤のクロスで示されています。背景はデジタイズド・スカイサーベイの画像で、M105 (中央) や NGC 3384 (左上) などの銀河が写っています。(右) Suprime-Cam 画像のうち、観測領域の一部を示したもの。惑星状星雲を見つけるために、酸素原子の輝線に相当する狭帯域フィルター (上) と V バンドフィルター (下) が用いられました。(クレジット:J. Hartke (ESO))

観測の結果、M105 の中心から 16 万光年も離れた領域にまで惑星状星雲が分布していることが明らかになりました。これは、M105 の有効半径 (注1) の 18 倍に相当する広がりで、可視光の広帯域フィルターで観測される光の広がりから推定した通常の星の分布に比べると、明らかに大きな広がりです。つまり、M105 の外側では年老いた星が際だって多く存在しているということになります。惑星状星雲の前身である赤色巨星 (注2) についての過去の観測と比較した結果、金属量が非常に少ない古い星は、惑星状星雲と同じ分布傾向を示していました。過去に赤色巨星の分布が調べられたのは、銀河の周辺の狭い範囲に限られていましたが、今回の結果から M105 外縁部では惑星状星雲と同じく金属量が非常に少ない古い星が銀河の周辺に広く分布していると研究チームは結論しています。

これは、楕円銀河外縁部での惑星状星雲の分布と低金属星の関連を初めて明らかにしたという点で画期的な成果です。これらの古い星々からの光は、M105 の明るさのたった4パーセントですが、その広がりは銀河の大きさの 18 倍にまでおよんでおり、ダークマターの質量や構造に制限をつけるのに格好の材料となっています。研究チームは、今後、広範囲に分布する惑星状星雲の運動を測定し、ダークマターの分布を仮定した力学モデルと比較することによって、例えば、ダークマターが一つの大きな塊としてか、あるいは複数の小さな塊として存在するのかということまで区別できるだろうと期待しています。


この研究成果は、天文物理学誌『アスロノミーアンドアストロフィジックス』に2020年10月7日付で掲載されました (Johanna Hartke et al. 2020, "The halo of M105 and its group environment as traced by planetary nebula populations: I. Wide-field photometric survey of planetary nebulae in the Leo I group")。


(注1) 有効半径は、銀河の典型的な大きさを表す指標で、銀河の表面輝度の半分を含む半径として定義されます。

(注2) 太陽のような星は、進化が進むと膨張し、明るく輝く段階を迎えます。このような星は赤色巨星とよばれます。色-等級図上での赤色巨星の分布 (赤色巨星分枝) で、色の違いに着目することにより、赤色巨星の金属量が推定されます。本研究で金属量が非常に少ないとされる赤色巨星は、太陽の 10 分の1程度の金属量です。惑星状星雲は赤色巨星がさらに進化し、表面から物質が放出されて周囲に星雲を作っている段階にあたります。


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