観測成果

銀河系内

系外惑星における第二の地球候補の軌道を初めて制限したすばる望遠鏡と新分光器 IRD

2020年5月13日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年5月13日

7つの地球型惑星を持つ低温・低質量の恒星 TRAPPIST-1 (トラピスト-1) に対するすばる望遠鏡の新分光器 IRD を用いた観測によって、TRAPPIST-1 系では星の自転軸と惑星の公転軸がほぼそろっていることが明らかとなりました。今回の観測では、7つのうち3つの惑星 (TRAPPIST-1b, e, f) の軌道の傾きが別々に調べられましたが、そのうち2つの惑星 (TRAPPIST-1e, f) はハビタブルゾーン (生命居住可能領域) 内に位置する地球型惑星です。TRAPPIST-1 の惑星のような地球型かつハビタブルゾーンにある惑星の軌道の傾きが調べられたのは今回が初めてで、地球型惑星の発見だけでなく、それらの性質に迫る上で、重要なステップと言えます。

系外惑星における第二の地球候補の軌道を初めて制限したすばる望遠鏡と新分光器 IRD 図

図1:TRAPPIST-1 の惑星系のイメージ画像。主星は低質量・低温度の M 型矮星で、サイズは木星直径程度と小さい。主星のまわりの7つの地球型惑星のうち、ここでは4つが描かれています。本観測で、惑星軌道と主星の自転方向がほぼ揃っていることがわかりました。(クレジット:国立天文台)

近年、太陽系外惑星の探査では、太陽の半分程度の表面温度の低温な恒星 (M 型矮星) に注目が集まっています。M 型矮星は低温な上、半径が小さいため、比較的公転周期の短い惑星であっても液体の水が存在できるような表面温度となります (そのような惑星軌道領域をハビタブルゾーンと呼びます)。さらに、M 型矮星まわりでは地球型惑星のような小さな惑星が検出しやすくなります。

なかでも、TRAPPIST-1と呼ばれる M 型矮星は、7つの地球型惑星がトランジット法 (注1) によって発見されていて、そのうちの3つの惑星 (TRAPPIST-1e, f, g) はハビタブルゾーン内に位置することが知られていました。これらの惑星がどのような性質 (質量、大気、軌道など) を持っているか、本当に生命を宿しうるのかを詳しく調べることは系外惑星・アストロバイオロジーの分野のホットトピックです。しかしながら、地球型惑星は非常に小さいため、発見の次のステップである惑星の性質を調べることは容易ではなく、これまでは惑星の質量や大気の性質に制限があっただけで、軌道に関する制限は有りませんでした。

東京工業大学・自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターなどの研究者からなるグループは、アストロバイオロジーセンターが中心となって開発した新分光器 IRD (すばる望遠鏡に搭載) を用いて TRAPPIST-1 まわりの3つの惑星 (TRAPPIST-1b, e, f) のトランジットを観測し、ロシター効果 (図2、注2) と呼ばれる現象を解析することで TRAPPIST-1 の自転軸とそのまわりの惑星の公転軸がほぼそろっていることを突き止めました。トランジットが観測された3つの惑星のうち2つの惑星 (TRAPPIST-1e, f) はハビタブルゾーン内に存在する地球型惑星で、今回の観測により初めてハビタブルゾーン内の太陽系外惑星の軌道の傾きが制限されました。

系外惑星における第二の地球候補の軌道を初めて制限したすばる望遠鏡と新分光器 IRD 図2

図2:トランジットが起こっている最中に恒星を分光観測すると恒星の視線方向の速度が変化して見えることがあります。これは恒星が自転していることによる見かけ上の効果でロシター効果と呼ばれ、ロシター効果を解析することで恒星の自転軸とトランジットする惑星の公転軸のなす角度を制限することができます。(クレジット:『日本物理学会誌』より転載)

恒星の自転軸に対する惑星の軌道の傾きは、惑星が形成されたときの情報やその後の惑星系の時間進化を反映していると考えられています。同じロシター効果を利用したこれまでの観測は、地球型惑星より重い木星型惑星や海王星型惑星に限られていましたが、惑星の軌道面が大きく傾いているものや、中には完全に逆行するものも知られています。これは、恒星の周りで形成された惑星系が散乱などにより、その軌道が大きく乱されたためと考えられています。

今回 TRAPPIST-1 系では恒星の自転軸と惑星の公転軸がよくそろっていることが示されたことで、TRAPPIST-1 のような低温度・低質量の恒星のまわりでも、複数の惑星が同じ面内 (恒星自転軸に直交) で作られ、その後惑星の軌道は大きくかき乱されることなく時間発展してきたことが明らかとなりました。これは低温度・低質量な恒星のまわりの惑星系の起源を議論する上で不可欠な情報となります。

また今回の発見は、ハビタブルゾーン内にある TRAPPIST-1 のまわりの惑星が、地球軌道の 1/10 よりも小さい位置に密集して公転しているという、太陽系とは大きく異なる姿を持つにも関わらず、軌道の傾きという点でも太陽系の地球と似た特徴を持つことを明らかにしたことは、銀河系の恒星の大部分を占める低温度・低質量の恒星のまわりの惑星における生命の可能性とその進化を議論する上でも新規かつ重要な結果と言えるでしょう。


本研究成果は、東京工業大学、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターなどの研究者が主著となって、米国の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に2020年2月25日付けで掲載されました (Hirano et al. 2020, "Evidence for Spin–Orbit Alignment in the TRAPPIST-1 System")。


(注1) 恒星の前を惑星が通過して部分的に恒星表面が隠される (したがって恒星が一時的に暗くなる) 現象をトランジットと呼びます。Trappist-1 はトランジット観測によって発見された惑星系で、地球半径の 0.8 倍から 1.1 倍の地球型惑星が、恒星からわずか 0.01 au から 0.06 au (1 auは地球・太陽の平均距離) の距離を公転しています。

(注2) トランジットが起こっている最中に恒星を分光観測すると恒星の視線方向の速度が変化して見えることがあります。これは恒星が自転していることによる見かけ上の効果でロシター効果と呼ばれ、ロシター効果を解析することで恒星の自転軸とトランジットする惑星の公転軸のなす角度を制限することができます。

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