土星の既知の衛星数が、太陽系内の惑星として初めて 100 個を超えました。100 番目に報告された土星の衛星「S/2004 S43」(仮符号)は、すばる望遠鏡によって初めて観測されました。
この5月に、国際天文学連合から新たに 62 天体が土星の衛星として発表され、土星の衛星数は 145 個になりました。今年の2月に 15 個の新衛星が発表され、95 個の既知の衛星を保持する木星は、「最も衛星が多い惑星」の王座をわずか数ヶ月で土星に奪還されたことになります(注1)。

図1:土星の衛星の軌道を示す概念図。左図と右図はそれぞれ土星の極方向から見た場合と赤道方向から見た場合を表します。今回発表された新しい衛星は、外側の軌道を回る不規則衛星(注2)です。不規則衛星の軌道は赤、緑、青色で表されています。(クレジット:スコット・シェパード/カーネギー研究所)
今回新たに発表された土星の衛星は、直径2キロメートル程度の小さな天体です。その約半数は、すばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam(シュプリーム・カム)を用いた 2004年、2005年、2006年、2007年の観測で、スコット・シェパード教授(カーネギー研究所)が率いるチームにより発見されました。100 番目の衛星「S/2004 S43」は、2004年の観測で発見されています。しかし、わずか 26 等程度の、非常に暗いこれらの天体の軌道を決定するためにはさらなる年数が必要で、2019年と 2021年に同じくマウナケアにあるカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)を用いた、エドワード・アシュトン博士(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)が率いるチームによって軌道が確定されました。残りの天体は、アシュトン博士の同チームが CFHT を用いた観測で発見しました。
これらの衛星は、元々は大きな衛星が、衛星同士あるいは彗星や小惑星との衝突で破壊されてできたものです。そのような衝突から生じたかけらは、元の親衛星とほぼ同じ軌道を保持します。似たような軌道の数から、少なくとも、5個から8個の親衛星が存在していたと推定されます。
これらの衛星は、巨大惑星領域で形成され惑星に取り込まれた天体たちの最後の生き残りです。NASA が計画しているドラゴンフライのような土星探査機で、これらの衛星を間近に撮影することができれば、惑星を作る材料となった始原的な物質についてより深く理解することができるでしょう。
「それがさらに多くの土星の衛星を探す理由の1つです」とシェパード教授は語ります。「もし私たちが十分な数の衛星を見つけることができれば、その中の一つがたまたま、土星系の外側から内側へと向かう探査機の航路のそばにあって、間近に撮影できるかもしれません」
「私たちは土星の周辺でさらに多くの小さな衛星を観測していますが、その軌道を決定するためにはさらなる観測が必要です。これらの未確定の衛星候補のほとんどは、2004年にすばる望遠鏡で初めて観測されたものです」とシェパード教授は述べています。
(注1)衛星数を巡る土星と木星の争いについて、シェパード教授は次のように語ります。「私たちの観測では、土星周りの衛星については、直径約3キロメートルのものまでは完全に捉えていると考えています。地球により近い木星では、さらに小さな、約2キロメートルのものまで完全に捉えているでしょう。土星は観測可能な衛星サイズが木星より大きいにも関わらず、木星よりも多くの衛星が見つかっているので、同じサイズ範囲では、木星よりも多くの衛星を持っていると考えられます」
(注2)巨大惑星の周りには「規則衛星」と「不規則衛星」の2種類の衛星が存在しています。前者は惑星の比較的近くに位置し、惑星の赤道面上にある丸い軌道で惑星の自転と同じ向きに公転するのに対し、後者は惑星から遠く、楕円形で傾いた軌道を持ち、惑星の自転とは逆向きに公転するものが多いのが特徴です。