図１：すばる望遠鏡が2018年1月15日と1月16日に観測した、ファーファーアウト (2018 AG37) の発見画像。時間をあけて撮影された画像から、新天体の動きが見て取れます。(クレジット：Scott S. Sheppard)
すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) によって、太陽-地球間の距離の約 132 倍 (132 天文単位) という非常に遠い場所で、新たな天体 (愛称：ファーファーアウト, Farfarout) が発見されました。 現在知られている太陽系天体の中で、発見時の距離が最も遠い天体となります。
Farfarout は、米国・カーネギー研究所、ハワイ大学、北アリゾナ大学の研究者達により、2018年にすばる望遠鏡の観測で発見後、ジェミニ北望遠鏡とマゼラン望遠鏡を用いた数年間にわたる追観測でその軌道が求められました。現在、Farfarout は太陽から約 132 天文単位という、太陽－冥王星間の約４倍に相当する距離にあります。これまで太陽系で最も遠くで発見された天体、2018 VG18 (愛称：ファーアウト、Farout) は、発見当時の距離が約 120 天文単位でした。こちらも、同研究チームがすばる望遠鏡を用いて発見した天体です (2018年12月17日リリース記事)。
研究チームの David Tholen 博士 (ハワイ大学) は、「ファーファーアウトが太陽の周りを一周するのに 1000 年くらいかかるでしょう。天球上の移動もとてもゆっくりなので、軌道を正確に決めるためには、数年にわたる観測が必要です」と語ります。
Farfarout の軌道は細長く、遠日点 (太陽から最も離れた位置) は約 175 天文単位、近日点 (太陽から最も近い位置) は、海王星軌道よりも内側の約 27 天文単位です。研究チームは、過去に起こった海王星との重力相互作用によって、Farfarout の軌道が細長くなったのではないかと推測しています。Chad Trujillo 博士 (北アリゾナ大学) は、「ファーファーアウトは海王星に近づきすぎたために、太陽系の外側にはじき出されたのでしょう。ファーファーアウトの軌道は、海王星の形成と進化を理解するうえでも興味深いです。軌道が交差しているので、今後もファーファーアウトと海王星が大きな重力相互作用をする機会があるでしょう」と話しています。
海王星の重力の影響が強いため、Farfarout の軌道からは、太陽系の未知の惑星の存在を調べることはできません。海王星よりもさらに遠くにあるかもしれない未知の惑星「プラネット・ナイン (第九惑星) 」の存在は、「2012 VP113」や「セドナ」など、海王星軌道よりもさらに外側にある天体の軌道から示唆されています。研究チームは、このような太陽系外縁天体の探査を、すばる望遠鏡を用いて行なっています (参考：2018年10月3日リリース記事)。
研究チームは、Farfarout の明るさ、距離と、氷を多く含む天体との仮定から、その直径を約 400 キロメートルと見積もっています。準惑星だとすると、下限に近い天体です。
Scott Sheppard 博士 (カーネギー研究所) は、「ファーファーアウトの発見は、太陽系外縁部の全体像を捉え、そのさらに遠方を探査する人類の能力が向上していることを示しています。大望遠鏡にとりつけられた巨大デジタルカメラの近年の発達によって、ファーファーアウトのような遠方の天体を効率的に見つけることが初めて可能になったのです。これらの天体が準惑星クラスの大きさだとしても、遠く離れているために非常に暗い天体として観測されます。ファーファーアウトは、太陽系の果てに存在する天体のなかでは氷山の一角にすぎないのでしょう」と、観測機器の向上による今後のさらなる発見への期待を語っています。
この新天体は、国際天文学連合小惑星センターによって、2021年2月10日に「2018 AG37」という仮符号が与えられました(Minor Planet Electric Circular 2021-C187)。正式な名称は、今後さらに数年にわたる観測で、軌道がより正確に求められてから与えられます。
図２：ファーファーアウト (2018 AG37) のイメージイラストと、太陽系内の天体の距離を示すグラフ。緑、黄、橙、赤色はそれぞれ、惑星、準惑星、準惑星の候補、ファーファーアウトを表します。(クレジット：NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva)
画像等のご利⽤について