ハワイ文化やマウナケアの自然、満天の星空、そして天文台群 ― ハワイ島の子どもが描いたマウナケアが、毎年約4センチの記念コインとなって多くの人々の手に渡ります。ハワイ観測所関係者が、マウナケア天文普及委員会(MKAOC)の毎年恒例行事として始めた「マウナケア・コインコンテスト」は、子どもたちがアートを通じてマウナケアへの理解とつながりを深めることを目的とした取り組みです。
マウナケア・コインコンテストとは
マウナケア・コインコンテストは、ハワイ島の児童・生徒を対象に、MKAOC が毎年実施しているデザインコンテストです。参加者は、ハワイ文化、マウナケアの自然環境、星空や天文台群など、この山が持つ複数の要素を組み合わせてデザインすることが推奨されています。
「このコンテストの目的は、子どもたちがアートを通じてマウナケアの多様な側面を知り、より身近に感じてもらうことです。文化的にも科学的にも、そして祖先とのつながりを考える上でも重要なマウナケアについて理解を深め、この山との強い絆を感じてほしいと願っています」と、2011年にコンテストを立ち上げたハワイ観測所の臼田-佐藤功美子 広報普及専門員は語ります。
応募作品はまず、K(キンダーガーテン)~4年生、5~8年生、9~ 12 年生の3部門に分けられます。天文学、ハワイ文化、自然環境など異なる専門分野の審査員が集まり、各部門の1位、2位、3位を選出します。合計9つの入賞作品は、作者名や学年、学校名などの情報を伏せた状態で最終審査に進みます。最終審査では、一次審査とは別の審査員が先入観なく作品を評価し、全部門を通じた最優秀賞、2位、3位を決定します。
入賞者の表彰式は、毎年5月初旬にヒロのショッピングモールで開催される「アストロ・デー」で行われます。最優秀賞に選ばれた作品はコインとして製作されます。アルミ製のコインは MKAOC のイベントで配布され、ブロンズ製のコインはマウナケア中腹にあるマウナケア・ビジター・インフォメーション・ステーションで販売されます。
コインコンテストの前身 ― 2009年「宇宙ポスターコンテスト」
マウナケア・コインコンテストのきっかけとなったのは、イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイが自作の望遠鏡で初めて宇宙を観測してから 400 周年にあたる 2009年、「世界天文年」の取り組みでした。世界天文年を記念してマウナケア天文台群ではさまざまなイベントを開催しました。その一つが、臼田-佐藤さんが企画・運営した「宇宙ポスターコンテスト」です。「ハワイのスタイルで世界天文年を祝おう」を合言葉に、ハワイ島の子どもたちが、宇宙や天文学とハワイ文化を融合させたポスターを制作しました。アストロ・デーで行われた表彰式には、家族から贈られたレイ(花や植物で作られたハワイの首飾り)や手作りの冠を身につけ、「おめでとう!」と書かれたバルーンを手にした入賞者たちが集まりました。
「全く無名のコンテストにも関わらず、受賞した子どもたちとその家族が本当に喜んでいる姿を見て、『これだ!』と思いました。アートコンテストを通じて、地元の子どもたちや家族とマウナケア天文台群との間に、ポジティブな関係を築けると実感したのです」と臼田-佐藤さんは振り返ります。
その後、普及委員の一人から「マウナケアの記念コインを作ろう」という提案が出た際、臼田-佐藤さんは「それなら、子どもたちを対象としたアートコンテストを開き、そのデザインをコインにしよう」と提案しました。こうして 2011年に誕生したのが、マウナケア・コインコンテストです。臼田-佐藤さんがハワイを離れていた間は、MKAOC 委員長を務めるカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡のネイディン・マンセットさんがコンテストを引き継ぎ、その発展に尽力しました。2023年からは、ハワイに戻った臼田-佐藤さんが再びコンテストの運営を担っています。
コンテスト作品制作を授業に取り入れる美術教員
2026年に第 16 回を迎えたマウナケア・コインコンテストは、年々地域への広がりを見せています。毎年、学校をあげて応募してくれる小学校があるほか、「デザインを考えるために、授業で生徒たちと一緒にマウナケアについて学びました」と語る教員もいます。
コンテストは単なる作品募集の枠を超え、マウナケアについて学ぶ教育活動の一環として活用されるようになっています。そうした中、2022年以降、最優秀賞をはじめ多くの入賞者を送り出しているパホア高校の美術教員、ジーン・マクラリーさんにお話を伺う機会を得ました。

図2:パホア高校の生徒による歴代の最優秀賞受賞コインデザイン。(クレジット:Luche Angeline Mardie Asuncion Ganot, Lindsey Nicole Julian, Ros Haleyah Mari Asuncion Ganot, Joefrey Trez Canete, Maunakea Coin Contest Committee, NAOJ)
マクラリーさんは毎年、できるだけ早い時期に「デッサンと絵画」の授業の中でコインコンテストの作品制作に着手させています。「私たちは、この課題を本格的な研究プロジェクトとして進めています。生徒たちは星座やハワイの伝承、在来種の動植物、そしてハワイの文化や自然環境に関わるさまざまなテーマについて調べます。さらに過去の受賞作品や審査員のコメントを参考にしながら、どのようなデザインが高く評価されるのかを学びます。その上で、デザインする際には植物や動物、ハワイの伝説、天文学などの細部にまで目を向けるよう、生徒たちにアドバイスしています」とマクラリーさんは説明します。
生徒たちはデザインの下書きを制作した後、しばらく時間をおき、新学期が始まる1月に改めて見直して作品を仕上げます。こうして数か月にわたって作品を再検討し、改良を重ねることで、美術表現の技術だけでなく、マウナケアへの理解も深めていくのです。
マクラリーさんは、このコンテストが芸術教育の面でも重要な役割を果たしていると強調します。「この課題は、生徒たちに『誰に向けて作品を作るのか』を考えさせる機会にもなっています。美術学校への出願や展覧会への応募、依頼作品の制作など、芸術家は常に見る人を意識して作品を制作します。コインコンテストは、若い芸術家たちが相手を意識した作品づくりを学ぶ貴重な機会になっているのです」
マクラリーさんによれば、コインコンテストはマウナケアについて学ぶきっかけを提供するだけでなく、調査、構想、表現という創作のプロセスを通して、生徒たちの芸術的な成長を促す教育の場にもなっているそうです。
マクラリーさんの美術教室には、生徒一人ひとりの可能性を信じ、その挑戦を励ましながら自信と創造性を育む教育があります。そうした教員の支えが、生徒たちの成長を後押しし、多くの優れた作品や受賞者を生み出す原動力となっているのでしょう。
マウナケア・コインコンテストは、子どもたちがマウナケアの多様な価値について学び、自らの視点で表現する教育の場であり、地域社会と天文台群を結ぶ架け橋にもなっています。これからもこのコンテストは、学校や家族、そして天文台群をつなぎながら、新たな世代へと受け継がれていくことでしょう。
謝辞:ジーン・マクラリーさんへのオンラインインタビューは、マウナケア天文台群広報担当のパール・トゥレイさんと共同で実施しました。マクラリーさんのインタビュー全文は、マウナケア天文台群ウェブサイトに「ストーリー」記事として掲載されています。




