観測成果

銀河系内

終焉期の大質量連星系がつくり出す大量の塵~赤外線観測が描き出した渦巻状の放出流

2020年9月15日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年9月15日

すばる望遠鏡をはじめとする世界中の最大級の望遠鏡を用いた約 20 年間に及ぶ中間赤外線撮像観測が、終焉期の大質量星を含む連星系 (WR 112) で、新たに作られた塵が渦巻いて拡散する様子を捉えることに成功しました。大質量連星系は、超新星爆発とともに、初期宇宙をはじめ宇宙における塵の供給源として重要と考えられていますが、塵の形成・放出の詳細や実際の放出量については未解明の課題が多く残されています。WR 112 は、大質量星の進化の終焉期に相当し活発な質量放出を行うウォルフ・ライエ (Wolf-Rayet) 星と主系列の大質量星から構成される連星系で、2つの星からの恒星風がぶつかる領域で塵が作られていますが、今回の研究でその塵が実際に拡散していく様子が明らかになり、この天体は1年間あたり地球質量に相当する大規模な質量の塵を、銀河内星間空間に供給していることがわかりました。(研究者による解説ムービー)

終焉期の大質量連星系がつくり出す大量の塵~赤外線観測が描き出した渦巻状の放出流 図

図1:Gemini-North, Gemini-South, Keck, VLT そしてすばる望遠鏡によって、2001年から2019年にかけてとらえられたウォルフ・ライエ星を含む大質量連星系 WR 112 の7枚の中間赤外線画像。各図中の白線は 6800 天文単位の距離に相当します。(クレジット:Lau et al.)

塵の形成は、多くの場合は終焉期を迎える中小質量星の穏やかな恒星風の中で起こるものであり、強い恒星風が吹き荒れ星からの強い放射にされされる大質量星周辺ではあまり起こらないものだと考えられています。ところが、連星系を成す二つの大質量星の恒星風がぶつかり合うところでは、非常に興味深いことが起こります。

モントリオール大学の Anthony Moffat 博士は以下のように話します。
「二つの大質量星の恒星風がぶつかる時、衝撃波によって加熱されたガスから X 線が放たれるようになると同時に、片方の星からの恒星風が 40% もの炭素を含むようになる結果、大量の炭素を含むエアロゾル粒子が作られます。」(注1)
この塵の形成過程は、まさに WR 112 で起こっているものであると考えられます。

このようなウォルフ・ライエ連星系による塵形成は他の系でも見られます。同じくウォルフ・ライエ星を含む連星 WR 104 では「風車」に似た大変美しい塵の構造が見られ、それは中心部の連星系の軌道運動を反映しています (http://www.physics.usyd.edu.au/~gekko/pinwheel/movie_11.gif)。

しかし WR 112 では、放出された塵が作り出す構造は、単純な風車のパターンよりはるかに複雑です。数十年にわたっていろいろな波長の光で観測が行われる間、流出する塵のつくる流れや連星系の軌道運動に対して、さまざまな解釈が提案されてきました。そして、2019年の10月にすばる望遠鏡の中間赤外線観測装置 COMICS で取得された WR 112 の画像が、欠けていた最後の1ピースを埋め、思わぬ解釈を与えることになったのです。

本研究論文の主著者で、JAXA 宇宙科学研究所研究員 (国際トップヤングフェロー) の Ryan Lau 氏は以下のように話します。
「私たちは、2017年に WR 112 の観測結果を発表しており、その際に観測された塵の雲は動いては見えないと思ってたので、それをすばる望遠鏡 COMICS の観測で確かめようと考えていました。ところが大変驚いたことに、すばる望遠鏡で取得された WR 112 の画像に映った塵の雲は、我々が2016年に VLT で取得したものから明らかに動いていたのです。私は大変困惑し、驚きと興奮のあまり観測後しばらく眠れませんでした。そして画像を何度も見比べているうちに、ようやく渦巻きが我々に向かってきているのだと気がついたのです。」Lau 氏は、 WR 112 のような連星系の塵の渦巻き構造の運動のモデルと解釈に詳しいシドニー大学の Peter Tuthill 教授とその学部生の Yinuo Han 氏の協力を仰ぎました。「私は、画像を Peter と Yinuo と共有し、彼らは塵の渦巻き状の構造が我々の視線方向に向かって回転していると言うことを確かめるに至ったのです。」

アニメーション1:塵の渦巻き状構造のモデル (左) と実際の観測データ (右)。モデルは渦巻きの回転1周期分 (モデルの図中のφの値で0から1まで) を示しており、観測に対応する時点で動きを止めています。(クレジット:Lau et al.)

この動画は、研究チームが作成したモデルと実際の中間赤外線画像を比較したものです。モデル画像は実際の取得画像と驚くほど良く一致しており、詳細な分析の結果、真横から見た塵の渦巻きの回転周期 (それと同時に、中心の連星系の回転周期) が 20 年であることを明らかにしました。

WR 112 の塵の渦巻きを正面から見るか真横から見るかの違いについては、下の図と動画に示しています。

終焉期の大質量連星系がつくり出す大量の塵~赤外線観測が描き出した渦巻状の放出流 図3

図2:WR 112 星雲を正面から見たときのモデル (左) と実際に観測される方向から見た様子 (右)。図中の点線は、中心部の連星系の軌道を示します。ただし、連星間の距離と個々の星のサイズは正しいスケールで表示されていません。以下のアニメーション 2a, 2b はそれぞれの動画。(クレジット:Lau et al.)

アニメーション 2a

アニメーション 2b

今回の研究によって WR 112 の周辺物質が作る構造を正しく理解できたので、研究チームはそれにもとづいてこの連星系がどのくらいの量の塵を星間空間に供給しているのかを見積もりました。渦巻きは繰り返しのパターンとなっていて、一周分の完全な塵の渦巻きを作るのにかかる時間が 20 年とわかっています。つまり、出来たばかりの塵は、渦巻きの最も中心部にある一方、例えば渦巻き4周分離れた場所に位置する塵は作られてから 80 年が経過していることになります。したがって、塵の渦巻きに沿って、人間の寿命に相当する時間を遡ることができます。実際に、私が誕生したときにできた塵の位置は1番目と2番目の渦巻きの間ということになります。

アニメーション3:この動画は見る角度によって渦巻きのみかけがどう変わるかを示しています。まず、正面から見た場合に渦巻きが1回転する様子を、次いで実際の観測の場合の傾斜角と回転角にあわせて1回転する様子を示しています。渦巻きの動きは同じでも、見る角度が異なるだけで見かけが全く異なることがわかります。(クレジット:Lau et al.)

驚いたことに WR 112 は極めて効率的な塵の生成現場であると分かりました。 WR 112 が生み出す塵の質量は、1年に太陽質量の約 30 万分の一にもなり、これはほぼ地球1個分の質量に相当します。この塵の放出量は、20 年という比較的長い連星周期を持つウォルフ・ライエ連星系にしてはこれまでに例がないほど高いと言えます。これまで、この規模の塵の形成を起こすのは、WR104 (軌道周期 220 日) のように比較的短い軌道周期を持つウォルフ・ライエ連星系と考えられてきました。今回の観測結果からは、効率的に塵を生み出すウォルフ・ライエ連星系にも多様性があり、現在の宇宙だけでなく遠方銀河または初期宇宙における塵の起源を考える上で、ウォルフ・ライエ連星系が重要な役割を持つ可能性があると言えます。

今後、東京大学アタカマ天文台 (TAO) の中間赤外線観測装置 MIMIZUKU を用いた継続的な中間赤外線撮像観測によって、ウォルフ・ライエ連星系による塵の形成過程に対するさらなる研究の進展が期待されます。また今回の研究結果は、すばる望遠鏡をはじめとする現在の最大級 (口径 8-10 m 級) の望遠鏡によって初めて得られたものであり、さらに 30 m 級の地上望遠鏡や、まもなく打ち上げが予定される James Webb Space Telescope を用いた次世代の天文学への重要なステップになります。


この研究成果は、Ryan M. Lau et al. "Resolving Decades of Periodic Spirals from the Wolf-Rayet Dust Factory WR 112" として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2020年9月15日付で掲載されました。


(注1) ウォルフ・ライエ星は、大質量星のなかでも特に質量の大きなものが進化し、水素の豊富な外層を失った段階に相当すると考えられています。このため、表面には内部の核融合 (ヘリウムの反応) で合成された炭素などの組成が際立って高くなります。通常の星から放出される物質の主成分は水素とヘリウムですが、ウォルフ・ライエ星では炭素などが主成分となり、そこから豊富な塵が形成されます。


動画:Ryan Lau 氏による解説。(クレジット:国立天文台/JAXA 宇宙科学研究所)

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