「COIAS」(コイアス:Come On! Impacting ASteroids!)は、すばる望遠鏡が撮像した画像から太陽系小天体を探索できるアプリケーションです。2023年7月の公開以来、多くの方がこのアプリを使って未発見の天体探しを楽しんでいます。そんな中、COIAS による初めての彗星発見と、小惑星に対する命名が達成されました。
すばる望遠鏡はこの 25 年間で、さまざまな研究成果を生み出しています。しかし「彗星の発見」は数例程度、また「小惑星の命名」は筆者の調べた限りでは達成されていませんでした(注1)。これは、すばる望遠鏡の主な観測目的に彗星や小惑星の発見が含まれていなかったからなのですが、市民天文学プロジェクトの側面を持つ COIAS の活用により、彗星の発見と小惑星の発見・命名という成果が実現しました。
彗星の発見
2024年11月26日、COIAS の市民科学者の1人である山内さんから彗星らしき天体を検出したとの報告が COIAS 開発チームに寄せられました。開発チームで確認した所、確かに未発見の彗星のようです。国際天文学連合(IAU)小惑星センターのピーター・ヴェレス博士に相談し、彗星の可能性がある天体を報告するウェブページ(PCCP)に、観測日時や尾の長さと方向についての報告をしました。PCCP に情報が掲載されると、世界中の方が追観測の実施や、他の天文台のアーカイブ画像に対象天体が写っているかを調べてくれます。米国の S・ディーン氏などの調査により複数の天文台のアーカイブ画像にこの彗星が写っていことが確認できたため、COIAS による初の彗星発見が実現しました。この彗星「C/2015 K7(COIAS)」の特徴は、太陽から約 10 天文単位(地球-太陽間距離の 10 倍)という遠方で彗星活動(尾の形成)を示していた点です。このように太陽から離れた場所では、太陽の熱が十分に届かず水の氷や二酸化炭素の氷(ドライアイス)は昇華しません。おそらく一酸化炭素の氷が昇華することで尾が形成されていると想像されます。このような彗星は過去にあまり見つかっていません。すばる望遠鏡のような大望遠鏡で探せば、遠方で彗星活動をしている天体がもっと見つかるのかもしれません。
2025年3月には、COIAS による2つ目の彗星が発見されました。この彗星「P/2016 P5(COIAS)」は、木星より少し内側(4.7 天文単位)を円に近い軌道で公転する珍しいタイプの周期彗星です。
小惑星の発見と命名

図3:COIAS で発見され、命名された3つの小惑星。左から、「(697402) Ao」、「(718492) Quro」、「(719612) Hoshizaki」。カッコ内の数字は軌道が決定された小惑星に与えられる確定番号(小惑星番号)を表します。(クレジット:国立天文台 / COIAS 開発チーム)
彗星の発見から少し時は遡りますが、2024年9月と 11月に COIAS で発見した3つの小惑星(697402)、(718492)、(719612)が、それぞれ「Ao」、「Quro」、「Hoshizaki」と命名されました。小惑星が命名されるには、仮符号(注2)の取得後、長期間の追観測によって、軌道が正確に決まり確定番号が付与される必要があります。今回、命名できた天体はいずれも、過去に他の天文台で得られたデータの報告がありました(注3)。その結果、一気に観測期間が伸び、COIAS による発見から短期間で確定番号の付与に至りました。
確定番号が付与されると IAU に命名を提案することができるのですが、この提案権は観測者のものです。COIAS はすばる望遠鏡の戦略枠プログラム(HSC-SSP)の観測データを使っているので、提案権は HSC-SSP の観測者にあります。しかし、COIAS 開発チームから命名したい旨を HSC-SSP チームにお伺いした所、快く命名の許可を得ることができました。
今回命名を行った3つの小惑星は、「Ao」(漫画「恋する小惑星」の主人公の1人、真中あお)、「Quro」(「恋する小惑星」の作者)、「Hoshizaki」(「恋する小惑星」の舞台となった高校名;作中でも主人公らが見つけた小惑星に「Hoshizaki」と命名)と、いずれも「恋する小惑星」にちなんだ命名となっています。これらの命名提案は小惑星の測定と報告を行った市民科学者と COIAS 開発チームが相談して決めました。命名提案に際し、かつては、アニメや漫画家の名前が小惑星につくことがよくあったのですが、最近ではきちんとした理由がないと IAU の小天体命名ワーキンググループに認められないという話を聞いていました。そこで、「恋する小惑星」が天文学および惑星科学の普及や教育に貢献したことを命名提案文に丁寧に記載することで、今回の命名に至りました。
COIAS では、確定番号付与に至っていない 5000 を超える仮符号取得天体があります。今後、他の観測所での追観測データが増えれば、確定番号が付与される小惑星が増えるのではないかと期待しています。次の命名も、市民科学者の方と楽しく相談して決めていきたいと思います。この記事の執筆中にも COIAS で発見した小惑星に4例目の確定番号(788153)が付与されました。COIAS プロジェクトの魅力のひとつは、発見の状況が時々刻々と変化することです。今後の展開にもぜひご注目ください。
浦川聖太郎(NPO 法人日本スペースガード協会)
(注1)太陽系小天体のうち、尾を示すものを彗星、そうでないものを小惑星と呼びます。海王星よりも外側にある天体については、「太陽系外縁天体」と呼び、小惑星と区別します。また、小惑星は命名提案できますが、彗星は命名提案できません。彗星に対しては、発見者あるいはプロジェクトの名前が特定のルールに従い付与されます。ただし、名前がつかない場合もあります。
(注2)発見した太陽系小天体を複数日以上で追観測できた場合、「仮符号」という仮の名前が IAU の小惑星センターによって割り当てられます。
(注3)過去に他の天文台で得られた観測データは、いずれも1日(一晩)分にとどまっていました。これが2日分以上の場合、発見の功績はその天文台に帰属します。