観測成果

遠方宇宙

巨大銀河の核は 120 億年前にはすでにできていた

2019年12月18日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年6月9日

国立天文台などの研究チームは、すばる望遠鏡とケック望遠鏡の観測によって、天の川銀河よりも重い銀河を 120 億年前の宇宙に発見しました。この銀河は星を作る活動をやめようとしている「静かな」銀河で、そのような銀河では最も遠方で見つかったものです。さらに、研究チームが観測データから銀河の中の星の運動を調べた結果、銀河の「核」をなす部分は 120 億年前にはすでにできあがっていたことがわかりました。これは銀河形成史を解き明かす上で重要な発見です。

巨大銀河の核は 120 億年前にはすでにできていた 図

図1: 120 億年前の宇宙に見つかった「静かな」銀河。画像中央の白丸の中にある赤い天体が今回発見されたもの。分光観測によって銀河の中の星の運動を調べた結果、銀河の「核」をなす部分は 120 億年前にはすでにできあがっていたことがわかりました。(クレジット:国立天文台)

「大きな望遠鏡を空に向けて宇宙の写真を撮ると、本当にたくさんの銀河があることがわかります。しかし、これらの銀河がどのように生まれて、どのように育ってきたのかはまだ謎が多いのです。とりわけ、巨大な銀河については。」と語るのは、論文の筆頭著者である田中賢幸さん (国立天文台・総合研究大学院大学准教授) です。

銀河は大きく2つのタイプに分かれます。「元気な」銀河と「静かな」銀河です。銀河はガスから星を作る星の生産工場で、多くの銀河は活発に星を作って明るく輝きます。 これらが「元気な」銀河です。一方、何かしらの原因で星を作ることをやめてしまった銀河もあり、それらは「静かな」銀河と呼ばれています。銀河が静かになる理由はまだ明らかになっておらず、星を作る活動がとても弱い、静かになりかけている銀河がその謎を解明する鍵を握っていると考えられています。

田中さんらは、すばる望遠鏡が時間をかけて暗い天体まで写し出すように観測した宇宙の領域「すばる XMM ニュートンディープフィールド」で発見した静かな銀河を、ケック望遠鏡で観測しました。この領域は他にも数々の望遠鏡で観測されていて、遠方の宇宙を探るにはもってこいの領域です。ケック望遠鏡に搭載された MOSFIRE という近赤外線分光装置を用いて、人間の目には見えない2マイクロメートルという波長で静かな銀河を詳細に観測すると、その銀河は 120 億光年彼方、つまり 120 億年前の宇宙にあることがわかりました。そして、その銀河の星を作る活動が弱まっていることを確認しました。これは現在までに知られている静かな銀河で最も遠く古いものです。

宇宙の歴史の中で一番最初に星形成を止めて静かになるのは非常に重い銀河と考えられています。そして今回見つかった銀河も実際に重い銀河でした。論文の共著者であるバレンティーノ・フランチェスコさん (ニールス・ボーア研究所) は「銀河が滅びゆく謎に迫る上で重要な成果です」と、観測成果の意義を語ります。

また、今回の観測は、銀河の「核」が 120 億年前の時点ですでにほぼできあがっていたことも明らかにしました。星が銀河の中で動く速さは、銀河がどれぐらい重いかを表します。今回見つかった銀河の中の星は、現在の宇宙にある重い銀河の星とほぼ同じ速度で動いていました。つまり、銀河の中心部分はすでに同じような重さになっていたのです。「今までの同様の測定で発見された最も古いものは 110 億年前のものでした。それを 10 億年もさらにさかのぼったのに、銀河の核となる部分がすでにできあがっていたことには驚きました。我々が考えていた以上に早く銀河の核が形成されていたようです」と田中さんは述べています。

「どのように巨大な銀河が生まれ、育ち、そして死んでしまうのか。銀河の核ができたのはいつだったのか。これらの謎を解くために、さらに遠い、昔の宇宙を探査します」と、田中さんは今後の展開について意気込みを語っています。

巨大銀河の核は 120 億年前にはすでにできていた 図2

図2: 本研究成果の概念図。「すばる XMM ニュートンディープフィールド」から選び出された「静かな」銀河を、ケック望遠鏡で分光観測した結果、この銀河が120億年前の宇宙に存在すること、現在の宇宙にいる巨大銀河と同じような質量を持つこと、が明らかになりました。このことから、巨大銀河の核は 120 億年前にはすでにできていたと考えられます。(クレジット:国立天文台/Tanaka et al. 2019)

本研究成果は米国の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に2019年11月6日付で出版されました (Masayuki Tanaka, Francesco Valentino, Sune Toft, Masato Onodera, Rhythm Shimakawa, Daniel Ceverino, Andreas L. Faisst, Anna Gallazzi, Carlos Gómez-Guijarro, Mariko Kubo, "Stellar Velocity Dispersion of a Massive Quenching Galaxy at z = 4.01")。また、本研究は科学研究費補助金 (課題番号:JP15K17617)、Danish National Research Foundation、Carlsberg Foundation、European Research Council の助成を受けています。

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