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宇宙ライター林公代の視点 (27) : 双方向のコミュニケーションを通じ、観測の最前線に触れる

2017年5月10日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

見学プログラム - 一般見学+地元住民向け

マウナケアにはたくさんの望遠鏡があり、どこの望遠鏡にも研究者や大学生、役所や政府関係者が研究や視察にやってきます。一方で、一般の方々の見学を受け入れているのはすばる望遠鏡だけです。オンラインで申し込める一般見学プログラムは、2004年10月に開始しました。

すばる望遠鏡は日本国民の税金により建設されたものです。安全性を考慮しつつ、国民へのサービス・説明責任としてどのような見学なら可能なのか検討し、ハワイ観測所の職員が限定した時間と人数で案内するプログラムを設けたのです。現在は冬季を除く週1-2回、各日3回のツアーがあり (うち1回は英語) の頻度で催行しています。所要時間は約 45 分。現在までに約1万人以上の方が見学に訪れました。

さらに最近では、マウナケア望遠鏡群に対する地元の方々のより深い理解が極めて重要であるという判断から、地元住民向けの見学ツアーが2016年1月から始まりました (Kamaaina Observatory Experience)。6つの観測所が参加し、ひと月に一回、土曜日に送迎付きで二つの望遠鏡を回るツアーです。マウナケア中腹に集合し、専門家による文化研修と生態系や環境についての研修を受けてから、望遠鏡見学を行います。2016年2月にはすばる望遠鏡の見学が行われ、当時ハワイ観測所長の有本信雄さんが話をしました。

宇宙ライター林公代の視点 (27) : 双方向のコミュニケーションを通じ、観測の最前線に触れる 図

図1: 地元住民向けの見学プログラム Kamaaina Observatory Experience での一コマ。すばる望遠鏡をマウナケアに置かせていただいている意義を説明する大事な機会です。(クレジット:国立天文台)

普及・教育活動 - 10 年以上続く3大イベント

地元への普及・教育活動にも力を入れています。中でも年に3回、マウナケア望遠鏡群が協力して 10 年以上前から行っている大きなイベントがあります。

まず一つ目は1月に行われる「オニヅカ・サイエンス・デイ」です。1986年、スペースシャトル・チャレンジャー号事故で亡くなったエリソン・オニヅカ宇宙飛行士はハワイ島出身でした。オニヅカ宇宙飛行士は次世代に「自分の道を拓いていこう」と呼びかけ、理数工系分野に関心を持ってほしいという願いを持っていたことから、その志を受け継ぎ理科教育に力を入れたイベントを開催。小学校高学年から高校生までを対象にハワイ大学ヒロ校で開かれ、2017年で 17 回目となります。

各観測所が理科教室や工作教室など 20 ほどのワークショップを開くとともに展示やデモンストレーションを行います。ハワイ観測所も複数のワークショップを開催。参加者はマイ望遠鏡を作って望遠鏡の原理を学んだり、すばる望遠鏡が撮影した天体像について自分独自の分類方法を考えたり熱心に取り組みました。2015年の開会イベントでは、すばる望遠鏡とのつながりの深い JAXA 宇宙飛行士の若田光一さんが基調講演を行い、地元の大歓迎を受けました。

二つ目は出前授業「ジャーニー・スルー・ザ・ユニバース」です。マウナケア観測所群や地元の教育委員会と連携し、3月上旬の一週間でヒロの公立学校のほとんどすべてのクラスに、望遠鏡群で働く人たちが出かけ、授業を行います。2017年で 13 年目になります。

すばる望遠鏡でも過去5年間に 200 を超える授業を行ってきました。2017年は有本さんを含め多くの科学者・技術者が授業を行い、1000 人以上の生徒たちと天文学の楽しさを共有しました。有本さんはご自身が小学生の時に天文に興味をもった経験から、毎年小学校に出かけて熱心に子供たちに語りかけてきました。

宇宙ライター林公代の視点 (27) : 双方向のコミュニケーションを通じ、観測の最前線に触れる 図2

図2: 2017年の出前授業「ジャーニー・スルー・ザ・ユニバース」の様子。サポートアストロノマーの Chien-Hsiu Lee さん (左) は、惑星に見立てた大きなボールを使って、太陽系について紹介。ソフトウェアエンジニアの Russell Kackley さん (右) は、天文学観測を支えるコンピューターのシステムについて熱弁。生徒も興味津々。

この出前授業は毎年行われることから、子供たちは年によって様々な観測所のスタッフから異なる観点の話を聞くことができます。ハワイ観測所で出前授業を指揮する嘉数悠子さんは「好奇心あふれるハワイの子供たちと触れ合うことができ、スタッフもとても楽しい時間を過ごすことができました。教育プログラムや普及活動を通じて地域の方々と天文学の楽しさを共有することは、観測所の大切な使命です」と語っています。

三つ目が、ハワイ島ヒロのショッピングモールで毎年5月の第一土曜に行われる「アストロ・デイ」です。2017年で 16 回目となりましたが、毎年この日は駐車場がいっぱいになるほど大人気で、地元に定着したイベントになっています。

ショッピングモールですから天文に関心がある人もない人も、家族連れでやってきます。すばる望遠鏡もマウナケア望遠鏡群の一員として毎年出展。すばる望遠鏡の装置交換ロボットのミニチュアを作り、「観測装置を交換してみよう!」と題して山頂のお仕事を体感してもらうなどの工夫を凝らします。またここ数年特に人気なのは、すばる望遠鏡のゆるキャラ「スービー」。塗り絵や冠にすると、子どもたちが喜んで冠をかぶってショッピングモールを歩き回り、新聞に掲載されました。そのほか虹を見る「分光カード」や「太陽系旅行ゲーム」など実験や工作、ゲーム、質問コーナーを通して天文学を「見て、聞いて、触れて」もらう体験型天文学プログラム。大勢の人たちが参加し、天文学に興味をもったようで熱心な質問も寄せられました。


宇宙ライター林公代の視点 (27) : 双方向のコミュニケーションを通じ、観測の最前線に触れる 図3

図3: 「アストロ・デイ」での一コマ。すばる望遠鏡のゆるキャラ「スービー」が大人気。冠をかぶったまま、子供たちは実験や工作など楽しい時間を過ごしました。(クレジット:国立天文台)

これらイベントは、観測所からスタッフが街に飛び出して直接、現地の方々と話して一緒に楽しむもので、「天文の町」ヒロならではの取り組みです。「(天文台の中で) 情報発信をしているだけでは十分ではありません。出かけて行って触れ合うことで自分たちが何をやっているか理解してもらい、良好な関係を保っておくことが大事です」と有本さんは言います。

ほかにも、イミロア天文センターやマウナケア・ビジターステーションなどで行われる天文トークや様々な講演依頼に対応するほか、地元の職場説明会にもブースを出します。ハワイ観測所には装置交換やメンテナンスなどの専門的な仕事をする現地採用の職員も多いため、仕事内容を知ってもらうことも大事なことなのです。

日本の科学館や学校向け普及・教育活動

普及・教育活動は日本国内に対しても行っています。たとえば、スーパーサイエンスハイスクール指定校などでハワイ島に研修に来る高校が多数あります。ハワイ観測所と高校をインターネットで結んだ遠隔授業まで含めると、高校生に対する教育活動は年間約 50 件にも上ります。

ハワイ島ヒロ市内にある山麓施設まで研修に訪れる高校の場合は、単に研究者の講演を聞くだけの体験にならないよう工夫をしています。例えばミニワークショップを開き、生徒たちが調べ学習をした後に発表、その内容に対して研究者や技術者と議論をするなど、生徒が主体的に取り組むことで、理解をより深めるようにします。

日本の科学館にも遠隔講演を行います。たとえば日本科学未来館 (東京都江東区) とは定期的に遠隔講演を行っていましたし、最近は科学技術館 (東京都千代田区) で行われる科学ライブショー「ユニバース」で講演を行っています。ハワイ観測所の研究者が日本出張時に出演することもあれば、ハワイから遠隔講演をすることもあります。


今後 - すばる望遠鏡の成果を総括し、広く伝えたい

情報発信、見学対応、普及・教育などハワイ観測所の広報業務は多岐にわたるなか、少ない人数で活動しています。広報担当サイエンティストの藤原英明さんは研究者として研究しながら、観測所からの情報発信の統括に大忙しですが、研究者だからこそ論文を読み込み公開すべき情報かどうか、何がポイントでどう出せば適切かを判断できます。また研究者の立場から広報手法を練り、実践することもできます。

今後の課題について藤原さんは「すばる望遠鏡が天文学の中でどう活躍してきたかを総括し、広い範囲の人に伝えたい。特にすばる望遠鏡と次世代超大型望遠鏡 TMT との強い連携が期待される今、これはますます重要な意味を持ちます」と言います。情報をより有効に伝える手段としてすばる望遠鏡のウェブサイトやソーシャルメディアをさらに活用し、限られたリソースでも効果的な情報発信を考えています。

また、ハッブル宇宙望遠鏡や NASA、ヨーロッパ南天天文台 ESO が力を入れているように、鑑賞性を重視した天体写真をより積極的に発信したいとも考えています。たとえばすばる望遠鏡で撮影されたデータを、映像制作のプロに画像処理してもらい公開する、という試みを行い、反響を呼びました。

今後は、ソーシャルメディアを活用して広く意見を募り、画像公開などの広報活動に活かすことも計画中です。「どんな天体を撮影してほしいですか?」と Twitter で問いかけたところ、多数の要望が寄せられました。

「今まではこちらが伝えたいことを伝えていましたが、読者の方々のご要望を集約し、それに応じた広報ができるようにしていかなければなりません。広報用画像撮影は双方向性を生かしたケースになるのではないでしょうか」と広報室の林左絵子さんは期待しています。

宇宙ライター林公代の視点 (27) : 双方向のコミュニケーションを通じ、観測の最前線に触れる 図4

図4: 超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam が撮影したアンドロメダ銀河のデータを、天体写真家の上坂浩光さんが画像処理を行ったもの。アンドロメダ銀河が中心から外縁部までさらにくっきりと写し出され、特に銀河円盤の内側にある暗黒帯の構造がよく分かります。(クレジット:上坂浩光/HSC Project/国立天文台)

林公代 (はやし きみよ)

福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

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