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すばる望遠鏡を支える「縁の下の力持ち」 ― CIAX チームが国立天文台長賞(技術開発部門)を受賞

2026年2月16日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2026年2月19日

すばる望遠鏡のカセグレン焦点観測装置自動交換システム「CIAX(サイアックス)」を開発・運用してきたチームが、その長年にわたる技術開発と安定運用への貢献により、令和7年度国立天文台長賞(技術開発部門)を受賞しました。国立天文台長賞は、研究・教育・技術開発・事務など、天文台の活動全般において顕著な業績を挙げた個人またはグループに贈られる賞です。今回の受賞は、最先端の天文学研究を足元から支えてきた技術の価値が高く評価されたものです。

すばる望遠鏡を支える「縁の下の力持ち」 ― CIAX チームが国立天文台長賞(技術開発部門)を受賞 図

図1:2026年1月28日に行われた授賞式にて、左から、土居守 天文台長と CIAX チームの鳥居泰男さん、小俣孝司さん、三上良孝さん、臼田知史さん。(クレジット:国立天文台)

多彩な観測研究を支える、すばる望遠鏡の仕組み

すばる望遠鏡の大きな特長の一つは、多様な観測装置を備え、可視光から赤外線まで、さまざまな波長や観測方法で宇宙を調べられる点にあります。その夜の観測計画に応じて、どの装置を使うかを決め、日中に「デイクルー」と呼ばれるスタッフが観測に必要な準備を行います。

すばる望遠鏡の4焦点のうちの1つ、カセグレン焦点に取り付けられる観測装置は、約2メートル四方、重さは約2トン、電気系統の配線や冷却用の配管なども備えた、複雑な装置です。この巨大な観測装置を、安全かつ迅速に交換するために開発されたのが、CIAX(Cassegrain Instrument Auto eXchanger)です。CIAX は、観測装置を運ぶロボット台車として、装置の取り付け・取り外しを担っています。

世界でも類を見ない、自動交換システム

多くの大型望遠鏡はカセグレン焦点を備えていますが、CIAX のように観測装置を自動で交換できる仕組みを持つのは、すばる望遠鏡だけです。多様な研究テーマに応えるため、複数の観測装置を柔軟に使い分ける必要がある―その要請から生まれた、すばる望遠鏡独自のシステムと言えます。

CIAX の開発は、3つの大きな課題から始まりました。1つ目は、従来の装置交換には多くの人手と時間がかかっていたこと。2つ目は、すばる望遠鏡のあるマウナケア山頂域が、標高約 4200 メートルという厳しい作業環境であること。そして3つ目は、観測装置を 0.5 ミリメートルという高精度で望遠鏡の焦点に取り付ける必要があったことです。ドーム内の限られた空間や重量制限など、数々の条件を満たしながら、確実で安全な作業を実現しなければなりませんでした。

これらの課題を解決するため、CIAX チームは、遠隔操作、さらにはコマンド一つで一連の作業を完了する自動化機能、作業毎に安全を確認するシーケンスの確立など、当時としては画期的な観測装置交換システムを開発しました。

「作って終わり」ではなかった、運用という本番

CIAX は、完成した瞬間がゴールではありませんでした。実際の交換作業から得られる経験や、不具合の報告をもとに、制御の流れや監視方法、作業手順を見直し続け、まさに「育てながら」運用されてきました。

CIAX の開発から運用まで携わってきた小俣孝司さんは、「CIAX の開発では、技術者に大きな責任と裁量が託されました。設計、実装、運用、改良を一体で学ぶことができたのは、私自身にとっても貴重な経験でした」と振り返ります。

運用の中では、想定外の出来事も起こります。たとえば当初は無線 LAN で自走台車を制御する設計でしたが、マウナケア山頂域での電波観測への影響を避けるため、有線 LAN へ変更する必要がありました。試行錯誤の試験では、釣り竿を使って有線 LAN を引き回したこともありました。また、経年劣化によるセンサー異常などにも直面しましたが、夜間観測を止めないように、現場で工夫を重ねながら、原因究明と応急対応をおこない、その結果をもとに恒久対策を進めました。

こうした積み重ねにより、「どの条件で、何が起こりやすいのか」という知見が蓄積され、デイクルーや現場マネージャーへと確実に引き継がれてきました。現場の気づきを反映し、試し、直し、また試す―その地道な繰り返しが、現在の安定運用を支えています。

科学を支える「当たり前」をつくる技術

こうして、CIAX はすばる望遠鏡を安定して運用する中で、欠かせない役割を果たしています。他に類を見ない自動交換システムを独自に開発し、長年にわたり育て上げてきた功績が評価され、CIAX チームに国立天文台長賞が授与されました。

授賞にあたり、小俣さんは、「今回の受賞を通じてお伝えしたいのは、科学の華やかな成果は、「動いて当たり前」のインフラに支えられているという事実です」と語ります。

すばる望遠鏡を支える「縁の下の力持ち」 ― CIAX チームが国立天文台長賞(技術開発部門)を受賞 図6

図2:すばる望遠鏡のカセグレン焦点に取り付けられた観測装置に向って進む CIAX のロボット台車(クレジット:国立天文台)

CIAXチームについて

CIAX は天文台の職員を中心に開発・改良が進められてきました。

チームメンバー:
小俣孝司、臼田知史、湯谷正美、鳥居泰男、三上良孝、西野徹雄、野口猛、西村徹郎

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