「COIAS」(コイアス:Come On! Impacting ASteroids!)は、すばる望遠鏡が撮像した画像から小惑星や彗星などの太陽系小天体を探索できるウェブアプリケーションです。このたび、COIAS で発見された小惑星の一つに Leilani(レイラニ)というハワイ語の名前が付けられました。
COIAS は、専門知識がなくても、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム;HSC)が撮影した画像から新しい太陽系小天体を見つけ、報告できるウェブアプリケーションです。HSC が撮影した膨大な画像には今も多くの天体が未発見のまま写っており、それらを探すために世界中の参加者が協力しています。2026年7月現在、3000 人を超える方が COIAS に参加し、9,300 個を超える太陽系小天体の仮符号取得(注1)に貢献しています。
発見された小惑星は、その後の追観測によって軌道が正確に決定されると命名を国際天文学連合(IAU)へ提案できるようになります。通常、その権利は観測者にありますが、COIAS では、HSC の大規模サーベイ観測(HSC-SSP)を行う研究チームの協力により、COIAS で発見に貢献した参加者も命名に関わることができます。これまでに、家族や思い出の場所、尊敬する人物などにちなんだ名前が9つの小惑星に付けられています。
このたび、米国のトッド・フィッシャーさんが、COIAS で発見した小惑星にハワイ語の「Leilani(レイラニ)」という名前を提案し、IAU に承認されました。「lei」は「花の首飾り」、「lani」は「天」や「天国」を意味し、「天上の花の首飾り」という意味を持ちます。
この名前は、2018年のキラウエア火山噴火で甚大な被害を受け、多くの住民が避難を余儀なくされたハワイ島南東部のコミュニティ「レイラニ・エステート」に由来しています。この地区では、フィッシャーさんの姉や姪たち、そして親しい友人の家が溶岩にのみ込まれました。
「失われたものだけを思い出すのではなく、彼らが愛した場所の記憶を小惑星に刻みたいと考えました。『レイラニ』という名前が大好きで、小惑星の名前としてとても美しいと思いました」とフィッシャーさんは語ります。
命名を提案するにあたり、フィッシャーさんは姉や両親、姪たちと何度も連絡を取り、意見を聞きました。「提案する前に、家族の思いを確かめることが私にとって何より重要でした」とふり返ります。
IAU への命名提案は、COIAS の開発チームが行います。フィッシャーさんとの連絡を担当した COIAS 開発チームの伊東健一さんは「ハワイの地名や文化に由来する名称を扱うにあたり、表記や意味を正確に伝えることを特に心がけました。私たちは全員が日本を拠点としているため、異なる文化圏について記述する際には、誤解や誤記が生じないよう細心の注意を払っています。フィッシャーさんが草稿を丁寧に確認し、現地の方々とも連絡を取ってくださったことは大きな助けになりました。また、ハワイ観測所職員からも、ハワイ語の意味や表現について助言をいただきました」と、説明します。
さらに伊東さんは、「多数の小惑星の発見を支えてくださっている、すばる望遠鏡とハワイへの感謝を込めて、いつかハワイにちなんだ命名を実現したいという思いが、COIAS 開発チームには以前からありました。『レイラニ』は COIAS で初めてのハワイ語の小惑星名であるとともに、フィッシャーさんご一家とレイラニ・エステートのコミュニティとの深い絆をたたえる命名となりました」と、その意義を語ります。
この3年間、フィッシャーさんは COIAS を使って数千枚に及ぶ HSC アーカイブ画像を調査し、世界中のボランティアとともに数多くの小惑星発見に貢献してきました。
「これまでに数千個もの小惑星を測定してきたと思いますが、自分一人の発見として認められたのは今回が初めてです。とはいえ、この成果は、確認に協力してくれた COIAS の参加仲間やプロの研究者、さらに軌道を確定するための追加観測データを提供してくれた他の望遠鏡など、多くの方々の協力があって初めて実現したものです」と、共同作業の大切さをフィッシャーさんは強調します。
伊東さんも「COIAS 開発チームは、これからも世界中の参加者と力を合わせ、小惑星の発見と命名を進めていきます」と更なる発見への意気込みを語ります。
COIAS は、世界中の人々が天体の発見だけでなく、小惑星の命名にも参加できる市民天文学の取り組みです。今回誕生した「Leilani」という名前も、多くの人々の協力と、ハワイへの思いがあって生まれました。小惑星探索は太陽系の理解を深めるだけでなく、時には誰かにとってかけがえのない場所や人々の記憶を未来へ受け継ぐことにもつながっています。
謝辞:トッド・フィッシャーさんへのオンラインインタビューは、マウナケア天文台群広報担当のゾーイ・キャラハンさんと共同で実施しました。フィッシャーさんのインタビュー全文は、マウナケア天文台群ウェブサイトに「ストーリー」記事として掲載されています。
(注1)小惑星をはじめとする太陽系小天体を発見した場合、国際天文学連合(IAU)へ報告します。発見した天体を複数日にわたって追観測して存在が確認されると、IAU から「仮符号」(仮の名称)が付与されます。その後長期間にわたって観測を続け、軌道が正確に決定されると「確定番号」が与えられます。確定番号が付与されて初めて IAU に命名を提案できるようになります。




