ユークリッド宇宙望遠鏡とすばる望遠鏡などの地上の望遠鏡を用いた観測から、初期宇宙に存在する 31 個の超巨大ブラックホール(クエーサー)が発見されました。そのうちの2天体は、これまでに知られている最も古いクエーサーの記録を更新しました。この発見には、すばる望遠鏡の超広視野カメラによる撮像データも貢献しています。

図1:発見されたクエーサーのうちの 15 個の画像。クエーサーは各画像の中心にあります。赤い文字で記されている2天体は最遠方の記録を更新しました。文字の入っていない画像はこちら(2.5 MB)。(クレジット:ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by the Euclid Science Ground Segment and Antoine Basset (CNES))
クエーサーは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールに物質が引き込まれることで、強烈な光を放つ天体です。その輝きは母銀河全体を大きく上回ることもあり、初期宇宙の観測において重要な目印となります(図2)。
宇宙初期のクエーサーは、いわば過去の宇宙の姿を映し出す「タイムマシン」です。これらを調べることで、最初の銀河や超巨大ブラックホールがどのように誕生し、どのように成長してきたのかを探る手がかりが得られます。宇宙が現在の姿に至るまでに何が起きたのかを理解するうえで、欠かせない存在です。
こうした初期宇宙のクエーサーを見つける試みは、これまで数十年にわたって続けられてきました。すばる望遠鏡でも過去 10 年にわたって比較的暗いクエーサーの探索がおこなわれ、約 200 個もの発見に成功しています。しかし、赤方偏移が7を超える最遠方の時代では発見数は限られており、全体像を把握するには数が不足していました。
この状況を大きく変えたのが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のユークリッド宇宙望遠鏡です。2023年に打ち上げられたユークリッドは、広い空を一度に観測できる広視野と、遠方天体の発見に欠かせない赤外線ででの高い感度を兼ね備えています。これにより、宇宙誕生から間もない時代における探査効率が飛躍的に向上しました。
これまで赤方偏移7以上のクエーサーは9天体しか知られていませんでしたが、今回の発見によって新たに 12 天体が加わりました。その中でも、EUCL J172902.75+641018.1(赤方偏移 7.77)と EUCL J125308.55+705432.3(赤方偏移 7.69)は最遠方記録を更新する天体です。これらは、いずれも約 131 億光年彼方、宇宙誕生から6億 7000 万年後に存在していたと考えられています。
また、今回の発見では、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(Hyper Suprime-Cam、HSC)による可視光の撮像データも活用されています。ユークリッド国際チームの尾上匡房博士(早稲田大学)は、「ユークリッドの優れた赤外線データを最大限に生かすには、より波長の短い可視光の観測データと組み合わせることが欠かせません。特に、初期宇宙のクエーサー探査では、赤外線で明るく、可視光で急激に暗くなる天体を選び出す必要があります。最遠方記録を更新した2天体を選び出す際には、すばる望遠鏡の観測データが実際に使われており、候補天体の絞り込みに大きく貢献しています」と語ります。
すばる望遠鏡は、ハワイ・マウナケアの他の望遠鏡群とともに、北の空の観測データを提供することで、ユークリッド計画を支えています(関連記事)。今回、これほど早い段階で大量の遠方クエーサーが発見されたことで、ユークリッドと地上望遠鏡の連携を世界に強く印象付ける成果となりました。
2023年7月に打ち上げられ、2024年2月に本格的なサーベイを開始したユークリッドは、何十億もの銀河を観測して、宇宙の構造を明らかにする三次元地図を作成することを目的としています。現在のデータはまだ1年半分に過ぎず、今回の発見は始まりにすぎません(図3)。6年間にわたるサーベイでは、初期宇宙に存在する数百ものクエーサーの発見が期待されています。これにより、銀河と超巨大ブラックホールがどのように誕生し進化してきたのか、その全体像の解明が大きく進むと考えられます。

図3:本研究でカバーされた天域(水色)と、発見された 31 個のクエーサーの位置(黄色と赤の点)。赤い点は、最遠方の記録を更新した2つのクエーサーの位置を示します。ユークリッドは最終的には全天の約3分の1にわたる領域をサーベイします。元画像はこちら(0.8 MB)(クレジット:ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA/Planck Collaboration/A. Mellinger; Acknowledgment: Jean-Charles Cuillandre, João Dinis)
「これまでの観測からも、若い宇宙でどのように太陽の 10 億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが生まれ、短期間で成長したのかは大きな謎でした。今回、最遠方記録が更新されたことで、その謎はむしろ一層際立ちました」と尾上博士は話します。
また、同じくユークリッド国際チームのメンバーであり、すばる望遠鏡で長年にわたってクエーサー探査を行ってきた愛媛大学の松岡良樹博士は次のように話します。
「地上で長年おこなわれてきた探査の先へ、ユークリッドがこれほど早く到達できたことは驚きです。今後の観測で、最遠・最古の記録をさらに塗り替えるクエーサーが発見されることは確実でしょう。そのためには、すばるによる連携観測も引き続き重要です。ビッグバンのどれだけ近くまでクエーサーが見つかるのか、わくわくしながら探査を続けたいと思います。このことは、巨大ブラックホール誕生の秘密に迫る重要な手がかりを与えることにもなります」
本研究は欧州の天文学専門誌『アストロノミー&アストロフィジックス』に 2026 年7月6日付で掲載されました(Da-Ming Yang et al. "Euclid: Discovery of 31 new quasars at 6.6 < z<7.8")。
ユークリッド国際チームについて:
ユークリッド計画の国際チーム(ユークリッド・コンソーシアム)は、欧州 15 カ国に加え、カナダ、日本、アメリカの 300 以上の研究機関から 2000 人以上のメンバーで構成されています。日本のメンバーは、すばる望遠鏡の HSC を用いた広域撮像プロジェクト ウィッシーズ(WISHES:Wide Imaging with Subaru HSC of the Euclid Sky)を通じてユークリッドに貢献しています。




