太陽のような比較的軽い星が進化した段階である赤色巨星のなかに、リチウムを異常に多く含む星が見つかっており、大きな謎のひとつとなっています。国立天文台、中国国家天文台などの研究チームが行った星の表面組成と内部構造の測定により、極端に多くのリチウムを持つ星は、中心部でヘリウムの核融合を起こす進化段階にあることが明らかになりました。星の進化の研究に残された謎の解明に向け、有力な手がかりとなる研究成果です。
太陽のような星 (恒星) は、中心部での水素の核融合により長期間にわたって輝き続けます。しかしその結果として中心部の水素がヘリウムにかわってしまうと、ヘリウムを主成分とする中心部の周辺で起こる水素の核融合が星を支えるようになります (図1)。このときに星の明るさは増し、赤色巨星とよばれる段階に移行します。この際に星の表面付近の対流が活発になり、内部の物質と表面物質がよく混ざった状態となります。水素・ヘリウムについで軽い元素であるリチウムは、高温となる星の内部では壊れてしまうため、対流の活発な赤色巨星においては表面でもリチウムの量が少なくなることが知られています。ところが一部の赤色巨星ではリチウムの量が予想よりも何桁も多くなっていることが知られており、大きな謎となっています。 (注1)

図1:星の進化と内部構造の概念図。太陽のような星は中心部での水素の核融合によって輝いています。これにより中心部ではヘリウムが多くなり、やがて水素の核融合がその周辺で起こるようになります。このときに星は大きく膨らみ、赤色巨星段階に移行します。これが進行すると星は次第に明るさを増しますが、中心部にはヘリウムがたまっていきます。やがて中心部の温度が上がるとヘリウムが核融合を始め、その周辺での水素の核融合が停止し、しばらくほぼ一定の明るさで輝く段階に入ります。この段階にある星は赤色巨星のなかでも「クランプ星」とよばれます。中心部周辺で水素が核融合を起こしている赤色巨星とは進化段階や内部構造は大きく異なりますが、似たような温度と明るさとなる場合が多く、見かけ上区別が難しくなります。この研究では星の振動のデータからこの二つのタイプの星を区別し、リチウムの著しい過剰を示すのはクランプ星であることを明瞭に示しました。
クランプ星は、中心部のヘリウムが核融合の進行により枯渇すると、その周辺での核融合を起こす段階に移行し、再び明るさを増します。そして表面からの物質流出が始まり、進化の最終段階へと進んでいきます。 (クレジット:Wako Aoki (NAOJ))
最近の観測で、この異常なリチウムの増加を示すのは、赤色巨星のなかでも中心部でヘリウムが核融合を起こしている段階の星 (「クランプ星」とよばれます) であることを示唆する結果が得られ、この問題の解明への手がかりと考えられるようになってきました。しかし赤色巨星の進化段階を見分けるのは容易ではなく、断定的なことを言うことができませんでした。
研究チームは、中国の分光探査望遠鏡 LAMOST の観測でリチウムの多い赤色巨星を多数発見し (図2)、そのうち 134 天体について、ケプラー衛星のデータに基づいた星震学の手法によって進化段階を明確にしました (注2)。そしてその多くが中心部でヘリウムの核融合を起こしているクランプ星であることを初めて明瞭に示しました。リチウム組成が極端に高い星はこの進化段階において特に集中的に現れることがわかりました。この研究において、すばる望遠鏡は 26 天体について精度の高い分光観測を行い、信頼性の高いリチウム組成を得て上記の結果を裏付ける役割を果たしました。 (図2、3)

図2:リチウムのスペクトル線の例 (上が LAMOST、下がすばる望遠鏡によるデータ)。それぞれの図のなかでリチウム過剰な星 (下側) と普通の星を比較しています。リチウム過剰な星では明瞭にスペクトル線が検出されます。LAMOSTのほうが多数の星を効率よく観測することができます。これに対し、すばる望遠鏡のデータのほうが波長を細かく分けて測定できるため、より正確にリチウムの量を測定することができ、LAMOST による測定結果の検証となります。 (クレジット:H. L. Yan (NAOC))

図3:すばる望遠鏡で観測されたリチウム過剰な星 (星印)。過去の研究で調べられた星 (灰色の丸印) の多くに比べて3桁程度リチウム量が多いことがわかります。すばる望遠鏡で観測したのは、あらかじめ LAMOST によりリチウム量が多いと推定された星であり、それが高精度の測定で裏付けられました。赤印がクランプ星 (中心部でヘリウムの核融合が起こっている星) で、リチウム過剰星の多くを占めており、青印で示している赤色巨星 (中心部周辺で水素の核融合が起こっているもの) に比べてよりリチウム量の多い星がみられます。
横軸は星表面の重力の強さであり、星の明るさに対応します (明るい星ほど表面重力が小さくなります)。 (クレジット:Yan et al.)
太陽のような軽い星の研究には長い歴史があり、天文学のなかでは比較的詳細に調べられている分野といえます。しかし、赤色巨星におけるリチウムの異常な増加は、星の構造や進化を理解するうえで基本的な問題が依然として残されていることを示しています。リチウム増加のメカニズムは未解明ですが、それが起こる進化段階がわかってきたことは謎の解明に大きな一歩となります。すばる望遠鏡で取得した分光データには、リチウム以外の元素の情報も豊富に含まれており、リチウム過剰な星の特徴をさらに詳細に解き明かすための貴重なデータとなります。
本研究成果は、英国の天文学誌『ネイチャー・アストロノミー 』に2020年10月5日付でオンライン出版されました (Hong-Liang Yan, Yu-Tao Zhou, Xianfei Zhang, Yaguang, Qi Gao, Jian-Rong Shi, Gang Zhao, Wako Aoki, Tadafumi Matsuno, Yan Li, Xiao-Dong Xu, Haining Li, Ya-Qian Wu, Meng-Qi Jin, Benoit Mosser, Shao-Lan Bi, Jian-Ning Fu, Kaike Pan, Takuma Suda, Yu-Juan Liu, Jing-Kun Zhao and Xi-Long Liang, "Most lithium-rich low-mass evolved stars revealed as red clump stars by asteroseismology and spectroscopy")。この研究は日本学術振興会と中国科学院の二国間共同研究事業によるサポートを受けました。また、すばる望遠鏡での観測は2016-2017年のインテンシブ観測プログラムのなかで実施されました。
(注1) この研究で対象としているような明確なリチウム過剰星は、赤色巨星のなかで1パーセント程度存在していると見積もられています。
(注2) 地震波を測定することによって地球の内部構造を調べることができるのと同じように、星の表面の振動を測定すると内部構造を調べることができます。この研究は星震学とよばれ、これにより中心部周辺で水素の核融合が起きている赤色巨星とクランプ星とを区別することができます。星の表面の振動は明るさの周期変動に現れます。ケプラー衛星によって長期間、星の明るさが精度よく測定されたことにより、多くの星に星震学を適用することが可能になりました。