トピックス・お知らせ

トピックス

ハワイの天文台がユークリッド衛星計画に彩りをそえる

2023年7月1日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

2023年7月1日に打ち上げられたヨーロッパのユークリッド衛星は、全天の3分の1以上という広い領域で何十億もの銀河を観測して宇宙の三次元地図を作成し、ダークマターとダークエネルギーの謎に迫ります。複数の波長でとられたデータを組み合わせて銀河までの距離を決め、正確な三次元地図を作るためには、すばる望遠鏡などハワイの地上望遠鏡との連携が鍵となります。

ハワイの天文台がユークリッド衛星計画に彩りをそえる
図

図1:ユークリッド衛星と連携しているハワイの三つの天文台。(左から)カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡、すばる望遠鏡、パンスターズ望遠鏡。(クレジット:CFHT、国立天文台、IfA)

宇宙は何でできているのでしょうか?正体不明のダークマターとダークエネルギーとは?そして、宇宙の構造は、何十億年もかけてどのように進化してきたのでしょうか?これらの謎に迫るため、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、ユークリッド衛星を打ち上げました。宇宙では大気揺らぎがなく高解像度の画像が撮れます。そのため、銀河の形を鮮明にとらえ、遠くの銀河からの光が手前の天体の重力場で光路を曲げられる重力レンズ効果、とりわけ銀河の形のゆがみや増光の程度が小さい「弱い重力レンズ効果」の検出に力を発揮します。その一方、限られた時間で全天の3分の1以上に相当する1万 5000 平方度もの広い領域を観測するため、可視光波長のフィルターはひとつしかなく、「単色」での撮像となります。宇宙の奥行き方向、つまり銀河の距離を正確に決定するためには、複数のフィルター(波長域)で同じ天体を観測する必要があり、地上望遠鏡との連携が必須です。

ハワイ島マウナケア山頂域にあるカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡(CFHT)とすばる望遠鏡、マウイ島ハレアカラ山頂にあるパンスターズ望遠鏡(Pan-STARRS)の三者は、ユークリッド衛星の打ち上げに先駆けて北天における可視光・近赤外線の広域撮像を行うユニオンズ(UNIONS)プロジェクトを開始しました。UNIONS は、ユークリッド衛星の観測領域の3分の1弱を観測します。ユークリッド衛星計画にとって、UNIONS は、白黒画像に豊かな色を添え、宇宙の正確な三次元地図に生まれ変わるために必要不可欠なパートナーのひとつです。

「UNIONS は、ハワイの望遠鏡の連合体と言えるでしょう。CFHT のメガカムは短い波長域、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラハイパー・シュプリーム・カム(HSC)は主に長い波長域、Pan-STARRS のメガピクセルカメラはその中間の波長域と、それぞれ得意な波長域を担当しています。ユークリッド衛星との連携にとどまらず、ハワイでそれぞれのデータを共有しあって研究を行うための連合体とも言えるでしょう」と宮﨑聡 国立天文台ハワイ観測所長は語ります。

すばる望遠鏡によるユークリッド衛星への最大の貢献は、zバンドとよばれる 900 ナノメートル波長域での観測です。ユークリッドが波長 550 ~ 900 ナノメートルで撮像する画像を、すばる望遠鏡の画像が補う形となります。千葉大学先進科学センターの大栗真宗教授と宮﨑所長らは、ユークリッド衛星との連携強化のため、ウィッシーズ(WISHES:Wide Imaging with Subaru HSC of the Euclid Sky)プロジェクトを起ち上げ、すばる望遠鏡の HSC を使った 40 夜相当の観測時間を獲得しました。

「ユークリッド衛星計画の成功のためにはすばる望遠鏡の協力が必須である、という強い誘いを受けたことがきっかけで、WISHES 計画を立案し、ユークリッド衛星計画に日本から参画しています。これはすばる望遠鏡が国際研究コミュニティにおいて強い存在感を発揮し続けているからこそ実現した国際共同研究です。マウナケア天文台群の仲間たちと協力して、ユークリッド衛星データを用いた日本発ないしハワイ発の面白い研究成果が出せるように頑張っていきたいと思います」とユークリッド・コンソーシアム理事会メンバーの大栗教授は抱負を述べています。

宮﨑所長は、ユークリッド衛星計画が始まった 2000年代からこの計画にずっと着目していました。「打ち上げを迎え、いろんな人の夢が結実して、これまで知らなかった宇宙の謎が手に届くかもしれない新しい時代を切り拓く時が来たんだな、と思うと非常に楽しみです。今後すばる望遠鏡が単独で成果を出し続けるのが厳しくなる中、先端的な国際ミッションと一緒に研究を進めていくことがますます大切になります。ユークリッド衛星との連携は、その先駆けとなるでしょう」

動画:ユークリッド衛星とハワイの天文台との連携について、宮﨑聡 ハワイ観測所長へのインタビュー。2023年6月21日撮影。(クレジット:国立天文台/Maunakea Observatories)

■関連タグ