観測成果

銀河の世界

宇宙の重量級同士のまれな出会い ―合体の過程にある超大質量ブラックホールを発見―

2020年8月26日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年9月3日

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) が捉えた3万個以上のクェーサーの中から 400 個以上の二重クェーサー候補が選び出され、これらを他の大望遠鏡を用いて追観測を行った結果、3つの二重クェーサーが特定されました。そのうちの2つは新たに判明したものです。二重クェーサーは、銀河が合体する過程でそれぞれの銀河中心にある超大質量ブラックホールが明るく輝いているもので、これを詳しく調べることで、銀河の合体や進化、超大質量ブラックホールの成長過程などの研究が進むことが期待されます。

宇宙の重量級同士のまれな出会い ―合体の過程にある超大質量ブラックホールを発見― 図

図1:今回見つかった二重クェーサーの1つ「SDSS J141637.44+003352.2」。私たちから 47 億光年の距離にあり、2つのクェーサー同士は 13,000 光年離れています。(クレジット:Silverman et al.)

宇宙では、銀河同士が衝突し合体するという、たいへんダイナミックな現象が頻発しています。銀河の中心には、質量が太陽の数百万倍から数十億倍にも及ぶ超大質量ブラックホールが存在し、そこに大量のガスが流入すると銀河全体よりも明るく輝くクェーサーとして観測されます。銀河が衝突・合体する時にはガスの流入量が特に多くなり、2つのブラックホールが二重クェーサーとなった姿が見られると期待されていますが、2つのクェーサーが同時に輝く期間は短く、また見つけるためには、広い観測領域と近接した2点を分解できる高い解像度との両方が必要であるため、多くの二重クェーサーを見つけて研究を進めることは困難でした。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の John Silverman (ジョン・シルバーマン) 准教授を中心とし、国立天文台の研究者も参加する国際共同研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された HSC で撮影された画像の中から既知の 34,476 個のクェーサーを調べ、その中から2つもしくはそれ以上の点光源を持っているとみられる天体を 421 個選び出しました。

Silverman 准教授は「正直なところ、私たちは最初から二重クェーサーを探していたわけではありませんでした。明るいクェーサーがどういった種類の銀河に存在する傾向にあるのかを画像を使って調べているうちに、中心に点光源が1つしかないと思っていた場所に、2つ点光源がある場合が見つかり始めたのです」と述べています。

選び出された天体が真の二重クェーサーであることを確かめるため、ケック望遠鏡とジェミニ北望遠鏡による分光追観測を実施した結果、今回はまず3つの二重クェーサーを特定しました。このうちの2つは、これまでに知られていなかったものでした。特定された二重クェーサーでは、超大質量ブラックホールの影響でガスが毎秒数千キロメートルで移動している兆候が、ペアとなるそれぞれの天体で見られました。

今回の観測結果から、全クェーサーのうち 0.3 パーセントは、銀河の合体の過程で超大質量ブラックホールが2つ存在していると推定されました。この割合の低さは、二重クェーサーの希少性と、これまでの探索でほとんど発見されなかった理由を示すものです。しかし、東京大学の大学院生でこの研究チームのメンバーである Shenli Tang さんは「その珍しさにも関わらず、この事例は銀河進化の重要な段階を示しており、中心の超大質量ブラックホールが銀河の合体によって目覚めて質量を増していき、ブラックホールが属する銀河 (ホスト銀河) の成長にも影響を与える可能性があります」と述べています。

今回の結果は、銀河と超大質量ブラックホールの成長の様子を研究する上で、二重クェーサーを検出するという広域撮像観測の可能性を示すものです。今後も研究チームでは二重クェーサーの特定を続け、銀河や超大質量ブラックホールの合体や進化について理解を深めることを目指しています。


この研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』オンライン版に2020年8月26日付で掲載されました (J.D. Silverman et al. 2020, "Dual supermassive black holes at close separation revealed by the Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program")。論文のプレプリントはこちらから閲覧可能です。また本研究は、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム、科学研究費補助金 (JP18H05868, JP19K14755, JP17H04831, JP17KK0098, JP19H00697, JP20H01953) によるサポートを受けています。

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