観測成果

重力レンズ効果を用いた新たな手法による宇宙膨張率の測定

2020年1月8日 (ハワイ現地時間)

  天文学の研究者で構成される国際研究チーム H0LiCOW (ホーリー・カウ) は、ハッブル宇宙望遠鏡とともにすばる望遠鏡など多くの地上望遠鏡を用いて重力レンズ効果の影響を受けたクェーサーからの光を観測し、宇宙の膨張率の値であるハッブル定数を従来の方法と独立に調べました。この研究チームには、国立天文台ハワイ観測所特任研究員 (元すばる望遠鏡フェロー) の Rusu Cristian Eduard (ルス・クリスティアン・エドゥアルド) さんも参加しており、本研究にあたっては中心的な役割を果たしました。


図1

図1: ハッブル宇宙望遠鏡とケック望遠鏡で撮影された重力レンズ効果の影響を受けたクェーサー6天体の画像。H0LiCOW チームはこれらの画像からハッブル定数を測定しました。(クレジット:NASA / ESA / S.H. Suyu (Max Planck Institute for Astrophysics, Technical University of Munich, and Academia Sinica Institute of Astronomy and Astrophysics) / K.C. Wong (University of Tokyo's Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe))



  従来より、局所宇宙の観測から計算される宇宙の膨張率の値と、プランク衛星の宇宙背景放射の観測から計算される膨張率の値との間には矛盾があることが知られています。 H0LiCOW グループが今回得た測定値は、プランク衛星による初期宇宙の観測から得られる膨張率の値に比べ、予想よりも局所宇宙の膨張率が速いことを示唆しています。この2つの値の間の矛盾は、宇宙の基礎物理パラメーターを理解する上で重要な意味を持ち、この矛盾を説明する新物理が必要になるかもしれません。H0LiCOW グループを率いる ドイツのマックス・プランク物理学研究所と台湾中央研究院天文及天体物理研究所に所属する Sherry Suyu さんは、「これらの結果が一致しない場合、特に初期の時期おいて物質とエネルギーがどのように進化したかを我々がまだ完全に理解していないことを示唆しているかもしれません」と述べています。

  H0LiCOW チームは、6つの遠く離れたクェーサーからの光をハッブル宇宙望遠鏡で観測しました。クェーサーは、銀河中心にある巨大ブラックホールを周回するガスから発せられる非常に明るい光です。各クェーサーからの光は、手前にある巨大な楕円銀河によって引き起こされる強い重力レンズの効果によって、複数の画像に分割されます。そして、重力レンズ効果の影響を受けたクェーサーからの光は、僅かに異なる経路を辿って地球に到達します。この各経路の違いを調べるため、研究者たちは光のちらつきを調べました。こうすることで、分割された画像間で光が地球に到達するまでの時間の遅れを測定できます。これらの測定値と銀河の物質分布の正確なマップを使用して、手前の銀河からクエーサーまで、地球から銀河まで、そして地球から背景にあるクェーサーまでの距離を推定しました。 そしてその値を、宇宙膨張に起因する光の伸び (赤方偏移) によって計算されるクエーサーと銀河までの距離と比較することで、宇宙の膨張率を測定しました。

  その結果、H0LiCOW チームは、1 Mpc (メガパーセク) あたり 73 km/秒というハッブル定数の値を導き出しました (2.4 % の不確定性)。これは、銀河が地球から約 330 万光年遠くなる毎に、宇宙膨張の影響により銀河が毎秒 73 キロメートル速く遠ざかって見えることを意味します。

  今回の結果に関して、H0LiCOW メンバーの東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) 特任研究員の Kenneth Wong さんは「重力レンズを使ってハッブル定数を測定する背景となる考え方は、実際には 50 年以上前のものです。しかし現在では、この手法で正確な結果を導き出すことを可能とする高品質のデータや分析ツールがあります。 私たちの測定は他の手法と完全に独立しているため、他で得られた結果をチェックする重要な値として機能し、我々の宇宙に対する理解が何か間違っている可能性があることを示しています」と述べています。

  Rusu Cristian Eduard さんは地上望遠鏡、特にすばる望遠鏡の役割について「重力レンズ効果を起こす銀河は他の複数の銀河に囲まれており、それらが引き起こす影響を無視することは出来ません。私たちはそれらの銀河、つまりレンズ環境の影響を光のスペクトルまたは広い視野の複数フィルターを用いて測ります。特に、すばる望遠鏡の Suprime-Cam と MOIRCS という可視光線と赤外線カメラが最適でした」と述べています。


  本研究は英国王立天文学会 (RAS) 発行の論文誌 Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (MNRAS) に掲載されます (Wong et al, "H0LiCOW XIII. A 2.4% measurement of H0 from lensed quasars: 5.3σ tension between early and late-Universe probes"; Chen et al., "A SHARP view of H0LiCOW: H0 from three time-delay gravitational lens systems with adaptive optics imaging"; Rusu et al., "H0LiCOW XII. Lens mass model of WFI2033-4723 and blind measurement of its time-delay distance and H0")。


  この観測成果リリースは、宇宙望遠鏡科学研究所からのプレスリリースおよび東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構からのプレスリリースをもとにしたものです。(Original Text Credit: Donna Weaver and Ray Villard/Space Telescope Science Institute)


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