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鮮やかに捉えられた天の川銀河の最果ての星形成

2024年9月12日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2024年11月6日

岐阜大学と国立天文台の研究者を中心とする研究チームが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測により、天の川銀河の最果てにある星形成領域の姿を世界で初めて鮮明に捉えることに成功しました。この研究は、すばる望遠鏡による観測結果が NASA の研究者の関心を引き、国際的な共同研究として実を結んだものです。

鮮やかに捉えられた天の川銀河の最果ての星形成 図

図1:天の川銀河の最外縁部にある星形成領域「Digel Cloud 2S」。生まれて間もない若い星々と、それらから放出された物質が複数のジェットとしてあちこちに伸びている様子が捉えられています。星形成領域を取り囲む星雲(赤色で表されている)に加えて、背景にある遠方の銀河も写っています。この画像は JWST の近赤外線と中間赤外線の観測装置(NIRCam、MIRI)で得られました(Program ID: 1237)。高解像度画像はこちら(5 MB)。(クレジット:NASA, ESA, CSA, STScI, Michael Ressler (NASA-JPL))

天の川銀河の最外縁部(注1)は、太陽系の周辺とは異なる環境を持つことが知られています。特に星間物質に含まれる重い元素の割合が、太陽系近傍の5分の1から 10 分の1と少ないことから、誕生から間もない頃の天の川銀河の環境と似通っていると考えられています。こういった始原的な環境下ではどのように星が生まれるのか、太陽系近傍での星形成との違いがあるのか、これらの謎に挑むため、研究チームはすばる望遠鏡の近赤外線観測装置 MOIRCS と IRCS を用いた研究を進めてきました(関連研究として、2023年7月のすばる望遠鏡 観測成果を参照ください)。

すばる望遠鏡の優れた感度のおかげで、研究チームは、天の川銀河の最外縁部で複数の星形成領域を検出することに成功しました。その中で最遠方に位置するのが Digel Cloud (ディーゲル クラウド)1、2と呼ばれる2つの分子雲に付随する星形成領域です。天の川銀河の中心から、この天体までの距離は6万~7万光年です。太陽系からも4万~5万光年の距離にあります。このように遠方にある星形成領域ですが、すばる望遠鏡によって、生まれたばかりの多くの若い星が観測されました(注2)。

この結果に注目した NASA のジェット推進研究所のマイケル・レスラー博士が研究チームに共同研究を提案した結果、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた観測が実施されました。その結果、さらに多くの若い星が検出されただけでなく、星の進化の中でも最も初期の段階にある天体(Class 0 天体)の候補や、若い星から噴き出した複数のジェット、星形成領域を取り囲む特徴的な星間ダストの構造(星雲)などを、鮮明に捉えることができました(図1)。

「これほど活発な星形成や壮大なジェットを見ることができるとは予想していませんでした」と論文の主著者の泉奈都子博士(岐阜大学/国立天文台)は、JWST の画像を見たときの驚きを語ります。共同研究者のレスラー博士も「私が驚きと感動を覚えたのは、この星団からあらゆる方向に複数のジェットが放たれていることです。まるで花火のように、あちらこちらに光が飛び散っているかのようです」と語ります。

天の川銀河の最外縁部で、このような壮大なジェット構造が鮮明に捉えられたのは初めてのことです。研究チームは、領域内の個々の星の性質に加えて、ジェットや星間ダストの構造を詳細に検証することにより、天の川銀河の形成初期にどのような星形成が起こっていたのかを解明したいと考えています。

鮮やかに捉えられた天の川銀河の最果ての星形成 図2

図2:すばる望遠鏡(左)(クレジット:国立天文台)と打ち上げ後の JWST の想像図(右)(クレジット:NASA)

本研究は『アストロノミカル・ジャーナル』に 2024年7月10日付で掲載されました(Izumi et al. “Overview Results of JWST Observations of Star-forming Clusters in the Extreme Outer Galaxy”)。


(注1)本研究では、天の川銀河の中心から5万8千光年以上離れた領域を「最外縁部(Extreme Outer Galaxy)」と呼んでいます。参考までに、天の川銀河の銀河円盤の半径は5万~7万光年とされています。また、太陽系は天の川銀河の中心から2万6千光年の距離にあります。

(注2)すばる望遠鏡を用いた観測は次の論文を含む5本の論文で発表されています。
Yasui et al. 2009 “The Lifetime of Protoplanetary Disks in a Low-metallicity Environment
Izumi et al. 2014 “Discovery of Star Formation in the Extreme Outer Galaxy Possibly Induced by a High-velocity Cloud Impact

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