観測成果

銀河系内

重い恒星の巨大な惑星、すばる望遠鏡が直接観測で発見

2012年11月19日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

概要:

国立天文台を中心とする国際研究チームが推進する系外惑星・円盤探査プロジェクト SEEDS (シ-ズ) の一環として行われた直接撮像観測から、アンドロメダ座カッパ星を回る巨大なガス惑星が発見されました。地球から 170 光年離れたこの恒星の高コントラスト画像にとらえられた惑星は、木星の 13 倍もの質量を持ち、太陽系の海王星の軌道より少し遠い軌道を周っています。主星 (恒星) の質量は太陽の 2.5 倍と重く、今までに撮像された太陽系外惑星の中では主星の質量が最も重いものです。

解説:
今回発見された巨大なガス惑星「アンドロメダ座カッパ星 b」は、2012年の 1月と 6月にすばる望遠鏡における SEEDS プロジェクト (注1) の一環として近赤外線観測の対象となり、その結果、4つの赤外線の波長帯で確認されました。この天体を2回観測したことにより主星のまわりを回っていることがわかり、偶然に同じ方向にあった天体ではなく重力的につながっていることが確認されたのです。近赤外線の4つの波長帯での明るさを比較して得られた惑星の色は、これまで撮像された 10 個程度の巨大ガス惑星とよく似ていることも判明しました。

主星のアンドロメダ座カッパ星は「はと座運動星団」に属し、その年齢は 3000 万歳と推定されています。年齢が 46 億歳の太陽に比べるとずいぶん若い恒星です。若い惑星は惑星形成時の熱をまだ十分に持っているため、赤外線で明るく光ります。そのため、若い恒星は太陽系外惑星の直接撮像において魅力的なターゲットです。にもかかわらず太陽系外惑星の直接撮像、特に私たちの太陽系の惑星たちと似た軌道にある惑星の撮影に成功した例はきわめて限られています。その理由は、惑星が主星に比べて圧倒的に暗いことにあります。通常の撮像観測では、小さな淡い光の点である惑星が主星の光に完全に埋もれてしまいます。一方、SEEDS プロジェクトが行っている高コントラスト観測では、主星の光をできるだけ取り除くことにより、周囲にあるかすかな天体の光を見分けることができるのです。

重い恒星の巨大な惑星、すばる望遠鏡が直接観測で発見 図

図1: 左 (a) アンドロメダ座カッパ星系の 1.2 から 2.4 ミクロンの波長の近赤外画像を疑似カラーで表示したもの。中心の黒い円はデータ処理により取り除かれた中心星にごく近い部分です。そこから 55 天文単位 (海王星軌道の 1.8 倍) の距離にアンドロメダ座カッパ星 b 天体があります。右 (b) 左の画像をもとにさらに「信号ー雑音比」という特殊な処理を施した画像。もとの画像にあったスペックル (中心星の強い光が漏れだしている影響) がかなり取り除かれています。左上の伴天体がいっそう際立って表示されています。(クレジット:NAOJ)

大きな質量の主星と巨大ガス惑星からなるこの惑星系は、一見、私たちの太陽系と大きく異なります。しかし、私たちの太陽系の起源と進化を最近の観測と理論に基づいて拡張したモデルでは、大きな主星は大きな惑星を持ち得ると考えられています。ただしそのようなモデルの拡張には限界があります。もし主星が重くなり過ぎれば、その強烈な放射により原始惑星系円盤内での惑星形成が阻害される可能性があるためです。今回のアンドロメダ座カッパ星における巨大ガス惑星の発見は、太陽の 2.5 倍の重さの恒星の周りではまだ惑星を原始惑星系円盤内で形成することが可能だということを示しています。

SEEDS プロジェクトチームは、さらに詳しく巨大ガス惑星の軌道や大気成分を調べるため、アンドロメダ座カッパ星 b をより広い波長範囲で観測し続けています。また、アンドロメダ座カッパ星 b の形成や軌道進化に影響を与えたかもしれない第2の惑星が存在するかどうかについても、引き続き調査を進めています。「これらの追跡研究は、重い恒星周囲での惑星形成やスーパージュピターの生い立ちを解き明かす上で有用な手がかりをもたらしてくれるでしょう」と、論文の筆頭著者であるジョセフ・カーソンさん (米国・チャールストン大学) は述べています。

この研究成果は、米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に掲載される予定です (Carson J. et al. 2012, The Astrophysical Journal, "Direct Imaging Discovery of a "Super-Jupiter" around the Late B-Type Star k And")。この国際研究チームは、米国・チャールストン大学、国立天文台、ドイツ・マックスプランク天文学研究所、オランダ・アムステルダム大学、米国・プリンストン大学、NASAなどの研究者によって構成されています。また、この研究成果は、科学研究費補助金特別推進研究 (22000005) によるサポートを受けています。

(注1) この研究成果は、すばる望遠鏡における系外惑星・円盤探査プロジェクト SEEDS (研究代表者:国立天文台・田村元秀・太陽系外惑星探査プロジェクト室長) の一環として、すばる望遠鏡に搭載された高コントラスト撮像装置 HiCIAO (ハイチャオ) および赤外線カメラ IRCS によって得られたデータによるものです。

■関連タグ