2025年10月11日、総合研究大学院大学(総研大)の大学院生が、すばる望遠鏡を用いた観測実習を行いました。ハワイ観測所スタッフのサポートを受けながら、学生自身が発案した観測テーマにもとづき、世界最高水準の天体観測に挑戦しました。
今回の実習には9名の学生が参加しました。すばる望遠鏡の装置運用スケジュールにあわせ、高分散分光器「HDS」と多天体近赤外撮像分光装置「MOIRCS」の2つの観測装置を使用することが可能だったため、学生は2つのチームに分かれて観測を実施しました。
HDS チームは、可視光で非常に高い波長分解能をもつ HDS の特長を生かした2件の観測を計画しました。1つ目は、原始惑星系円盤の中に存在すると考えられる太陽系外惑星候補の検出です。2つ目は、近年遠方宇宙で見つかっている「リトル・レッド・ドット(Little Red Dots)」と呼ばれる天体に対応する可能性のある、近傍天体の物理量を測定する試みでした。
一方、MOIRCS チームは近赤外線での高感度な撮像能力を活用した3件の観測を提案しました。近傍銀河で近年出現した2つの超新星を対象にダストの性質を調べる観測、近傍銀河周辺に広がる水素分子の淡い輝線を捉える観測、そして近傍銀河中心部の恒星分布から銀河構造を分類する観測です。
観測に向けて、学生たちは役割を分担して準備を進めました。観測手順を記述したスクリプトファイルの作成、サポートアストロノマーとの調整、観測ログの記録、取得したデータをその場で確認する「クイックルック」、天候や装置の状態を踏まえて最終判断を行うチームリーダーなどの役割です。
観測当日の夕方は薄雲が広がり、天候が心配されましたが、日没後には雲が消え、ほぼ快晴となりました。大気の安定度を示すシーイングも 0.6 秒角と良好で、マウナケアらしい絶好の観測条件に恵まれました。
HDS の観測では、装置由来のノイズを抑える工夫を取り入れながら高精度の分光観測を実施し、水素の輝線を検出することに成功しました。想定外の特徴がデータに現れる場面もあり、観測の奥深さを実感する機会となりました。MOIRCS の観測でも、淡い分子雲や銀河中心部の恒星分布を捉えるなど、概ね期待通りのデータが得られました。一方で、超新星の同定が難しかったり、観測時間が十分に確保できなかったりと、実地ならではの課題も経験しました。
観測中には装置トラブルも発生しましたが、サポートアストロノマーを中心としたハワイ観測所スタッフの迅速な対応により、観測は無事に再開されました。学生たちは、望遠鏡運用の難しさと同時に、チームで問題を乗り越える観測の面白さを学びました。
翌日はすばる望遠鏡の見学が行われ、学生たちは前夜に使用した観測装置が実際に望遠鏡に取り付けられている様子を間近で見学しました。さらに、宮崎聡・ハワイ観測所長の講義を通じて、多様な焦点をもつすばる望遠鏡の特徴と、その運用を支える技術や人材の重要性を学びました。
今回の総研大観測実習は3泊5日の日程で行われ、半夜という限られた時間ながら、5件すべての観測テーマで貴重なデータを取得することができました。帰国後、学生たちはこれらのデータを解析し、どのような科学的成果が得られるのかに挑みます。
すばる望遠鏡を使ったこの観測実習は、総研大・先端学術院 天文科学コースの講義科目の一つです。受講する学生は、観測当日だけでなく、事前の準備から観測後のデータ整約まで、観測研究の一連の流れを体験します。このような実践的な教育は、研究機関が次世代の研究者を育成する上で果たすべき重要な役割の1つです。ハワイ観測所とそのスタッフは、この取り組みに力を注いでいます。







