観測成果

銀河系内

すばる望遠鏡で迫るスーパーフレア星の正体

2015年5月11日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

この記事は京都大学からのプレスリリースに基づいています。

京都大学、兵庫県立大学、国立天文台、名古屋大学の研究者からなる研究チームは、恒星表面の超巨大な爆発現象「スーパーフレア」が見つかった太陽型星のうち 50 天体を、すばる望遠鏡を用いて観測しました。得られたスペクトルを詳細に分析した結果、太陽とよく似た星でも巨大黒点が生じれば、スーパーフレアを起こしうるということを突き止めました。研究チームはこれまで、太陽系外惑星探査衛星「ケプラー」の観測データを解析することにより、スーパーフレアを起こした太陽型星を多数発見してきました。すばる望遠鏡を用いた今回の観測により、スーパーフレア星のより詳しい正体に迫ることができました。

太陽フレアは、太陽の表面の黒点に蓄えられた磁場のエネルギーが一気に放出される爆発現象で、この時、大きなフレアでは太陽から大量の放射線(X 線や紫外線、高エネルギー粒子)、コロナ質量放出と呼ばれる高速プラズマ雲が放出されます。大きなフレアで放出されたプラズマ雲が地球磁気圏に衝突・侵入すると、巨大な磁気嵐を引き起こす可能性があり、過去には通信障害や大規模停電などの被害へ繋がった事例が報告されています。

これまで京都大学、兵庫県立大学、国立天文台、名古屋大学の研究者からなる研究チームでは、ケプラー衛星の観測データを解析することにより、太陽型星でスーパーフレア (最大級の太陽フレアの 10 倍~1万倍に達するような超巨大フレア) を多数 (数 100 例以上) 発見してきました (前原他 Nature 誌2012年5月24日号)。この発見は、スーパーフレアの統計的研究を史上初めて可能にするなど、非常に重要な発見となりましたが、スーパーフレアを起こした星の正体に迫るには、更に詳しい観測が必要でした。

すばる望遠鏡で迫るスーパーフレア星の正体 図

図1:(左) 太陽型星のスーパーフレアの明るさの時間変化 (ケプラー衛星の観測データ)。フレアによる突発的な増光の他に、周期15日程度のゆっくりとした明るさの変化が見られます。(右) 可視光 (白色光) で見た、スーパーフレアの想像図。巨大な黒点群でスーパーフレア (白色) が起こっています。(クレジット:京都大学)

そこで今回、研究チームでは、ケプラー衛星でスーパーフレアの見つかった太陽型星のうち 50 星について、すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS を用いた分光観測を行い、そのスペクトルの詳細な分析を行いました。その結果、以下のことが明らかになりました。

  1. 観測した 50 天体のうち半数以上は、連星系などの証拠もなく、太陽とおおむねよく似た星であることが確認されました。
  2. ケプラー衛星の観測データから、多くのスーパーフレア星は、星の明るさが周期数日から数十日で変化していることが分かっています。これは星の表面に大きな黒点があり、それが自転に伴って見え隠れすることで生じていると予想されていました (図1)。その予想が正しければ、明るさの変化のタイムスケールは、星の自転の速さに対応することになります。分光観測を行うと、スペクトル線の広がり幅から星の自転の速さを測定する事ができますが (図2)、今回の観測の結果は、明るさの変化から求めた自転の速さとよく対応しており、上記の予想が正しいことが確認されました。また太陽のように自転の遅い星も多く含まれていました。
  3. 大きな黒点が存在して星表面の平均磁場が強くなると、Ca II 854.2[nm] (電離カルシウム) の吸収線が浅くなることが、太陽の観測から知られています。このことを応用し、スーパーフレア星の Ca II 854.2[nm] の吸収線の深さを測定したところ、スーパーフレア星は太陽と比較して、非常に大きな黒点を持つ事が示唆されました (図3)。
以上の結果は、「太陽とよく似た星も巨大黒点が生じれば、スーパーフレアを起こしうる」ということを提起していると言えます。研究チームでは、今後も引き続きすばる望遠鏡での観測を続けるとともに、京都大学を中心に現在建設を進めている京大岡山 3.8m 望遠鏡も使って、スーパーフレア星の性質や長期的な活動性の変化をさらに詳細に調査し、巨大なフレアが起こる条件や兆候を追究する予定です。

すばる望遠鏡で迫るスーパーフレア星の正体 図2

図2:(右) 自転している星の表面の各場所から放射される光は、光の「ドップラー効果」の影響で、波長に僅かな変化が生じます。具体的には、右図の A 点から放射される光は、自転によって地球の方向に動いている部分から放射されるため、ドップラー効果によって波長が少し短くなります。逆に、右図の C 点から放射される光は、自転によって地球から遠ざかる方向に動いている部分から放射されるため、ドップラー効果によって波長が少し長くなります。一方で、B 点から放射される光は、観測者の方向へ近づいたり遠ざかったりしていないので、波長のずれは起こりません。最終的に地球でスペクトル線を観測する場合、A, B, C 点など星表面の各場所からの、波長が少しずつずれた光の足し合わせとなるので、スペクトル線が波長方向に広がって観測されます。(左) 星の自転速度とスペクトル線の広がり。ここでは、中性鉄 (Fe I) の吸収線を4本示しています。上記の通り、自転している星表面から放射される光の「ドップラー効果」による波長ずれの影響で、吸収線には広がりが見られます。そして、太陽のように自転の遅い星は、ドップラー効果による波長ずれが小さいためにラインが比較的細い一方で、自転の速い星は波長のずれが大きくなり、ラインがより広がって観測されます。このラインの広がりを測定する事で、星の自転速度を求めることができます。(クレジット:京都大学)

すばる望遠鏡で迫るスーパーフレア星の正体 図3

図3:(左) 可視光と Ca II 線で見た太陽の観測画像 (Big Bear Solar Observatory によ る観測データ) とスーパーフレア星を可視光と Ca II 線で見た場合の想像図。大きな黒点の周囲は、Ca II 線で見ると明るくなっています。(右) 電離カルシウム (Ca II 854.2[nm]) の吸収線。スーパーフレア星 (上のスペクトル) は、太陽 (下のスペクトル) と比較して、中心部分が浅く (明るく) なっており、巨大黒点の存在が示唆されます。(クレジット:京都大学)

研究チームの構成
・野津湧太 (京都大学理学研究科宇宙物理学教室・大学院生 (修士課程2年))
・本田敏志 (兵庫県立大学西はりま天文台・研究員)
・前原裕之 (国立天文台岡山天体物理観測所・専門研究職員)
・野津翔太 (京都大学理学研究科宇宙物理学教室・大学院生 (修士課程2年))
・柴山拓也 (名古屋大学太陽地球環境研究所・大学院生 (修士課程2年))
・野上大作 (京都大学理学研究科宇宙物理学教室・准教授)
・柴田一成 (京都大学理学研究科附属天文台・教授/台長)

本研究は、以下の2つの論文に基づくものです。

論文1:"High Dispersion Spectroscopy of Solar-type Superflare Stars. I. Temperature, Surface Gravity, Metallicity, and v sin i"
論文2:"High Dispersion Spectroscopy of Solar-type Superflare Stars. II. Stellar Rotation, Starspots, and Chromospheric Activities"
著者 (論文1・2共通):Notsu, Y., Honda, S., Maehara, H., Notsu, S., Shibayama, T., Nogami, D., Shibata, K.の7名
書誌情報:日本天文学会欧文研究報告 (PASJ) の 67 巻第3号 (2015年6月25日発行予定) に掲載決定済 (論文1は2月22日、論文2は3月29日に、online 版では出版済)。

本研究は、日本学術振興会の科研費・基盤研究 B (研究課題番号:25287039)、基盤研究 C (研究課題番号:26400231)、若手研究 B (研究課題番号:26800096) の支援によって行われました。

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