太陽系の外から飛来した「アトラス彗星」(3I/ATLAS、C/2025 N1)をすばる望遠鏡で調べた結果、彗星のまわりに広がるガスやちりの雲(コマ)中の水(H2O)に対する二酸化炭素(CO2)の割合が太陽系の一般的な彗星より高く、しかも太陽への接近に伴って変化した可能性が明らかになりました。この成果は、恒星間彗星の表層と内部で物質の組成が異なる可能性を示し、他の星系で形成された微惑星の性質や進化を理解するうえで重要な手がかりとなります。

図1:恒星間天体アトラス彗星(3I/ATLAS、C/2025 N1)。2025年12月13日(ハワイ現地時)に、すばる望遠鏡の FOCAS で取得したV(550 ナノメートル)、R(660 ナノメートル)、I(805 ナノメートル)バンドの各画像を青・緑・赤に割り当てて合成しました。画像の詳細についてはこちらをご覧ください。(クレジット:国立天文台)
太陽系の外からやってきた「恒星間天体」
恒星間天体は、太陽系の外、別の恒星のまわりで生まれた天体が宇宙空間を旅して偶然太陽系に入り込んできたものです。こうした天体は、他の星のもとで作られた物質を直接調べることができる「宇宙からのサンプル」として注目されています。2025年7月に発見されたアトラス彗星(3I/ATLAS、C/2025 N1)は、これまでに確認されたなかでわずか3例目の恒星間天体で、2025年10月29日に太陽に最接近した後、太陽系から飛び去る軌道をたどっています。
すばる望遠鏡による観測
京都産業大学 神山宇宙科学研究所の新中善晴博士らの研究チームは、アトラス彗星から放出されるガスの成分を調べるために、すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS による観測を 2026年1月7日に実施しました。観測時、アトラス彗星は太陽から離れていく途中で、太陽からの距離は 2.87 天文単位(地球と太陽の距離の約 2.9 倍)でした。
彗星の「ガスの割合」に注目
研究チームは、彗星の活動を左右する主な成分である二酸化炭素(CO2)と水(H2O)の存在比を明らかにすることを目指しました。二酸化炭素は水よりも低い温度で気体になりやすいため、CO2/H2O 比は、彗星がどのような環境で形成され、どのような進化をたどってきたかを探る重要な手がかりになります。しかし、二酸化炭素からの光は地球大気の影響を強く受けるため、地上から直接測定することは容易ではありません。
そこで研究チームは、二酸化炭素や水から生じる酸素原子から放たれる光を利用しました。酸素原子からの光(禁制線)は、地球のオーロラで見られる緑や赤の輝きと同じ種類の発光です。彗星コマでは、水から生じた酸素原子は主に赤色の光、二酸化炭素から生じた酸素原子は緑色と赤色の光を同程度の強さで放ちます(図2)。そのため、緑と赤の光の強さを比べることで、彗星コマ中の CO2/H2O 比を推定することができるのです。

図2:彗星コマ中での酸素原子の発光メカニズム。彗星コマ中の水(H2O)や二酸化炭素(CO2)は太陽の紫外線によって分解され、酸素原子がつくられます。この酸素原子は、オーロラと同じ仕組みで緑や赤の光を放ちます。水から作られた酸素原子は赤い光を出しやすく、二酸化炭素から作られた酸素原子は緑と赤の光を同程度放出するため、赤と緑の光の強度比から彗星コマ中の二酸化炭素と水の比率を推定できます。(クレジット:京都産業大学)
太陽接近で変わるガスの割合
研究チームは、観測で得られた光の分布(スペクトル、図3)から、酸素原子が放つ緑色と赤色の光の強度比を測定し、これを手がかりに二酸化炭素と水の割合を推定しました。その結果、CO2/H2O 比はおよそ 0.3 から 2.1 と見積もられました。一方で、宇宙望遠鏡による赤外線観測では、太陽に最も近づく前には二酸化炭素が非常に多い状態であったことが報告されています。今回の結果はそれよりも低い値を示しており、太陽への接近の前後で、アトラス彗星から放出されるガスの組成が変化した可能性が示されました。
このような変化は、彗星の表面と内部で含まれる物質の割合が異なることに加え、太陽に近づいて加熱されることで、ガスが放出される場所が表面からより深い部分へ移っていくためと考えられます。本研究は、恒星間彗星がどのような環境で形成され、どのような内部構造を持つのかを探るうえで重要な手がかりを与えるものです。今後、さまざまな距離での観測や理論との比較によって、恒星間天体の成り立ちへの理解がさらに深まると期待されます。

図3:アトラス彗星(3I/ATLAS、C/2025 N1)の3本の酸素原子禁制線のスペクトル。上から緑色輝線(557.7 ナノメートル)と2本の赤色輝線(630.0 ナノメートル、636.4 ナノメートル)を示します。各輝線の左側に見える輝線(点線でマーク)は地球大気の酸素原子禁制線です。高分散分光器 HDS で光を細かく分けることで、地球大気と彗星コマからの光を見分けることができています。(クレジット:京都産業大学)
発見の時代に、すばる望遠鏡が担う役割
論文の主著者の新中博士は、「私たちがこれまで太陽系の彗星の研究で培ってきた観測・解析手法を恒星間天体に適用することで、太陽系内外の彗星を同じ観点から比較し、その組成や進化の違いを探る研究が可能になりました。今後、サーベイ望遠鏡の本格稼働によって、さらに多くの恒星間天体の発見が期待されています。その中で、すばる望遠鏡の高分散分光観測は、恒星間天体の性質の解明に重要な役割を果たすでしょう。こうした天体の研究を通じて、太陽系を含むさまざまな恒星系で、微惑星や惑星がどのように形成されたのかを、より深く明らかにしていきたいと考えています」と語ります。
本研究成果は、米国天文学会誌『アストロノミカル・ジャーナル』に 2026年4月22日付で掲載されます(Shinnaka et al. "A post-perihelion constraint on the CO2/H2O ratio of interstellar comet 3I/ATLAS from [O I] forbidden lines")。論文のプレプリントはこちらでご覧ください。
本研究は科学研究費補助金(課題番号:20K14541、21H04498、23H01234、26K00771)、京都産業大学神山宇宙科学研究所、神山天文台の支援により実施されました。
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。


