観測成果

太陽系内

マウナケア天文台群が捉えた太陽に接近する彗星の崩壊への道のり

2022年6月14日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2022年9月11日

すばる望遠鏡を含むマウナケア天文台群の望遠鏡による観測で、太陽のごく近くを通る周期彗星が塵を放出する様子が、初めて明らかになりました。この観測結果は、太陽に近づく周期彗星が少ないことを説明する一方で、新たな謎も提示しています。

マウナケア天文台群が捉えた太陽に接近する彗星の崩壊への道のり 図

図1:(左) すばる望遠鏡と (右) CFHT が捉えた 323P/SOHO。2020年12月21日に撮影された、太陽に近づく前の画像 (左) では、彗星は中央に点状で捉えられています。2021年1月に太陽に最接近したのち、2021年2月11日に撮影された右の画像では、長い尾を伴っています。背景の恒星は右の画像ではデータ処理の過程でマスクされていますが、左の画像ではマスクされておらず線の連なりとして写っています。(クレジット:ハワイ観測所/CFHT/Man-To Hui/David Tholen)

太陽系のイメージとして、教科書には、太陽の周りを天体が整然と回る図が載っています。しかし、このパターンに当てはまらない天体にとって、太陽系は危険な場所です。他の天体からの重力的な作用で軌道が不安定になった小天体は、彗星となって、最後は太陽に突入することもあります。このような彗星は明るく輝く太陽のすぐ近くを通過するために観測が難しく、宇宙空間にある太陽観測望遠鏡 SOHO などで偶然に発見される場合がほとんどです。一方、観測の難しさを考慮しても、そのような彗星の数は理論的な予想よりはるかに少なく、太陽への致命的な突入をする前に、何らかの作用が彗星を破壊していることを示唆しています。

マカオ、アメリカ、ドイツ、台湾、カナダの研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡 (CFHT)、ジェミニ北望遠鏡等を用いて、太陽にとても近づく周期彗星 323P/SOHO (注1) の姿を鮮明に捉えることに成功しました。当初、323P/SOHO は軌道の不定性が大きく、どこにあるのか明らかではありませんでした。しかし、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ HSC の広い視野と感度を活かすことで、太陽に近づきつつあった 323P/SOHO を初めて地上から観測することができたのです。このデータによって軌道を把握した研究者チームは、この天体が再び太陽から遠ざかり始めるのを待って他の望遠鏡による追観測を行いました。

その結果、323P/SOHO が太陽に接近している間に、驚くべき変化が起きたことが分かりました。すばる望遠鏡による観測時には点状だった 323P/SOHO が、太陽に最接近した後の観測では、塵を放出し長い尾を引いていたのです (図1)。研究チームは、太陽からの強い放射によって彗星核に圧力がかかり、一部が破壊されたために塵の放出が生じたと考えています。「氷の塊に熱い飲み物をかけると割れるのと同じようなものです」と、研究を率いたハイ・マンタォ (許文韜) 博士 (マカオ科学技術大学) は解説します。太陽のごく近くを回る彗星の質量放出がはっきりと観測されたのは本研究が初めてです。なぜこの種の彗星が予想以上に少ないかを説明する上で、彗星核の断片化が大きな要因の一つであることが観測的にも示されました。

本研究は、マウナケア天文台群におけるハワイ大学の時間を利用した観測から始まり、すばる望遠鏡、CFHT、ジェミニ北望遠鏡を柔軟に使用することによって重要な発見がされました。観測当時ハワイ大学の研究員であったハイ博士は「今回の発見は、マウナケアの望遠鏡なしではあり得ませんでした」と語ります。「すばる望遠鏡の観測は、軌道の不定性を減らし、追観測を可能にしました。CFHT からは長期間にわたる観測データが得られ、ジェミニ北望遠鏡からは最も密度の高いデータが得られました」

研究チームは、複数の観測で天体の位置を綿密に測定することで、その軌道を正確に決定し、今後 2000 年以内に 323P/SOHO が太陽に衝突する軌道に突入し消滅する運命にあることを突き止めました。

一方、観測の結果は、この彗星についてさらに多くの疑問も投げかけています。明るさの時間変化から、323P/SOHO は、既知のどの彗星よりも速い、30 分の周期で自転していることが分かりました。また、表面物質の組成を反映すると考えられる、彗星の色は、他の彗星とは大きく異なっており、顕著な時間変化も観測されました。これらは、太陽にごく近い環境でのみ生じる物理的プロセスによって生じた特徴かもしれません。観測例が少ない太陽に近づく彗星には、解明すべき謎がまだたくさん残されています。


本研究成果は、Hui et al. "The Lingering Death of Periodic Near-Sun Comet 323P/SOHO" として、米国の天文学専門誌『アストロノミカル・ジャーナル』に2022年6月14日付で掲載されました。


(注1) 323P/SOHO などの「near-Sun comet」は、近日点が水星軌道よりも内側にある天体です。太陽観測望遠鏡 SOHO によって1999年に発見された 323P/SOHO は、約 4.2 年の周期で公転しており、本研究では2021年1月の近日点通過 (太陽半径の約 8.4 倍の位置) の前後で観測が行われました。


すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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