観測成果

太陽系内

すばる望遠鏡が土星の衛星を新たに 20 天体発見

2019年10月7日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年6月9日

米国・カーネギー研究所などの研究チームは、すばる望遠鏡を使った観測から、土星の外周部を回る衛星を新たに 20 天体発見したと発表しました。この発見により、これまでに見つかった土星の衛星の数は 82 となり、木星の衛星数 (79) を上回りました。この発見は、国際天文学連合のMinor Planet Electronic Circularで2019年10月7日付で発表されました。

すばる望遠鏡が土星の衛星を新たに 20 天体発見 図

図1: 土星に新しく発見された衛星の一つの発見画像。これらはすばる望遠鏡で撮影されたもので、各画像の撮影間隔は約1時間です。背景に写る恒星や銀河は移動しませんが、オレンジ色の線で示された土星の衛星は、2つの画像間で動いて見えます。 (Photographs are courtesy of Scott Sheppard.)

新たに発見された衛星の直径はいずれも約5キロメートルで、新衛星のうち 17 天体は土星の自転とは逆向きに周回しています。順行する衛星のうちの2天体は土星にやや近いところを回っており、土星の周りを一周するのに約2年かかります。より遠いところ周回する順行衛星1天体と逆行衛星 17 天体は、土星の周りを一周するのに約3年以上かかります。

「これらの衛星の軌道を調べると、衛星の起源や、土星形成時の状況を明らかにすることができます」と、研究チームの Scott Sheppard さん (カーネギー研究所) は説明します。

土星の外周部に存在する衛星は、土星の自転軸に対する軌道傾斜角から3つの異なるグループに分類されます。今回新たに発見された順行衛星2天体は、約 46 度の軌道傾斜角を持つ「イヌイット群」に分類されます。これらの衛星は、かつて遠い過去に存在したかもしれない一つの大きな母天体が破壊された破片である可能性があります。同様に、今回新たに発見された逆行衛星は、これまでに知られていた逆行衛星と似たような軌道傾斜角を持つ「北欧群」に属し、やはりかつて存在したかもしれない母天体が破壊された破片である可能性があります。また今回見つかった逆行衛星の一つは、土星から最も遠いところを周回する衛星です。

「このような惑星外周部における衛星群は木星でも見られます。衛星同士の衝突、あるいは小惑星・彗星といった外部天体との激しい衝突活動が土星周辺でも生じていることを示しています」と Sheppard さんは説明します。

今回新たに見つかったもうひとつの順行衛星は 36 度の軌道傾斜角を持ち、「ガリア群」に似ています。しかし、この新衛星の軌道は他の順行衛星よりもはるかに土星から遠い場所に存在しています。時間の経過とともにこの衛星が外側に引き寄せられたか、あるいはそもそも「ガリア群」に属していない可能性も考えられます。

大きな天体が破壊されバラバラになり、小さな破片が衛星として群を作った際、その環境に多量のガスや塵が存在していた場合には、ガスや塵との強い摩擦によって衛星は惑星に次第に落ち込んで行きます。

「若かりし頃の太陽系では、太陽はガスと塵でできた円盤に囲まれていました。似たような円盤が形成中の土星も取り囲んでいたと考えられます」と Shppard は語ります。「今回見つかった衛星が、母天体がバラバラになった後でも土星の周りを回っていられたという事実から、惑星形成過程がほぼ完了し、円盤が重要な役割を果たさなくなった後に天体の衝突活動が生じたことを示します。」

すばる望遠鏡が土星の衛星を新たに 20 天体発見 図2

図2: 土星を周回する 20 の新衛星の概念図。今回の発見により土星の衛星数は 82 になり、これまで太陽系で最も多くの衛星が見つかっていた木星を上回りました。これらの衛星を研究することにより、その形成過程や形成時における土星周辺の状況を明らかにすることができます。 (Illustration is courtesy of the Carnegie Institution for Science. Saturn image is courtesy of NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute. Starry background courtesy of Paolo Sartorio/Shutterstock.)

土星の新衛星は、2004-2007年に行われたすばる望遠鏡の観測によって発見されました。観測チームはカーネギー研究所の Scott Sheppard, カリフォルニア大学ロサンゼルス校の David Jewitt, ハワイ大学の Jan Kleyna で構成されています。「世界最大級の望遠鏡を複数使って、現在、巨大惑星の周りに存在する小さな衛星のカタログを作り上げつつあります。太陽系の惑星がどのように形成・進化したかを調べる上で、衛星は重要な役割を果たします」と観測チームは強調します。

2018年、Sheppard さんは木星を新衛星を 12 天体発見しましたが、カーネギー研究所はそのうちの5天体に対する命名コンテストを実施しました。「木星の新衛星の命名コンテストに多くの市民が参加したことに感銘を受け、今回発見された土星の新衛星に対しても同様のコンテストを実施することにしました」と Sheppard さんは語ります。「今回は、北欧、ガリア、またはイヌイット神話の巨人にちなんで命名されることになります。」

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