観測成果

太陽系内

40年間の観測から木星の気温に謎のパターンを発見

2022年12月19日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2022年12月20日

NASA の宇宙探査機と地上望遠鏡の観測データを用い、木星の対流圏上層部の温度を、今までで一番長い期間追跡調査をした結果、木星の気温が四季とは関係なしに一定の間隔で変動することが発見されました。木星の対流圏は、木星のトレードマークともいえる色とりどりな縞模様の雲が形成されるなど、様々な気象現象が起こっている大気の低層部です。この結果は、太陽系最大の惑星である木星の天気を左右する要因をより深く理解し、究極的には天気を予報できるようになるための大きな一歩といえます。本研究では、すばる望遠鏡の中間赤外観測装置 COMICS が 14年にわたる観測データを提供しました。

40年間の観測から木星の気温に謎のパターンを発見 図

図1:木星の赤外線画像。左側の2枚は、それぞれ 2016年2月と 3月に VLT で撮られた波長 8.6 ミクロンと 10.7 ミクロンの画像を合成したもの。色は雲の状態と温度を反映しています - 暗くなっている領域は寒く曇っており、明るい領域は暖かく雲がありません。右側の1枚は、COMICS で2019年に撮影した波長 18 ミクロンの画像 (クレジット:ESO / L.N. Fletcher, NAOJ)

木星と地球の対流圏には多くの共通点があります。すなわち雲が形成され、嵐が発生する大気層であることです。この気象活動を理解するためには、風、気圧、湿度、温度など、様々な特性を調べる必要があります。1970年代の NASA パイオニア 10 号と 11 号のミッション以降、木星の明るくて白い帯 (ゾーン) は、一般に温度が低い場所であることがわかっています。一方、茶色や赤色の帯 (ベルト) は、比較的暖かです。

しかし、それらの帯の温度が長期的にどう変化するかを理解するには、今まで十分なデータがそろっていませんでした。国立天文台ハワイ観測所、米国の NASA ジェット推進研究所 (JPL)、英国のレスター大学などの惑星科学者らによる国際研究チームは、大気の暖かい領域 (対流圏上層部) からの赤外線の輝きをとらえた画像を分析し、木星の色とりどりな雲の上の温度を直接測定することによって、この状況を打開しました。これらの画像は、木星が太陽を 12年で周回するのを3周分、一定間隔で撮影したものです。

その結果、木星の気温は季節やその他の周期とは関係なく、一定の間隔で暖かくなったり寒くなったりしていることがわかりました。地球の自転軸が太陽に対し 23.5 度も傾いているのに対し、木星は3度しか傾いていないため、四季は変化に乏しく、気温がこれほど規則正しく変動するとは予想外でした。

また、この研究は何千キロメートルも離れた地点の気温の変化の間に、不思議な関係性があることも明らかにしました。北半球側の複数の地点で気温が上昇すると、南半球側の同じ緯度の地点で気温が低下します。そして、それが規則的なパターンで反転し、繰り返されるのです。「全くの驚きでした。しかし、これは、地球で見られる現象と似ています。ある地域の天気や気候のパターンが、他の場所の天気に大きな影響を与えることがあり、変動パターンが大気中のはるかな距離を越えてテレコネクトしている (遠隔相関がある) ように見える現象です」と研究を率いたグレン・オートン上級研究員 (JPL) は述べています。

次の課題は、この周期的で一見同期したような変化の原因を探ることです。「我々は今回、パズルの一部分を明らかにしました。それは、木星大気中にこのようなサイクルが存在するという事実です。しかし何がこれらのパターンを生み出すのか、また、なぜ特定の時間スケールで発生するのかを理解するためには、曇の層の上下両方を探索する必要があります」と、共著者のリー・フレッチャー博士 (レスター大学) は言及します。

数十年にわたる観測

オートン博士らは、1978年にこの研究を開始しました。研究の期間中は継続的に年数回、3つの地上大型望遠鏡 (すばる望遠鏡、IRTF、VLT) で観測時間を獲得するために提案書を書きつづけました。

最初の 20年間は、オートン博士と共同研究者が時には交代しながらハワイなど現地で全体像を描くのに必要な温度情報を得るための観測を行いました (2000年代初頭には、一部の観測を遠隔で行うことができるようになりました)。その後、複数の望遠鏡・観測装置からの何年にもわたるデータを組み合わせ、パターンを探すという大変な作業が待っていました。

「長期間にわたるこの研究に長年安定したデータを提供できたことをうれしく思います」と共著者で国立天文台ハワイ観測所の藤吉拓哉博士もその喜びを表します。すばる望遠鏡では 2020年に引退した中間赤外観測装置 COMICS が用いられ、2005年5月から2019年5月までの間に 20 回以上の観測が行われました。

木星大気の研究者らは、今回の結果が木星の天気の詳細な理解に貢献し、さらにはその予測にまで発展することを期待しています。また、この研究は、木星だけではなく、太陽系と太陽系外のすべての巨大惑星の気候モデルへの重要な制限となり得ます。

「温度変化とその周期を長期にわたって測定し、木星大気内でそれらの原因と結果を結びつけることができれば、完全な木星天気予報を実現するための一歩となります。より大きな観点からの課題は、いつか今回のような研究を他の巨大惑星にも拡張し、同様のパターンが見られるかどうかを検証することです」とフレッチャー博士は結びます。


本研究成果は、英国の科学誌『ネイチャー・アストロノミー』に 2022年12月19日付で掲載されました (Glenn S. Orton et al. "Unexpected long-term variability in Jupiter’s tropospheric temperatures")。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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