彗星は約 46 億年前の太陽系誕生当時の物質を今に残す「タイムカプセル」と考えられています。しかし、本体である彗星核は太陽に近づくとガスや塵の雲(コマ)に覆われるため、地上から直接観察することは容易ではありません。産業医科大学、京都産業大学、国立天文台等の研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラの公開アーカイブデータから、コマのない状態で偶然撮影された彗星を発見し、地上観測としては世界で初めて彗星核表面の反射特性を精密に測定することに成功しました。彗星と小惑星の違いや、彗星がどのように進化してきたのかを理解する新たな手掛かりとなる成果です。

図1:すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ HSC が捉えていたネウイミン彗星(白枠とその拡大画像の中心)。画像は、HSC の 104 枚の検出器のうちの1枚が写したもので、ネウイミン彗星の他に 2000 個以上の星や銀河が写っています。2016年3月7日に撮影。元画像はこちら(検出器1枚の画像、拡大画像)。(クレジット:国立天文台)
なぜ彗星核を調べるのか
彗星は氷や塵からなる小天体で、太陽系の外縁部で誕生し、その後もあまり変化を受けずに太陽系誕生当時の物質を保っていると考えられています。一方、小惑星は主に火星と木星の間に分布する岩石質の小天体です。かつて両者はまったく別種の天体と考えられていましたが、近年の観測によって、水を含む小惑星や、小惑星に似た鉱物を持つ彗星核が見つかるなど、その境界は曖昧になってきています。
彗星と小惑星の表面が本当に似ているのか、それとも根本的に異なるのかを明らかにすることは、太陽系の天体がどのようにして生まれ、どのような歴史をたどってきたのかを理解するうえで重要な問題です。
彗星核を直接観察できるのは、氷が昇華しないほど太陽から十分に遠く、コマが発生していない時期に限られます。しかしそのような彗星は非常に暗いため、大口径の望遠鏡でなければ検出できません。
さらに、表面の性質を詳しく調べるには、太陽を背にして彗星をほぼ真正面から見る「衝」と呼ばれる配置で観測する必要があります(図2)。衝付近では天体が普段より明るく見え、その明るさの変化から表面を覆う粒子の性質を調べることができます(注1)。しかし、このような条件がそろう機会は極めて限られています。
すばる望遠鏡のアーカイブが捉えた偶然の発見
研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ HSC(Hyper Suprime-Cam;ハイパー・シュプリーム・カム)を用いた大規模サーベイプログラム(HSC-SSP)で取得され、公開されているアーカイブデータの中から、太陽系小天体が写り込んでいる画像を体系的に調査してきました。その中で、彗星 28P/Neujmin(ネウイミン彗星)が、太陽から 10 天文単位(太陽と地球の距離の 10 倍)以上離れた、土星よりも遠い場所で、コマのない状態で写っていることを発見しました(図1)。しかも、その画像は太陽・彗星・地球がほぼ一直線に並ぶ「衝」に近い、理想的な条件で撮影されていました。その結果、研究チームは、地上観測としては世界で初めて、彗星核の衝における増光を明確に確認することに成功しました(図3左)。
すばる望遠鏡の 8.2 メートルという大口径によって遠方の暗い彗星核が検出できたことに加え、HSC の広い視野がこの彗星が写り込むことを可能にし、今回の発見につながりました。
彗星核の表面は小惑星とどう違うのか
解析の結果、ネウイミン彗星の表面の色は、水を多く含むような暗く(反射率が低く)赤みを帯びたタイプの小惑星とよく似ていることが分かりました。これは、これまでの研究から予想されていた結果です。
ところが、衝における明るさの変化を調べると、予想外の違いが見えてきました。一般に、このタイプの小惑星では、真正面からみたときの増光はそれほど大きくありません。しかしネウイミン彗星では、それよりもはるかに大きな増光が見られ、むしろ光をよく反射するタイプの小惑星に匹敵するほどでした(図3右)。

図3:ネウイミン彗星が衝に近づいた際の増光をとらえたすばる望遠鏡の観測データ(左)と、色々なタイプの小惑星における増光パターン(右)。左図で、太陽-彗星-地球がなす角度が 0.33°という、ほぼ真正面から観測したデータ(黒丸)は、他の角度で観測したときよりも大幅に増光していることが分かります。暗い(反射率の低い)タイプの小惑星(右図のD、C、P型)にはこうした鋭い増光はみられません。ネウイミン彗星の増光は、反射率が高いタイプの小惑星(右図のE、S、M型)に匹敵するほど強いものでした。(クレジット:国立天文台)
この結果は、彗星表面の微細な構造、つまり表面を覆う粒子の大きさや隙間の空き具合、粒子の集まり方などについて、大きなヒントを与えてくれます。今回の結果は、ネウイミン彗星の核が、色や光の反射のしやすさの点では反射率の低いタイプの小惑星に似ていても、表面の微細な構造は大きく異なっている可能性を示しています。彗星は太陽に近づくたびに氷の昇華を繰り返しており、こうした活動の積み重ねで、小惑星にはない独特の表面構造が作られたのかもしれません。
アーカイブデータが広げる彗星研究の可能性
今回の成果は、すばる望遠鏡の集光力、HSC の広視野、そして公開アーカイブという3つの強みが組み合わさることで、本来の観測対象ではなかった太陽系小天体の研究においても思わぬ大きな発見が生まれた好例です。
研究チームを率いる産業医科大学の大坪貴文博士は、「すばる望遠鏡の公開アーカイブには、まだ見つかっていない興味深い太陽系小天体のデータが眠っています。今後さまざまな彗星について同様の観測を進めることで、太陽系の歴史の中で、彗星核の表面構造がどのように作られてきたのか、さらには太陽系の天体がどのように形成され、現在の姿になったのか、理解が進むでしょう」と展望を語ります。
本研究成果は、2026年8月25日付の『日本天文学会欧文研究報告(PASJ)』に掲載されました(Ootsubo et al. "Opposition effect of comet 28P/Neujmin observed with Subaru Hyper Suprime-Cam")。
本成果は、すばる望遠鏡で取得され、国立天文台の天文データセンターとハワイ観測所が運用する HSC データアーカイブシステムから取得したデータに基づいています。また、本研究は科学研究費補助金(課題番号:23H01234、23K25930、24H00271、23H01217、23K25913、23K22557、24K00684、25K24630、25K07393)による支援、および NEDO「高効率・高速処理を可能とする AI チップ次世代コンピューティングの技術開発」事業の「超大規模データ解析:e-Science への適用」の協力により実施されました。
(注1)天体を真正面から見ると、表面の粒子が作る影がほとんど見えなくなるため、普段より明るく見えます。さらに、粒子の間で散乱した光が観測者の方向へ集まりやすくなる効果も加わり、明るさが急激に増すことがあります。この現象を「衝効果」と呼びます。衝効果を調べることで、天体表面を覆う粒子の大きさや詰まり具合などを推定できます。
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。



