観測成果

太陽系内

すばる望遠鏡が明かす木星トロヤ群小惑星の「色の謎」- Suprime-Cam 最後の観測がもたらした新発見 -

2026年4月9日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2026年4月9日

すばる望遠鏡とその初代広視野カメラ「Suprime-Cam(シュプリームカム)」による観測から、木星の軌道付近に広がる「木星トロヤ群小惑星」の色と大きさの関係に新たな特徴が見えてきました。これまで大きな小惑星で見られていた色の違いが、小さな小惑星では異なる振る舞いを示すことが分かり、トロヤ群小惑星の起源や進化を解き明かす手がかりとして注目されます。

すばる望遠鏡が明かす木星トロヤ群小惑星の「色の謎」- Suprime-Cam 最後の観測がもたらした新発見 -
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図1:木星トロヤ群小惑星の想像図(クレジット:NASA/JPL-Caltech)

木星トロヤ群小惑星とは?-その特徴と謎-

木星は太陽のまわりを公転していますが、その軌道上には、前方と後方に小惑星が集まる安定した場所があります。これらの領域にあり、木星とともに太陽のまわりを回る小惑星の集団を「トロヤ群小惑星」と呼びます。トロヤ群小惑星は、太陽系ができたばかりの頃の情報を保っていると考えられており、「太陽系の化石」のような存在です。

これまでの研究から、大きなトロヤ群小惑星は、光の反射のしかたの違いによって、赤っぽい色をした「D型」と、それほど赤くない「P型/C型」の2つのタイプに分かれることが知られています。小惑星の色は、その天体がどのような物質からできているか、そして太陽からどのくらい離れた場所で形成されたかを反映していると考えられています。これは、太陽に近い場所と遠い場所では温度が異なり、材料となる物質の種類が変わるためです。

トロヤ群では、本来は異なる場所で生まれた可能性のある2種類の小惑星が、同じ領域に混ざって存在しています。この理由は現在もはっきりとは分かっていませんが、太陽系初期に巨大惑星の軌道が大きく変化し、その影響で遠方にあった小天体が木星付近に運ばれてきた可能性が指摘されています。

謎を解くカギは小さな小惑星

2種類の木星トロヤ群小惑星の謎に迫るため、産業医科大学、国立天文台、神戸大学の研究チームは、小さなトロヤ群小惑星に着目しました。

太陽系では、小惑星同士の衝突が繰り返し起きています。そのため、小さな小惑星の多くは、もともと大きな小惑星が壊れてできた「破片」だと考えられています。大きな小惑星の表面は、長い年月のあいだ宇宙環境にさらされ、性質が変化している可能性がある一方で、破片である小さい小惑星の表面は母天体内部の物質組成を反映している可能性があります。つまり、小さな小惑星の色を調べることで、もとの天体がどのような物質でできていたのかを知る手がかりになるのです。

Suprime-Cam 最後の夜の観測

小惑星の色を調べるには、光を細かく分けて調べる方法(分光)や、異なる色のフィルターで撮影して明るさを比較する方法(多色測光)があります。小さなトロヤ群小惑星は非常に暗いので、すばる望遠鏡をもってしても分光観測を行うのは困難です。そこで研究チームは、すばる望遠鏡の初代の広視野カメラ Suprime-Cam(シュプリームカム)を用いた多色測光を実施しました。

「Suprime-Cam は Hyper Suprime-Cam(HSC)の運用が始まってから引退することが決まっていました。HSC は Suprime-Cam の約7倍の視野を持つカメラで、サーベイ効率を格段に上げた一方、装置が巨大化したことでフィルターの交換に時間がかかります。空の広い範囲を短時間で多色測光するという今回の観測には Suprime-Cam が必須でした」と研究を率いた吉田二美博士(産業医科大学/千葉工業大学)は語ります。

観測は 2017年5月、Suprime-Cam がすばる望遠鏡に取り付けられる「最後の夜」に行われました(関連記事

「最終夜には、開発や運用に関わった大勢の方がハワイ観測所や三鷹のリモート観測室に集まって Suprime-Cam の最後の勇姿を見守りました。その貴重な時間に私たちの研究が行われたことに深く感謝しています。思えば、私の太陽系小天体の研究は 2000年に Suprime-Cam のテスト観測データを解析した時から始まりました。以来 17 年間、Suprime-Cam を用いて太陽系小天体のサイズ分布や空間分布を明らかにする研究を続けることができ、大変お世話になったのです」と吉田博士は語ります。

観測が明らかにした2つのこと

研究チームは、木星の前方にある領域を観測し、120 個のトロヤ群小惑星を検出しました。そのうち、直径数キロメートル規模の小さな天体について、色と大きさの関係を調べた結果、次の2つの特徴が明らかになりました。

(1)小さな小惑星では「はっきりした色の分かれ方」が見られない
大きな小惑星では「赤いもの」と「赤くないもの」に分かれていましたが、小さな小惑星ではそのようなはっきりした区別は見られませんでした。色は連続的に分布し、全体としては赤くない天体が多い傾向が見られました。

(2)色による大きさの分布の違いが見られない
これまでの研究では、大きな小惑星では色によってサイズ分布(どの大きさの小惑星がどれくらい存在するか)が異なることが知られていました。しかし今回、小さな小惑星について調べたところ、赤いものと赤くないもののあいだで、そのサイズ分布にほとんど違いが見られないことが分かりました(図2)。この結果は、従来言われていた「赤い小惑星が壊れて赤くない破片になる」という単純な説明では理解できないことを示しています。「赤いもの」と「赤くないもの」は同じように壊れているからです。

すばる望遠鏡が明かす木星トロヤ群小惑星の「色の謎」- Suprime-Cam 最後の観測がもたらした新発見 -
図5

図2:本観測で得られた小惑星のサイズ分布。横軸(明るさ)は天体の大きさの目安で、13 等は直径約 16 キロメートル、17 等は直径約3キロメートルに相当します。縦軸は、ある明るさ以下の小惑星が全体のどれだけを占めるかという割合を表します。赤い小惑星(□)と赤くない小惑星(○)の間で、サイズ分布に違いが見られないことが分かります。(クレジット:Yoshida et al. 2026)

今後の展望

今回の成果は、木星トロヤ群小惑星がどこで生まれ、どのように進化してきたのかを考える上で重要な手がかりとなります。

今後は、探査機による直接観測も大きな役割を果たします。たとえば、木星系を探査する欧州の探査機 JUICE や、トロヤ群小惑星を史上初めて訪れる NASA の探査機 Lucy などによって、小惑星の表面の様子が明らかになると期待されています。これら探査機による観測と今回の研究成果や理論モデルを組み合わせることで、トロヤ群小惑星の起源や進化の理解が大きく進むでしょう。


本研究成果は、米国の天文学誌「アストロノミカル・ジャーナル」に 2025年3月20日付で掲載されました(Yoshida et al. "Color and Size Distributions of Small Jupiter Trojans")。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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